再びの大逆転劇〜JASRAC公取委審決取消訴訟での波乱

以前、公取委の逆転勝利審決濃厚、というサプライズニュースが飛び込んできたのは、1年半以上も前のことだった*1

それ以降、昨年6月に審決が出され*2、被審人ではない株式会社イーライセンスが果敢に審決取消訴訟を提起した、というところまでは一応フォローしていたのだが、日々の慌ただしさもあって何となく記憶が薄れていた頃に、衝撃的なニュースが再び飛び込んできた。

「テレビ番組などで使われる楽曲の著作権管理事業を巡り、日本音楽著作権協会JASRAC)の契約方法が同業他社の新規参入を妨げているかが争われた訴訟の判決が1日、東京高裁であった。飯村敏明裁判長は「他の事業者を排除する効果がある」と認定。独占禁止法に違反しないとした昨年の公正取引委員会の審決を取り消した。」(日本経済新聞2013年11月2日付け朝刊・第2面)

このニュースを一読した時に、驚いたことはいろいろある。

そもそも、本件は、公取委の審決の直接の名宛人ではなかったイーライセンスが提起した取消訴訟で、果たして本案審理まで行くかどうか、という話もあったのに、明確に実体面まで踏み込んだ判決が出された、というのが一つ。

二つ目は、独禁法マターに関しては極めて高度な専門性を有する、とされる公取委が、長期にわたる審理*3の末、自ら出した排除措置命令をひっくり返す、という苦渋の判断をしたにもかかわらず、その審決をさらに裁判所がひっくり返したということが、二つ目の驚き*4

そして、最後のサプライズは、裁判長が飯村敏明・知財高裁所長であること(笑)*5

冷静に考えれば、「知財高裁」といっても、あくまで東京高裁内の「支部」に過ぎないわけで、おそらく飯村所長も、職制上は「東京高等裁判所」という組織に属することになっているのだろうから、独禁法*6第86条、第87条に基づいて合議体を組む時に、お名前が挙がっても不思議ではないのかもしれないが、独禁法上の問題であると同時に、著作権管理事業を巡る法制度とビジネスのあり方が問われたこの事件に、知財ムラの頂点におられる飯村所長がかかわった、というのは、何とも意義深いものがある、と言わざるを得ないだろう。


・・・で、高裁が下した判断が妥当かどうか、という評価は、本エントリーを書いている時点で、判決文そのものに接していないため、ここでは留保しておくことにしたい。

新聞記事の中では、判決が、

「経費削減の観点から、放送局側が追加負担の要らないJASRACの楽曲を選択するのは自然だ」
包括契約は新規参入を著しく困難にした」

という判断を示したことが強調されているが、同時に、独禁法違反の要件該当性については判断せず、「公取委に差し戻した」ということも報じられている。

裁判所で審決が取り消された、といっても、それで全てが終わるわけではなく、再度、その内容に従って処分庁で審決をしなければならない、というのは、公取委特許庁と同じなのであるが、この記事の書きぶりからすると、おそらく東京高裁は、独禁法第82条ではなく、第83条の規定の方を使って差し戻した(以下条文参照)、ということなのだろうから、今後の展開がどうなるかは、今回高裁が示した判断の内容とその射程を正確に検討しないと何とも言えないところはある。

第82条 裁判所は、公正取引委員会の審決が、次の各号のいずれかに該当する場合には、これを取り消すことができる。
一 審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がない場合
二 審決が憲法その他の法令に違反する場合
2 公正取引委員会は、審決(第六十六条の規定によるものに限る。)の取消しの判決が確定したときは、判決の趣旨に従い、改めて審判請求に対する審決をしなければならない。
第83条 裁判所は、公正取引委員会の審決(第67条及び第70条の12第1項の規定によるものに限る。)を取り消すべき場合において、さらに審判をさせる必要があると認めるときは、その理由を示して事件を公正取引委員会に差し戻すことができる。

昨年、公取委が取消審決を出した時に、「それみたことか」とばかりに、弁護団が激しい公取委批判を展開した*7JASRACのこと、今回、イーライセンスが提起した取消訴訟においても、行訴法22条1項に基づいて訴訟参加したそうで、判決と同時に、立派な“当事者”として声明を発表している(http://www.jasrac.or.jp/release/13/11_1.html))。

それゆえ、本件は、再度公取委の審判で審理される前に、最高裁に上告(ないし上告受理申立て)され、第2ラウンドの判断を待つことにることになるのだろうが、JASRACが“主役”になっているこの事案は、純粋な競争法プロパーの問題にとどまるものではなく、「著作権の信託譲渡のスキームを活用した独占的集中管理のメリットを(管理側・利用側双方が)享受すること」がどこまで許容されるのか、ということにも関わってくる問題だと思えるだけに、今後予想されるファイナルジャッジに向けて、独禁ムラからの声だけではなく、知財ムラからの声も聞きたいなぁ・・・と思うところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120203/1328459438

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120615/1383589570参照。

*3:審判に要した期間だけでも約3年にわたる。

*4:排除措置命令、棄却審決、と来て高裁でひっくり返るケースは決して稀ではないが、感覚的には、知財系の審決や労働委員会の審決に比べて、決して頻度が多いとは言えないように思う(そもそも審決取消訴訟まで行く事例が珍しい、というのもあるが)。ましてや、“無罪”審決をひっくり返した事例となると・・・。本件に関しては、いつもなら公取委に追随気味のコメントが多い審決評釈の中にも、比較的批判的なものが多かったから、このような結果が全く予測できなかったわけではないのだが、理論的にはともかく、現実にこのような形で審決が取り消されることになるとは、やはり驚き、というほかない。

*5:個人的には、いつまでたっても成立しない独禁法改正案の中で描かれた取消訴訟のスキームが頭の中に染みついていたこともあって、ファーストリアクションでは、「あれ、まだ一審は高裁だったっけ?」(地裁判決、いつ出たんだっけ?)という間抜けな反応をしてしまったのだが、その次に出た反応が、「何で知財高裁?」だった(正確に言えば、判決をしたのはあくまで「東京高裁」であって、知財高裁ではないようだが・・・)。

*6:正確には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」だが、面倒なので、以下全部この略称で通すことにする。

*7:http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20120615_540533.htmlの記事など参照。

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