日経紙の夕刊に興味深い記事が載っている。
「会社の中で弁護士としての専門知識や経験を生かす「企業内弁護士」の採用について、企業の9割以上が消極的なことが17日までに、日弁連の調査で分かった。」
「調査は昨年11月、上場企業を中心に5215社に実施。1196社から回答があり、このほど発行した弁護士白書で紹介している。」
「うち、企業内弁護士を採用しているのは47社で、「募集中か採用予定」の25社を合わせても1割以下にとどまった。残りの大半にあたる1112社が「消極的」「関心はあるが具体的検討はしていない」「予定はないが検討中」と答えた。」
「理由として、4社に3社が「顧問弁護士で十分」を挙げ、「法務部などで十分」「報酬が問題」「やってもらう仕事が
ない」が続いた。」
(日本経済新聞2010年12月17日付夕刊・第14面)
見出しにもあるとおり、「企業が二の足を踏んでいる」というムードがプンプン漂ってくるこの記事。
だが、この記事を見ただけでも、「そうか・・・?」と思えるところはいくつかある。
例えば、採用、採用予定以外の「1112社」のうち、「予定はないが検討中」と回答した会社の中には、
「弁護士」という資格に特化した採用はしていないが、採用候補者の中に優れた有資格者がいれば迷いなく採用する」
という会社も相当数あるはずだ。
「具体的検討はしていない」という会社だって、採用の機会に際して、目の前に有資格者が現れれば採用する会社は決して少なくないだろう(というか、そういう会社は結構ある)。
そういった会社をまとめて、「消極的」というカテゴリーに分類するのはいかがなものか、と思う。
また、この記事は、弁護士の採用ないし採用予定の会社が72社にとどまったことをもって、「企業の理解がない」という結論を導こうとしているように見えるのだが、そもそも資格の有無にかかわらず、
「法務部門専属の担当者の採用」
を行っている会社が、調査対象となった5215社(アンケートに回答した1196社)の中にどれだけあるというのだろう?
相当規模が大きく、誰でも名前を知っているような会社でも、新卒や中途採用の枠で「法務」という職種を限定して、採用を行うケースはそんなに多くない。
グローバル展開している大手メーカーや商社ならともかく、国内市場に重点を置いて事業を行っているような会社だと、幅広いローテーションを経験し、何年か経ったところで初めて法務専任者のポジションに就く、というパターンの方がむしろ一般的だし、規模が小さい会社であれば業種を問わず専任担当者がいなかったり、稀少な固定メンバーで長年回していたりするから、誰かが抜けない限り、「法務」の求人を行うタイミングはめぐって来ない。
そのような状況で、全ての会社が「弁護士資格保有者」に特化した採用を、直ちに行えるはずもなかろう*1。
自分が知る限り、法務部門がコンスタントに募集をかけているような会社は、せいぜい200社あるかないかくらいだから、「70社以上」も採用ないし採用を予定している、と回答している、というのはむしろ(多いという意味で)驚きの部類に入るし、ここ最近の動きを見ていると、まがりなりにも「法務部門としての人事運用」が一応定着しているような会社では、かなりの割合で現に弁護士を採用している、という状況もある。
これで「二の足」・・・なんて言われてしまうと、企業サイドとしても困ってしまうだろう。
なお、7月の時点で「435人」と発表されている「企業内弁護士」の数は、新63期の修習修了というタイミングを経て、年が明ければ500人を優に超えることになるだろうし、あと2,3年も経たないうちに、1000人に達することになるだろうと思われる。
そうなったときに、「受け入れ」を行った企業サイドからどんな声が寄せられるのか・・・。
真面目に企業への就職支援に努めている日弁連の担当者にとっては、今、「理解を得るために」行っている苦労よりも、遥かに対応に苦労させられるような状況が生じ得るのではないか、と個人的には思うところである*2。