昨年、知財高裁で中間判決が出されて以来、敗色が濃厚となった被告・佐藤食品工業(サトウ食品)がどこまで頑張るのか、ということが専ら注目されていた「切り餅」事件だが*1、サトウ食品の強気姿勢も空しく、最高裁でも、いともあっさりと上告棄却決定が下されることになってしまった。
「切り餅がきれいに焼ける「切り込み」技術に関する特許権を侵害されたとして、越後製菓(新潟県長岡市)が、サトウ食品工業(新潟市)に商品の製造差し止めや損害賠償などを求めた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(小貫芳信裁判長)は20日までに、サトウ食品工業の上告を退ける決定をした。」(日本経済新聞2012年9月21日付け朝刊・第39面)
これで、知財高裁で出された販売禁止と約8億円の損害賠償を命じる判決が確定。
9月20日付けで出されたサトウ食品のリリース(http://www.satosyokuhin.co.jp/corp/pdf/timely/20120920_timely.pdf)によれば、既に切り餅の仕様は変えているようであるし、損害賠償額についても特別損失に計上しているから、上告棄却に伴う現実的なダメージは、見た目ほど大きくないとも考えられる*2。
だが、この会社の場合、今回の決定に先立つ6月27日付けリリース*3の中で、
「第1次訴訟の知財高裁判決については、知財に詳しい元高裁判事を含む複数の有識者のご意見をお伺いした上で、同判決は特許法や民事訴訟法の理解を誤ったものであると同時に、真実に照らしても受け入れがたい判決であって、最高裁判所において覆されるべきものである(当社の特許権侵害を否定した第一審判決こそ正しいものである)と認識しておりますので、第2次訴訟において、第1次訴訟の知財高裁判決と同様の判決が言い渡されることはないと信ずるところです。」(太字筆者)
と改めて繰り返しているように、自らの正当性について、とことん強気の姿勢を見せていただけに*4、関係者にとっての心理的ダメージは、極めて大きかったことだろう。
もちろん、今回の件に関していえば、最高裁自体が規範性のある判断を示したわけではないので、地裁、高裁と、「飯村コート」以外の合議体で審理されることになれば、少なくとも第一次訴訟でイ号製品とされたもの以外の製品との関係では、異なる結論が出される可能性は当然出てくる*5。
とはいえ、第一次訴訟であれだけの大敗を喫した以上、合理的な企業であれば、ことの真偽には目を瞑って、これ以上の訴訟追行費用や賠償費用を負担させられる前に手を打つ、という判断も十分にあり得ると思えるところ。
この先、やっぱり・・・という事態になるのか、それとも再び覆った判断を見て、自らの見込みの甘さを痛感させられることになるのかは分からないけれど、事件の内容よりも、会社としての“振る舞い”の方が、自分には気になって仕方がない。
まぁ、どんな会社にも、経済合理性だけでは割り切れない重要課題*6、というのはあるわけで、サトウ食品にとっては、たまたまそれが「切り餅」だった、ということなのかもしれないけれど、自分はこの関連のニュースを見るたびに、複雑な思いになる。
*1:これまでの状況については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120323/1332602743とリンク先を参照。
*2:とはいえ、通年の売り上げが300億円に満たず、営業利益もせいぜい10億円位の見通しの会社だけに、8億円+遅延損害金という数字は、決して小さくない。
*3:越後製菓による第二次訴訟(今回確定した第一次訴訟の請求対象外の製品・期間を対象とするもの)の提起を受けて出したリリース。http://www.satosyokuhin.co.jp/corp/pdf/release/20120627_release.pdf
*4:越後製菓側が、今回の判決確定に至っても、「日本の司法当局の健全性にあらためて敬意を表します。」というレベルのコメントにとどまっているのと比べると、サトウ食品側の対応の異様さは際立っている。http://www.echigoseika.co.jp/freecontents/information20120925.pdf
*5:第一次訴訟で侵害と認定された製品については、既判力との関係で、侵害期間が異なる、というだけで結論を変えるということにはおそらくならないと思うのだが、この辺りは既判力がどこまで及ぶのか等々、もう少し筆者自身勉強しておく必要があるかもしれない。
*6:ゆえに何十件と訴訟で負けが込もうが、会社の信条とするところを貫かねばならない。