新人監督の試練。

あわやCSシリーズで敗退か・・・という瀬戸際に追い込まれながらも土壇場でドラゴンズをうっちゃった読売ジャイアンツが、勢いそのままに押し切った今年の日本シリーズ

シーズン中、あれだけの圧倒的な力の差を見せていたチームが、CSであっさりと負けてしまうようだと、なんのために144試合やっているのかわからない、という話になってしまうので、結果的にはこれでよかったのだと思うが、大の“アンチ”たる筆者としては、実に面白くない展開だった。

そんな中、北の大地で一瞬だけ期待を持たせてくれたのが、栗山新監督率いる北海道日本ハム

開幕前は、“コーチ経験もないテレビタレントまがいの人”を監督なんかに据えて大丈夫か?という懐疑的な声の方が目立っていたような気がするし、戦力面でも絶対的エースのダルビッシュが抜けるなど、あまり期待できるような状況ではなかったはずなのだが、終わってみれば、激しい首位攻防を勝ち抜いて堂々のパ・リーグ制覇。

CSシリーズでも全く隙を見せることなくソフトバンクホークスを葬り去り、迎えた日本シリーズでは、アウェーで2連敗、という最悪のスタートながら、ホームで巻き返して一時2勝2敗のタイに追いつく、という善戦を見せた。

第4戦を落として王手をかけられたものの、主力にけが人を抱えた読売相手に、武田勝、ウルフといった安定感のある投手陣で残り2戦を乗り切れれば・・・というところまで来ていたのは事実で、結果的に相手の胴上げをみることになった第6戦にしても、開幕から監督が辛抱して使い続けた中田翔選手が同点3ランを放ち、最終回は代打に送った鶴岡選手が執念のヒットでつなぐなど、最後の最後までタダでは負けなかった、という印象が強い。

土曜日、珍しく野球中継をリアルタイムで見て、“敗者の執念”に強い感慨を抱いた筆者は、読売巨人軍の胴上げでアナウンサーが空騒ぎしていたその瞬間ですら、「来年の日ハムはどこまで強くなるんだろう」と思っていたのであるが・・・。

一夜明け、コーチ陣をめぐって発表されたニュースには本当に驚かされた。

リーグ優勝チームであるにもかかわらず、福良ヘッドコーチ、吉井投手コーチが揃って退団。

しかも、古巣のオリックスでヘッドコーチ就任という名目があった福良コーチはともかく、吉井コーチの場合は、自他ともに認める“喧嘩別れ”である。

栗山監督が一年目から成功を収めた秘訣、として、メディアで報じられていたのは、必ずしも球界のセオリーにとらわれない選手起用と、選手との密接なコミュニケーションによる人心掌握、だったはずで、シーズン中、中継ぎ投手陣が再三にわたって酷使されても、何とか乗り切れたのは、監督の丁寧なコミュニケーションが功を奏したから、という触れ込みだったのだが、その裏で、コーチとの間で、埋められない溝があった、というのは何と皮肉なことか・・・。

冷静に考えれば、監督自身が直接選手の話を聞いて、それに基づいて采配をふるう、ということは、ともすれば、本来、その職責を負うべき担当コーチの仕事を奪うことにもなるし、そこまではいかなくても、プライドの高いコーチとの間では、何らかの亀裂を生むことになる微妙なスタンスであるのは間違いない。

そして、日本球界で一流投手として長く活躍し、メジャーリーグでも豊富な経験を積んだ吉井コーチのようなスター選手と、外野手出身である上に、プロ野球選手としての実績よりも解説者としての存在感の方が大きかった新監督との間で軋轢が生じるのは、良くありがちな、必然的事象だったのかもしれないが・・・。


おそらく、2008年以来、コーチとして投手の育成に努め、何人もの投手を独り立ちさせてきた吉井コーチが抜けた穴は、決して小さくないだろう。

かつて、パ・リーグに旋風を巻き起こした仰木彬監督でさえ、1989年の日本シリーズ終了後に権藤博投手コーチ(当時)が退団して以降は*1、少なくとも近鉄球団では優勝という結果に恵まれなかったわけで、今の日ハムにしても、CS、日本シリーズを通じて、せっかくつかんだチームとしての手応えが、主力コーチ陣入れ替え、という事態の下で、年が変わる頃にはリセットになってしまっている可能性がないとはいえない。

そんな中で、支柱を失った北の雄が下り坂を転がり落ちていくのか、それとも、一新したコーチ陣を使いこなして、栗山監督がさらに実績を積み重ね、将来的に特別な地位をほしいままにすることになるのか・・・。


個人的には、栗山監督のような、“球界にどっぷりつかっていない”存在は貴重だと思うだけに、来年の開幕まで、まずは見守ってみることにしたい。

*1:権藤コーチが仰木監督とたもとを分けた理由の一つになっていたのが、当時リリーフエースだった吉井投手の起用法で、吉井投手が当時権藤コーチに心酔していたことを考えると、これは実に皮肉な結果だと思う。

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