あっと驚く判決。

たまたま見つけた1件の判決がある。


事件名が「所有権確認等請求事件」(本訴)となっているので、一瞬読み飛ばしてしまいそうな判決なのだが、良く読むと、「えっ」と驚いてしまうような比較的大きな(珍しい)判決。


判決が出されてからだいぶ時間が経っているにもかかわらず、これまで新聞等で大きく報道されたことはないと思われるこの事件を簡単に紹介しておくことにしたい。

東京地判平成22年3月24日(H20(ワ)第23879号、H21(ワ)1192号)*1

本訴原告・反訴被告:住友重機械工業株式会社
本訴被告:JFEエンジニアリング株式会社、日立造船株式会社、カワサキプラントシステムズ株式会社
本訴被告・反訴原告:スチールプランテック株式会社


請求の趣旨だけでもかなり複雑になっていて、しかも本訴・反訴が入り組んでいるため、判決主文を読み解くだけでも結構大変な事件なのであるが、概要から簡単にまとめると以下のようになる。

原告、被告JFE、被告日立造船の3社は、製鉄プラント事業の統合を目的として、平成13年2月6日に合弁契約を締結した。
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平成13年3月、新会社として被告プランテックが設立され、段階的に各社のプラント事業部門が移管されるとともに、平成15年には川崎重工業(後にプラント事業が分離され被告カワサキとなる)も加わった4社合弁会社として運営されることになった。
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原告は、「本来母体4社すべての承認を得るべき「重要事項」であるにもかかわらず、平成19年6月の被告プランテックの取締役会において原告出身取締役が反対した議案(役員改選、執行役員制度導入等)が可決されたこと」が契約違反にあたる、として平成20年8月に4社間の合弁契約・運営契約を解除する旨の通知を行った。
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原告は、本訴において、被告らの債務不履行解除が認められることを前提に、(1)被告プランテックへの出資額相当の17億452万円の損害賠償、(2)原告が移転し又は移転を約した特許権等の移転登録義務の不存在確認、(3)原告の競業避止義務不存在確認等を求めた。
 ↓
一方、被告プランテックは反訴を提起し、(1)原告に特許権等の移転登録手続きを求めるとともに、合弁事業に関する業務について、(2)原告及びその子会社(住友重機械テクノフォート株式会社)の競業禁止を求めている。

で、「結論は?」といえば、実に訴訟費用の「1000分の999」を本訴原告・反訴被告が負担せよ、という判決主文の一項が物語るように*2、本訴原告の完敗。


本訴原告の請求はほぼ棄却され、しかも、反訴で請求されていた特許権の移転登録手続請求が認められてしまった上に、競業禁止請求(特に平成22年4月1日以降)の一部についても認められることになってしまったのである。


裁判所が上記のように判断した理由を知りたい方には、直接判決文を当たっていただくことをお勧めしたいところだが、

1)契約解釈*3や損害等、原告側の法的主張にかなり無理があったこと。
2)いったん「主張立証を尽くした」と宣言して和解協議のテーブルに付き、それが決裂した後にさらに相当な分量(と推察される)法的主張立証を行おうとしたことが、裁判所の心証を害したこと(その結果として、なんと、裁判所は本訴被告による、「時機に後れた攻撃防御方法」(民訴法157条1項)の主張を認め、職権により主張及び証拠の提出を却下した)*4

というのが、ざっと読んだ自分の印象である。


判決の冒頭部分を見ればわかるように、本訴原告側には、著名弁護士を筆頭とする著名事務所の弁護士がずらりと名を連ねているのだが、なぜこんな展開&結末になってしまったのか*5


当の本訴原告会社のHP等を見ても、「本件判決が業績に与える影響」云々については何らリリースされていないようであり、判決の見かけ上の厳しさの割には実際のダメージは軽微なのかもしれないが、背景等も含めていろいろと気になるところである。


おそらくは、この先に予定されているであろう知財高裁での第二ラウンド。今回敗北を喫した側の会社&代理人の次なる戦略(訴訟上もビジネス上も)に注目してみたい。

*1:第29部・清水節裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100420145148.pdf

*2:こんな極端な(というか嫌みな?)訴訟費用分担を見るのはヨミウリオンライン事件以来かもしれない(笑)。

*3:特に原告が「債務不履行」あり、と主張する根拠にしていた「重要事項」規定の解釈には、文理上ちょっと難しい面があるように思えてならない。

*4:判決文を読んでいくと、「仮に・・・」と却下した主張証拠に基づく判断も行っている(結論は変わらないが)ので、実質的な影響はないというべきなのかもしれないが、裁判官がご機嫌斜めになっている様子が伝わってくるような判決であるのは間違いない(苦笑)。

*5:そもそもこれだけの大企業同士の訴訟で、競業禁止まで判決で命じられてしまうのはかなり珍しいことだと思う。普通ならその前に無難なところで和解の道筋を付けるはず・・・。

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