これはまだ原発事故をめぐる賠償の序章に過ぎない。

今年に入って以降、原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介手続きで、ある意味画期的な和解*1が成立するなど、大きな動きを見せていた福島原発事故の損害賠償に関し、政府が新たな、というか、もしかしたら最後になるかもしれない「賠償指針」を出した。

文部科学省原子力損害賠償紛争審査会(会長・能見善久学習院大教授)は16日、東京電力福島第1原子力発電所事故の新たな賠償指針を決めた。政府が3月末に実施する避難区域の再編に伴って、5年以上帰宅できない「帰還困難区域」の住民の住宅や不動産は事故前の価格で全額賠償する。ほかの区域の住宅などは東電と所有者が価値の減少額を和解交渉で決める枠組みとする。」(日本経済新聞2012年3月17日付け朝刊・第1面)

「中間指針第二次追補」というタイトルになっているこの指針は、おそらく間もなく公表されることになるであろう、警戒区域指定の見直し(帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域)に合わせて作成されたもので、区域指定の見直しから「終期」までを「第3期」と定義した上で、

第3期における精神的損害の具体的な損害額(避難費用のうち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては、避難者の住居があった地域に応じて、以下のとおりとする。
(1)避難指示区域見直しに伴い避難指示解除準備区域に設定された地域については、一人月額10万円を目安とする。
(2)避難指示区域見直しに伴い居住制限区域に設定された地域については、一人月額10万円を目安とした上、概ね2年分としてまとめて一人240万円の請求をすることができるものとする。但し、避難指示解除までの期間が長期化した場合は、賠償の対象となる期間に応じて追加する。
(3)避難指示区域見直しに伴い帰還困難区域に設定された地域については、一人600万円を目安とする。

と区域ごとの慰謝料額を定めた点に意義がある(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2012/03/16/1318795.pdf)。

また、旧緊急時避難準備区域については、月額10万円の慰謝料額を維持しつつも、

「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は、旧緊急時避難準備区域については平成24年8月末までを目安とする。」

と、損害賠償の終期を初めて具体的に示した、という点においても、(そのことの当否はともかく)注目されるところだろう。

もちろん、警戒区域(帰還困難区域)における損害をはじめ、今の時点で広い分野にわたる損害すべてに「終期」を明示することは困難だから、指針の中でも「終期については個別判断」としているものも多い。

加えて、その他損害項目等についても、これまでの指針で書かれていなかったものを今回の指針の中で網羅できているか、といえば到底そんなことはなく、結局は、

「中間指針、第一次追補及び第二次追補で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。その際、これらの指針に明記されていない損害についても、個別の事例又は類型毎に、これらの指針の趣旨を踏まえ、かつ、当該損害の内容に応じて、その全部又は一定の範囲を賠償の対象とする等、東京電力株式会社には合理的かつ柔軟な対応が求められる。」

という微妙な表現にとどめたまま。

確かに、原発事故の影響には地域、世帯ごとにそれぞれ独自要素が強いことを考えれば、事細かに基準を書ききるのは難しい、という事情も分かるし、個別具体的な事案を扱っているのは、「審査会」ではなく、その下にある「紛争解決センター」の方だから、これ以上の基準策定はそちらに委ねたほうが効果的、ともいえるのだろうけど、まだ請求していない損害を、これから請求しようかどうか迷っている人々(特に事業者)にとっては、イマイチ煮え切らない内容だなぁ・・・という評価に成らざるを得ない。

いずれにせよ、ここから先は、ボールを投げられた東電側のターン。

「(自分たちが決めた)基準の範囲外の損害については賠償できません」等々の木で鼻をくくったような初期の対応に比べれば、賠償窓口の対応もかなり改善されてきた、と伝えられてはいるが、再び政府指針によって与えられた“裁量”をどのように東電が使うのか、は、注目されるところであろう。

ここから先、いかに真摯な対応を行うかが、今後の会社の命運を決める・・・そういう覚悟で賠償交渉に臨むなら、自ずから答えは見えてくると思うのだが、まずは、東電の次の一手を見守りたいと思う。

*1:以前のエントリーでご紹介していた案件(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120127/1327854034)について、2月27日付けで和解が成立した。東電が、住宅の建物損害を認めるとともに、慰謝料額増額、清算条項なき内払い、そして最後までこだわっていた仮払補償金の控除についても譲歩する、という、ちょっと前までの東電の交渉姿勢からすれば考えられないような内容である。弁護団のコメントは相変わらず手厳しいけれど・・・(http://ghb-law.net/?p=231参照)。

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