「弁護士バー」問題

産経ニュース(ネット版)に興味深い記事が上がっている。

「弁護士バー」身内が待った 「民間との仲介業は法に抵触」
「弁護士がバーテンダーになって酒を振る舞いながら法律相談もする「弁護士バー」。そんな店舗を東京都内の弁護士が飲食事業者らと共同で計画したところ、弁護士会から“待った”がかかる事態となっている。「弁護士資格を持たない者が報酬目的で法律事務に参入するのは違法」というのが弁護士会の言い分。近く注意の文書を出すという。一方、弁護士側は「法律違反には当たらない」と反発、何とか店をオープンさせたい考えだ。」

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/091129/trl0911292206003-n1.htm

記事によると出店を計画しているのは、二弁所属の29歳の若手弁護士だということで、友人のシステム開発会社役員と共同で出店母体を立ち上げ、「普段から一般の人が弁護士と気軽に交流できる場が必要」というコンセプトで出店を準備していた、ということである。


数が増えた、とはいえ、依然として弁護士と一般の人々の間の敷居は高い。ゆえに、「バー」を媒介として、新たな需要(しかも気軽に弁護士事務所を訪れるきっかけも暇もないサラリーマン層)を開拓しようとするこの試みには、見るべきものがあると思われる。


だが、何か新しい試みを始めようとすると難癖を付けるのがギルド社会の悪いところ。今回もご多分に漏れず横槍が入った。


確かに、

「(バーは)協会と飲食事業者による共同経営とし収入は折半。従業員として常駐する弁護士は無報酬で、客の要請があれば別室などで法律相談を行い、契約に至れば弁護士報酬を受け取る構想だった。その際、弁護士は別室の利用料などを協会と飲食事業者に定期的に支払うことにしていた。」(強調筆者)

というシステムは、単に弁護士がガード下の立ち飲み屋で名刺配って、「今度相談乗ります」という営業をするのと比べれば、飲食事業者側の関与度合いが高いように思われるから、弁護士法72条に抵触する可能性は一応疑ってかかる必要があるだろう。


しかし、

「二弁の味岡良行副会長は「顧客が弁護士に法律相談をすることを容易にする時点で事実上の仲介業務」と指摘。店がオープンした場合には「それなりの措置を取らなければならない」と、弁護士法違反罪での刑事告発も示唆している。」(強調筆者)

という弁護士会側のコメントはいかがなものだろう。


この言い方だと、法律事務所の広告を掲載している代理店だって、“仲介業務”をやっているという解釈になりかねないわけで、これから弁護士がどんどん世の中の需要をすくいあげていかないといけない、という時代にあっては、あまりに杓子定規でディフェンシブ過ぎる解釈、というべきなのではないだろうか*1


当の弁護士は、

「あくまでも弁護士と顧客が直接やり取りをする場の提供であって、法律事務の仲介にはあたらない。何がだめなのか基準をはっきりと示すべきだ」と反論、何とか店を開きたい考えだ。

ということだから、これからまた一悶着あるのかもしれないが、できれば、新しいことにチャレンジしようとしている若い芽を、無闇に摘むような真似はしないことをお勧めしたいところである*2

*1:そもそも弁護士会のお偉方にはそういう発想自体がないのかもしれないけど(苦笑)。

*2:現状を“黒”ないし“グレー”と考えるのであれば、現在のスキームに近い形で“白”になる方法を、ルールを管理する側で提案すべきであって、それをせずにゼロか一か、という発想で対応するのは、評判の悪い我が国の(かつての)役人の対応と同じである(今は行政も結構融通が利くようになってきているから、弁護士会よりもむしろ柔軟かもしれない(笑))。そういうことをやっていると、結局いつか自分のところに跳ね返ってきて、自らの組織を滅ぼすだけだ。

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