この進出は“黒船”か、それとも・・・

日経紙の目立たないところに、

「法律事務所大手の西村あさひ法律事務所(東京・港)は、8月に大阪と名古屋に拠点を新設する。円高で地方の製造業が生産拠点の海外移転や同業の買収に乗り出す事例が増えているため。」(日本経済新聞2012年6月12日付け朝刊・第13面)

という記事を見つけて、また何かのアドバルーンかなぁ・・・と思っていたら、いつの間にか、事務所のHPにも、公式のリリースが掲載されている(http://www.jurists.co.jp/ja/topics/others_12369.html)。

西村あさひ法律事務所(東京都港区)は、既存の組合組織とは別に、本年8月1日を目処に弁護士法人西村あさひ法律事務所を設立し、その主たる事務所を既存の組合組織が所在するアーク森ビル内に設け、従たる事務所として大阪及び名古屋にそれぞれ事務所を開設する運びとなりましたのでお知らせいたします。
既存の組合組織と新たに設立する法人は、「西村あさひ法律事務所」の名称で共同して業務を行ってまいります。

興味深いのは、この事務所が、「既存の組織とは別に」弁護士法人を設立して「支店」を出す、というスキームを選択したこと。

そして、単に大阪、名古屋といった拠点都市のクライアントのみならず、

大阪・名古屋事務所は、近畿・中国・四国・東海地方の企業に対し直接リーガルアドバイスを行うだけでなく、地方の主要都市において現地の有力法律事務所との間で多様な協力関係を構築し、西村あさひ法律事務所の専門的なリーガルサービスを合理的な価格で提供する体制を整備してまいります。

と、さらに地方の都市にまでネットワークを広げよう、という“野心”を前面に出しているあたりは、さすが日本一の規模の事務所だなぁ・・・と感心させられる。

大江橋淀屋橋、北浜・・・と全国的にも名を知られた大手事務所が軒を連ねる大阪はともかく、昔ながらの小規模事務所が一般民事から企業法務まで手広くカバーする地方都市に、我が国有数の“巨艦”事務所が乗り込んでいく、となれば、戦々恐々・・・となっても不思議ではないのだが・・・。


日本は、そんなに広くない。

そして、西村あさひが看板にしている大型M&Aや、海外進出のコンサル的な仕事を依頼したいと思うクライアントなら、わざわざ西村あさひが出かけてくるのを待つまでもなく、東京まで出かけていって仕事をお願いしている、というのが実態ではないかと思う*1

逆に、これまで東京の大手事務所に縁がなかった地方の中小企業に、六本木流「ボーダレスな企業法務の『ワンストップ・サービス』」の魅力を伝える、というのはかなりハードルが高い仕事だ。

別に法が奏でる理屈の世界には大して興味がなく、むしろ泰然とした“先生”との長年の人的付き合いと、それに基づく“御託宣”で、いわゆる法務的マターを処理している会社の割合が、地方では特に多いし*2、逆に、もっとドライに有益な解決を求める伸び盛りの会社にとっては、西村あさひのような“大型”事務所はどうしてもオーバースペックになってしまう可能性が高い*3

そして、賢明なこの事務所の方々であれば、そんなことは最初からとうに分かっているだろうと思われる。


・・・であれば、なぜ、わざわざ東京以外に「支店」を設けることになったのか?

大手事務所に共通する近頃の“人余り”現象を、何とか巧く落ち着かせるために、あえて地方に出店してみたのかなぁ・・・などと、うがった見方もしてみたくなるのだけれど、果たしてどうなのか。


いずれにしても、この業界がある種の「戦国時代」に突入していることを象徴するかのようなこのニュース。
大手事務所の戦略が実を結び、成功して新たな勝利の方程式を築くのか、それとも混迷の中で撤退を余儀なくされるのか?

今の時点で、先を見通すのは難しいのだけれど、少し追いかけてみたいニュースであるのは間違いない。

*1:今なら大抵の話はメールで出来てしまうから、距離的なハンデもそんなに感じることはない。

*2:もちろん、これは地方だけではなく、東京でも多くの老舗企業がこのパターンで弁護士との付き合いを続けている、という厳然とした事実もある。

*3:ちなみに事務所のHPによると、新たに大阪、名古屋に開設する事務所の規模は決して大きくなく、せいぜい3〜6名規模、となるようだが、そうなると、結局“本店”の力を借りることになり、結果的に処理スピードやチャージ面等で東京の“本店”に直接相談するよりクライアントにとっては不利になってしまうのでは・・・? とも懸念されるところ。

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