これは何のための調査なのか?

日経紙に、「弁護士ランキング」を含む「2012年企業法務・弁護士調査」の結果が掲載されている*1

既に、歳末の恒例となった感のあるこの調査。

これだけケチョンケチョンに言われ続けている企画も珍しい、と思えるくらい毎年、法務業界の関係者から批判を浴びているにもかかわらず、懲りずに続けている日経紙の執念には頭が下がる、というほかないのだが、今年も期待にたがわず、突っ込みどころは満載だ。

例えば、なぜか見出しになっている、

「法的トラブル 企業の8割」

というネタ。

調査に回答した148社のうち「77%が『紛争が生じている』」と回答し、「前年に比べ13ポイント上昇した」ことから、大々的な見出しにしたようだが、個人的には「8割」という数字より、

「2割も法的トラブルに直面していない会社があるのかよ(笑)」

って方にびっくりさせられたのが正直なところ。

・・・っていうか、ここに名前が挙がっているような名立たる有名企業であれば、「法的トラブルに全く見舞われていない」会社など、本来存在しないはずで、上記以外の回答をした「23%」の会社は、諸般の事情で回答を差し控えたか、法務ではなくて広報とかIRの担当者がアンケートに対応したか(笑)、のどちらかだろう*2

この程度のことを、あたかも「新たな発見」の如くはしゃいで紙面で取り上げてしまえば、企画自体への信頼がますます失われるのは自明の理だろうに、日経ほどの新聞社がなぜ・・・という思いは消えない。


一方、毎度のお楽しみ、2012年版の「活躍した弁護士ランキング」には、多少の光明も見える。

一昨年のランキングが掲載された際に「企業票が0票、1票の弁護士がランク入りしているのはおかしい!」と書いたら、企業票と弁護士票の内訳が開示されなくなって、当ブログ上で悪態をついたのは1年前の話*3

だが、今年、蓋を開けてみたら、「企業票のみのランキング」が“正式なランキング”という扱いで本紙に掲載されていた。

<企業法務部門>
1.中村直人(中村・角田・松本)16票
2.太田洋(西村あさひ)10票
3.武井一浩(西村あさひ)9票
4.沢口実(森・浜田松本)6票
4.石綿学(森・浜田松本)6票
4.木目田裕(西村あさひ)6票

本当の「実務」を扱っている担当者が必ずしも投票権を持っていない*4、あるいは、実務担当者が本当にお世話になっている密な関係の弁護士の名前を書いていない*5、といった事情もあってか、若干ミーハーな結果になっている感は否めないものの、それでも、併記されている「企業票+弁護士票」のランキングのように、四大事務所のプロモーション票で結果が捻じ曲がるような事態は生じていないだけましだろう*6

今年久々に取り上げられた感のある「知的財産部門」になると、その傾向はより顕著である。

<知的財産部門・企業票>
1.大野聖二(大野総合)8票
2.熊倉禎男(中村合同特許)6票
3.末吉亙(潮見坂総合)5票

大野先生などは、弁護士票を加算したランキングでも3位に入っているし、弁護士票加算のランキングにだけ入っている先生方も、決して悪い先生だとは自分は思わない。

ただ、「組織票」を抜いた瞬間に、中小規模のブティック(っぽい)事務所の先生が上位に浮上してくる、というのは、非常に興味深いところだと思うし、他のカテゴリーと合わせて、両者の顔ぶれを相対的に比較すれば、これまでメインを張っていた「企業票+弁護士票」のランキングが、いかに空しいものだったか、ということも分かるというものだ。

個人的には、マンネリ化しつつあるこの手の「弁護士ランキング」は、調査のやり方も含めて一度全面的に見直すべきだと思っているし、たった326社にしか調査票を送らず(回答148社、45%)、弁護士も大手法律事務所中心の254人が参加したにとどまるアンケートに十分な資料価値があるとも思っていないのだが、日経紙がどうしても続ける、というのであれば(苦笑)、この業界を全く、あるいはほとんど知らない読者*7に奇妙な先入観を与えないように、なるべく偏りが生じない方法で行った調査結果のみを公表するように、強くお願いしたいところである*8

*1:日本経済新聞2012年12月19日付け朝刊・第33面。

*2:彼らは会社をいかにきれいに見せるか、に心血を注いでいるから「紛争」なんてタブーワードに素直に回答するはずもない(苦笑)。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20111215/1324093237

*4:どちらかと言えば、「大所高所的見地から有名な先生の話を聞きにいく」機会が多い部長さんクラスが、一票を投じる権限を持っていたりする会社も多い。

*5:だって、人気が殺到して自分の会社の仕事が後回しにされるようになったら困るから・・・(笑)。

*6:ちなみに、太田洋弁護士は、企業票+弁護士票のランキングでも3位に入っていて、その辺は、さすが、である。いろんな意味で。

*7:その中には、企業の「経営者」に属する人々も含まれる。

*8:個人的には、一度、自分の情報網をフル活用して、より信頼性が高く精緻な「担当者の目から見た弁護士業界マップ」でも世に送り出すつもりであるが、いつ、どの媒体で日の目を見るかはナ・イ・シ・ョ(笑)。

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