やっと気付いた違和感の正体。

ここ数日報道されているソフトバンクモバイル販売代理店元契約社員による顧客情報漏洩事件。

業務上大量の個人情報にアクセス可能な携帯電話販売代理店関係者による犯行、ということに加え、漏れた情報の中に警察官の個人情報が含まれており、それが暴力団にわたって脅迫等に用いられた、という恐ろしさゆえ、非常に大きな衝撃をもって受け止められるニュースになっているのは間違いない。

・・・で、後先考えずに顧客情報を流用して報酬を得た不届き者に制裁を加える、ということ自体には、自分も何ら異存はないのだが、記事の中の「不正競争防止法違反(営業秘密侵害)」(日経紙記事ママ)で逮捕、というくだりを見て何となく引っかかっていたのも事実。

そして、その理由が、今日の朝刊の記事を見てようやく氷解した。

「携帯電話大手ソフトバンクモバイルの顧客情報漏洩事件で、不正競争防止法違反(えいぎょう秘密)容疑で逮捕された同社販売代理店の元契約社員、横田太佑容疑者(33)の同僚からも、探偵業者に顧客情報が漏れていた疑いがあることが30日、捜査関係者への取材で分かった。漏洩の時期が、営業秘密侵害罪の適用要件が緩和された2009年の同法改正以前のため、愛知県警は立件はしない。」(日本経済新聞2012年7月1日付け朝刊・第31面)

自分の中で、何となく抱いていた違和感の原因は、本来、「不正競争」を規制する目的で制定されている不正競争防止法違反の罰則が、「探偵業者に顧客情報を漏洩して利得を得る」(競争事業者たるドコモやauに流出することを意識して顧客情報を渡す、という類型ではない)という、本来は競争規制とは無縁に思える場面で適用されていたことにあったのだ。

そして、なぜそういうことになったかといえば、平成21年の不正競争防止法改正*1により、

「営業秘密侵害罪の目的要件が「不正競争の目的」から、単純な「図利(又は)加害目的」に改められた」から

であるのは間違いない*2

それゆえ、平成21年改正以前に情報漏洩を行っていた“元同僚”は、今回逮捕された被疑者を巻き込んでいるにもかかわらず、お咎めなし・・・ということで処理されようとしているのだと思われる。

ちなみに、この平成21年改正に対しては、このブログ上で、あまりに慎重さを欠いているのでは?という観点からコメントした記憶があるし*3、当時、同じような感想を抱いた人も決して少なくはなかったはず。

正直、当時懸念していたのは、“職業選択の自由”を実現するために合法的に転職しようとした社員や、会社の告発等の目的で資料を外部に開示した社員が“刺される”ケースで、今回のように、明らかに何らかの処罰が必要、と考えられるような事案に適用されてしまうと、「ほれ見たことか」的な批判はしにくいのも事実。

ただ、明らかに処罰の目的が、「探偵を通じて暴力団に警察官の情報が流れた」ことにあると思われる本件で、「不正競争防止法」の罰則規定を持ち出す、というのが法のあり方として理想なのか、といえば、そこはちょっと微妙なところなのは間違いないわけで*4、こういうのは、別途何らかの特別法で規律した方が良いのではないか、という思いも湧いてくる。

個人的には関心が未だに高いこの分野。
弁護人サイドの方針と合わせて、今後、どのように実務への影響が出てくるのか、しっかりと見極めていきたいと思うところである。

*1:概要については、http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/kaiseigaiyo.pdf参照。

*2:他に平成21年改正では、いわゆる任務違背型の侵害類型について使用・開示行為だけでなく、「領得行為」そのものを罰する、という改正もなされているが、本件では最初から「開示」行為が問題にされているようだし、そもそも本件は、任務違背ではなく不正取得型類型での処罰ではないか、とも思えるだけに、おそらく、こちらの改正の影響ではないのだろう。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090113/1231957982参照。

*4:そもそも、顧客情報データベースへのアクセスが日頃どのような形で管理され、運用されていたか、によっては、「営業秘密」要件を満たすかどうかも、弁護人サイドから争われる余地はあるように思われ、明らかに悪性の高い行為を処罰する法律としては、いささか非効率な代物であるようにも思える。

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