「弁護士バー」とロクラク事件

先月くらいから話題に上り始めた「弁護士バー」。


二弁が本当に「注意文書を出しちゃった」(苦笑)こともあって、最近では多くのネットニュースで取り上げられるような話題になってしまった。


弁護士会としては、弁護士法72条と職務基本規程第11条ないし第13条あたりを根拠に、あくまで非弁提携禁止の原則を盾に止めに行く構えを見せているようだが、その割には出てくるコメントが微妙にそこからズレたものだったりする。


東京新聞のWeb(http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2009120902000220.html)には、味岡良行副会長のコメントとして、

「経営者に払う料金が顧客の着手金などに上乗せされ、依頼者に余分な負担を強いる危険がある。トラブルが発生してもバーには解決能力がない」

などというのが載せられているが、イマイチ意味がよくわからない。


今公表されている計画による限り、「バー」はあくまで酒食を提供しながら、弁護士と接する「場」を提供するための存在に過ぎず、法律相談や委任契約はあくまでバーの経営者とは独立して各弁護士がそれぞれ受ける、ということだから、相談、委任に伴うトラブルが発生したところで、それを「バー」が解決する必要はないし、普通の法律事務所だって、広告費なり、事務所の賃料なり、と、いろいろと業務に伴う出費はあるわけだから、今回のケースだけ取り上げて「料金が着手金などに上乗せされるリスク」を論じるのは実に奇妙な話だ*1


結局のところ、

「「バー」で法律相談なんて、軽いノリで仕事を受けるのは、弁護士の品位にかかわる」

といった古臭い発想や、

「そもそも登録3年目の若造が、こんな目立つ企画を打ち出すなんて生意気だ」

的な、悪しき業界ヒエラルキーに則った発想から、止めにかかっているんじゃないか、という憶測も当然出てきてしまうわけで、それゆえ、

弁護士会の指摘は説得力がなく、ただちに違法と決めつけるべきではない。法的トラブルを抱えた潜在的顧客は多く、弁護士の敷居を低くして国民に近づこうという司法制度改革の理念にも沿う。自ら知恵を出して職域拡大を目指す若手を、ベテランが押さえつけようとする構図に映る。」(片山善博・慶応大法学部教授)

なんてアンチコメントも出されてしまうことになる。


個人的には、「バー」の経営と弁護士業務が切り離されていることを明確にするために、経営母体となる団体には、弁護士が入らない形にした方が良いと思うし、「バー」の名前に「弁護士」とか「法律」とかを露骨に入れるようなことは避けた方が賢明だと思うが*2、そこまで譲歩しても弁護士会が譲らないとすれば、それはもはや嫌がらせと言われても仕方ないだろう。


賛同している若手弁護士は、外岡氏のほかにも決して少なくない数いるようだから、世論をバックに付けて、徹底的に争ってみるのも一考だと思う*3




なお、依頼者と弁護士を引き合わせるサービスを提供をしている「バー」の経営主体が弁護士法に違反するか、という問題は、

「ユーザーの指示に応じてテレビ番組を録画するサービスを提供しているシステム会社が、著作権法に違反するか」

という問題と何となく似ているような気がするのは筆者だけだろうか。


いずれも、本来適法な行為(前者は依頼者・弁護士間の相談、委任、後者は個人ユーザーによる私的複製)に、第三者が関与することによって、その行為の主体が変わって、サービス全体が違法になるのではないか?という点が問題とされている。


そして、そこで争っているのは、あくまでユーザーの利便性向上のために、「場」(環境)を整えるに過ぎない、と主張する新サービス導入側と、関与者を行為主体とみてサービス全体の禁圧を図る古典的な“権利者”だ。


今年「ロクラク2」に関して、サービス提供者勝訴の判決が出たことは記憶に新しいところなわけで、もし、「弁護士バー」をめぐって、若手弁護士側が本気で反論するつもりなのであれば、ダメ元で一応、ロクラク2の知財高裁の判決でも読まれておくことをお勧めしたいと思う(笑)。

*1:世の中には、立地の良いビルに入居してクライアントを集めようとする法律事務所がごまんとあるし、逆に高名な法律事務所がテナントに入っていることを売りにしているビルも、丸の内だの六本木だのに行けばそれなりにあるのだけれど、だからといって、「ビル会社に支払う高額な賃料が顧客の着手金などに上乗せされ、依頼者に余分な負担を強いる危険がある」なんて指摘が出た、という話は聞いたことがない。

*2:あと、「広告代行」の名目で対価を支払うのはちょっと微妙な感じなので、あくまで、店舗内での相談対応時間に応じてブースの時間貸し賃料を支払う、という形で整理した方が良いとは思う。

*3:もちろん、業界では絶対的権力を握っている弁護士会に楯付いて、懲戒処分まで食らうリスクを考えれば、そこまで信念をもって事に臨むのは、かなり勇気のいることだと思う。仮にその手前で譲歩なり脱落なりしてしまったとしても、誰も彼/彼女たちを責めることはできないだろう。

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