良記事の陰に残る後味の悪さ。

入手してから、だいぶ日が空いてしまったが、「Business Law Journal」の最新号について、少しコメントしておくことにしたい。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 10月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 10月号 [雑誌]

第1特集が、ファーストサーバ社のデータ消失事故に着想を得たと思われる「データ消失の法的責任と実務対応」、第2特集が、これまで今話題の「プライバシー情報」の問題、ということで、最新のトピックを素早く掴みとり、第一線の専門家の豊富なコメントとともに分析・検討を加えて紹介する、というこの雑誌の良さは全く失われていない。というか、むしろ、さらに磨きがかかったような気もする。

・・・が、今月号に関していえば、気になる記事もいくつかあった。

まずは、「プチ特集」的な扱いになっている「最新インハウスローヤー事情」。

記事の構成としては、「インハウスに転身」した弁護士のインタビュー記事を実名で掲載した上で、弁護士の転職事情に詳しい西田章弁護士へのインタビューにより構成した的確な現状分析記事を載せ*1、最後に“迎え撃つ”(資格を持たない)法務担当者側の「インハウスロイヤーに対する意見、感想」を大きく取り上げて締める、というもので、それ自体はBLJ誌ならではの“読ませる”構成になっていると思う。

ただ、西田弁護士の記事はともかく、他の記事(要は当事者たる“インハウスロイヤー”側で書かれた記事と、資格を持たない法務担当者側で書かれた記事)が一方通行過ぎて、両方の世界をある程度分かっている者の目から見ると、何とも隔靴掻痒な感がある。

それぞれの記事(特に法務担当者側の記事)を、それぞれの立場の読者が読めば、「そうだ、そうだ」と共感するところも多いのだろうし、インタビューを元にした構成、ということで、なおさらそういう面を強調する方向で記事が“作られた”感が、この「プチ特集」には強い。

だが、そこには、一歩間違えれば、巷の煽り系週刊誌的な“イエロー”な世界に陥ってしまいそうな危うさもある。

例えば、

「司法試験の勉強や司法修習を通じて習得した法理念・法知識の体系は、未知の問題に直面した際に、思考の拠り所となっています。これらは、弁護士にならなければ得られなかったスキルセットだと思います。」(19頁)

なんてフレーズは、弁護士の社内への売り込みに使われる常套句であるが、法務の実務を経験してから試験勉強を始めて修習を受けた人間なら、「弁護士にならなければ得られない」というのが限りなく“虚構”に近いフレーズだということを、誰でも知っている。

逆に、些細な業務上の諍いの原因を、「『自分は弁護士だから』と悪い意味で勘違いしているようだ」という憶測に求めようとする「法務担当者のコメント」(25頁)も、上記の発言と位置づけはさして変わらない。

ところどころに、光る、鋭い指摘がまとめられていることは認めるにしても、全体を通じて読めば、かなり後味の悪い特集になってしまっているなぁ・・・というのが率直な印象である。


そして、もう一つ、「プライバシー情報」に関する第2特集も、実に後味が悪い。

構成としては、情報利用事業者の側に立つ達野大輔弁護士の論稿(「ミログ第三者委員会報告書から考えるプライバシー情報ビジネス利用の問題」)に、中崎尚弁護士の中立的な論稿(「ビッグデータ活用とプライバシー保護の調和」)を挟んで、ネットで日々事業者への鋭い批判を展開している鈴木正朝・新潟大教授の論稿(「ライフログ時代における法規制のあり方」)が続く、という、BLJの“鉄板”なのだが、最初の論稿と最後の論稿とで、あまりにトーンが違い過ぎていて、何ともやりきれない思いになってしまう*2

個人的には、こういう問題こそ、頭の中だけで問題を捉えようとする学者や法曹ではなく、情報の使い手でもあり、かつ提供者でもある法務担当者に、(匿名で)率直なところを語っていただき、両者の溝を埋め合わせる試みをした方が良いのではないか、と思うところである。


以上、いつもに比べると厳しめのコメントになってしまったが、今回のエントリーで取り上げたいずれの特集も、「これで終わり」という内容のものではないと思うので、次に“続き”の企画をやる際に、よりグレードアップしたものを見せてほしい、という期待を込めて、あえて書いてみた。

ついでにいえば、ここには、「このテーマで何で自分にお鉢が回ってこないんだろう・・・?」という僻みも多少入っているのかもしれないので*3、関係者の方がご覧になられているようであれば、話半分に聞いておいていただければ結構・・・(笑)。

*1:新人、ジュニア・アソシエイト、シニア・アソシエイト、と、階層ごとに分析した論稿はこれまであまり見当たらなかったように思うが、さすが内情を良く把握されている方ならではの具体的な内容で、今号一番のヒット記事だと、個人的には思っている。

*2:「市場の『過剰反応』による不安感だけに囚われた規制強化が今後行われないように、強く望むものである」という達野弁護士の結び(57頁)と、「経営の自由を信奉し、それを主張する者は、その基礎において個人の自由を尊重するものでなくてはならない」(68頁)という鈴木教授の結び(68頁)だけ見比べると、ほとんど“イデオロギー対立”とでも言いたくなるような、どうしようもない溝の深さを感じる。それぞれで書かれている内容を冷静に見比べれる限りでは、そんなに極端な乖離があるわけではない、と思うのであるが。

*3:今年に入ってから、こういう思いに駆られたのは、著作権の企画(6月)に続いて2度目である(苦笑)。

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