「利用規約をパクってはいけない」本当の理由。

利用規約」に関してブログ上で積極的な情報発信をしている「企業法務マンサバイバル」の管理人・橋詰氏が、「利用規約に関するあるあるネタ」の一つとして、「利用規約著作権」の関係について論じている。

「やっぱりウェブサービス利用規約を安易にパクるのはまずいと思います」(2013/1/15付)
http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/52292843.html

内容を勝手にまとめさせていただくならば、

法律文書については一般的に「パクったって大丈夫だよ!」と説明されることが多い。
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しかし、「昨今流行りつつある、サービスの特徴をスクリーンショット等も用いながら豊かな表現で書いているような手の込んだ利用規約を安易にパクるとちょっと危ないかも、と思わせる裁判例」(火災保険改定説明書面事件、東京地判平成23年12月22日)もある。
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似ているウェブサービス利用規約をパクってすませているケースも良く見かけるが、そこそこの使用料を払わされることになるかもしれない。
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オチ

といったところだろうか。

・・・で、これを読んで、あら大変、と泡を食っている方もいらっしゃるかもしれないが・・・。


個人的には、一般的な「利用規約」に関して、第三者のそれを模倣することの是非を論じるのに、「著作権」というツールを持ち出すのは、どうなのかなぁ、と思う。

もちろん、そこは前記エントリーを書かれた橋詰氏も、あえて「サービスの特徴をスクリーンショット等も用いながら豊かな表現で書いているような手の込んだ利用規約GoogleFacebookが率先してすすめているような、手の込んだデザイン・レイアウト・分かりやすさを追求した表現を備えた利用規約)に対象を絞って論じておられるので、そんなことは百も承知、なのだろうが、引用されている火災保険説明書の判旨や、その後の解説書の引用部分だけ読むと、誤解する方もいらっしゃるかもしれないので、以下念のため。

まず、火災保険説明書に関する東京地裁判決だが、これについては、以前、当ブログでご紹介した際*1にも疑義を投げかけたとおり、判断としてはかなり“突飛”な部類に属するものだと思う。

特に、問題となった書面(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120127085638-1.pdf)のうち、「本文」部分の著作物性を認めたくだりについては、「改定の内容を3点に整理し」「それぞれの内容が数行程度の簡略な文章で紹介され」「特に内容的に重要な部分について太文字で表記したり、下線を付したりして一見してポイントを把握しやすい構成とした」という、正直、「こんなんでいいのか?」というところに作成者の個性を見出しているわけで*2、この判決に先例としての価値が認められるとは、ちょっと考えにくい*3

また、概説書の記載を見ても、

「契約書案等を保護しない実質的理由は、誰が行っても大同小異とならざるをえず、後発者の選択の幅を極端に狭めてしまい、しかも実務的なものでありかつ契約等においては必需品であるため、独占による不当な弊害の防止にある」中山信弘著作権法』41頁(有斐閣、2007年)

という解説に象徴されるように、公益的観点からもこのタイプのものについては著作物性を否定すべき、と考えられるのであって、「利用規約」においても、サービスが現に類似するものである以上、規約本文の内容やその説明が類似したものになったとしても、それをもって「著作権」が持ち出されるのは、本来お門違いだということになろう。

もちろん、中山教授は慎重に、

「契約書案等の著作物性は一律に否定されるというものではなく、かなりの程度独創的な表現を用いて創作したものもあり、独占による弊害の少ない場合には著作物性が認められることもありうる」(前記41頁)

と、例外を認めるスタンスを示されているが、著作権法の世界の論法でいえば、ここでいう「独創」性とは、利用規約を用いて表現しようとしているサービスの内容そのものや、運営者のポリシーのそれ、ではなく、「利用規約の表現の仕方」そのものを指す。

したがって、橋詰氏が指摘しているように、「スクリーンショット」や「手の込んだデザイン・レイアウト」を用いた利用規約をそのまま丸コピーすれば、「凝った表現部分」については著作権侵害が認められる余地は出てくるものの*4、デザイン部分等を独自の表現に置き換えてしまえば、実質的には同じことを言っているに等しい場合であっても、「著作権侵害」という話にはなってこないだろうと思う。

ましてや、一般的な文章で表現された利用規約であれば、よほど突飛な表現*5が使われていない限り、著作物としての創作性が認められる余地はないし、政策的観点からもそれが認められるべきではない、ということになるはずである。

ユーザーの視点で見ても、同じサービス、同じルールであるにもかかわらず、事業者によって利用規約でまちまちな表現が使われていたら、かえって迷惑な話になるわけで、それこそ、“消費者庁マター”になってしまうように思えてならない*6


ということで、自分は、効率性重視の観点から、契約書にしても、利用規約にしても、

「迷ったら他の同業者(特に大手)のそれを参考にしてね」

というアドバイスをむしろ積極的に行うようにしている。

契約書でも何でも、まっさらなところから完成されたものを作り上げるのは、物凄いエネルギーが必要になるのであって、そんなところに時間とコストをかけて“オリジナリティ”を追及するよりも、世の中であまねく受けいられて、定着しているものを適度に活用し、それで浮いたエネルギーを、純粋なサービスの充実のためにつぎ込む方が、よほど顧客のためにもなる。

もちろん、最初に作られたものが、あらゆる観点からのリスクを網羅したものになっているとは限らないのは、自分自身の経験則上も明らかなので*7、ビジネス的観点からも、リーガル的観点からも、他社のものを取り込む際にはしっかり吟味することが欠かせない。

そして、何より、

「たぶん同じようなサービスだと思ったので」

とか、

「運営側としての発想は、何となく同じだろうと思ったので」

という理由で引っ張ってきた部分が、「よくよく調べてみたら、どうも違う(違った)ようです」という話は実に多い*8

大概、この手の規約を作る、という話は、ビジネスの立ち上げと平行して行われるもので、スキーム自体が固まっていない段階で起案を依頼され、いったん返して連絡を待っていたら、サービス開始直前に、当初全く想定していなかったサービススキームのご説明とともに再確認依頼が来る、ということもあったりするから、打ち合わせの進め方も含めて段取りをしっかりしておかないと難しいところはある。

だが、いかに“見切り発車”的状況でスタートを余儀なくされるような場合であっても、サービス担当者が苦心の末、取り入れた“ちょっとした工夫”が、“借りものの言葉”を使ったがゆえに規約上全く反映されなかったとしたら、それは非常に残念なことだし、サービスの「核」となる部分で、事業者側の認識と規約上の「表現」にギャップが生まれてしまうようなことになれば、後々トラブルに巻き込まれた際に“致命的”なことにもなりかねないわけで・・・。


その意味で、(何も考えずに)「利用規約をパクってはいけない」という精神には、自分も一応賛同する。

ただ、それは「著作権」などという形式的な理屈によるものでも、“人まねはいけない”という単純な道徳心に起因するものでもなく、純粋に、

「自分たちのサービスのオリジナリティを表現するのに、“借りものの言葉”だけで十分なのか?」

という問題意識から来ている話だ、ということは、繰り返し強調しておきたいと思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120204/1336070219

*2:さすがに2枚目のフローチャートについては、著作物性が認められることもあり得るかなぁ・・・と思うが、1枚目については、この結論は理解し難いものがある。

*3:判決文を見れば明らかなとおり、この事件は、純粋な「不正競業」のカテゴリーに属する事件であり、実際、訴訟の中では、不競法2条1項13号(虚偽表示)や一般不法行為の成否も争点となっている。裁判所は、代理店契約を解除された被告が顧客奪取目的で勧誘行為を行った、という事実を重く見て、「デッドコピーした原告の契約説明書面を使用した」という、形式的側面に着目した“制裁”を被告に対して加えようとしたのだと思われるが、事件の筋を考えれば、むしろ不競法や一般不法行為の方で決着がつけられるべき問題だったと言える。

*4:この点においては指摘は正しい。もっとも、合法的なサービスを提供している事業者が、そういった部分まで丸々借用して「利用規約」を表現する、とはちょっと考え難い。

*5:たとえば、全て表記が会津弁で統一されていて、禁止事項の章では「ならぬものはならぬ」とのフレーズが繰り返し用いられる等。こんな面倒な規約、誰が読むのか分からないけど(笑)。

*6:ちなみに、「契約書」の起案がメシの種になる一部の業界の人々は、「契約書面の著作物性」にこだわる傾向があるように思う。気持ちは分からんでもないが、自分のビジネスモデルを守るのに「著作権」を持ち出すのは、やっぱり筋違い、というべきだろう。仮に裁判所に持ち込まれれば、冷淡と思えるほどクールな判断が下されることになるので、そこでバランスが取れていると言えばそれまで、であるが・・・。

*7:全く新しいサービスの立ち上げの時に自分で起案したこともあれば、新サービス開始から数年後に、先人が作った利用規約の再レビューを依頼されることも結構頻繁にあるのだが、(1)単純なチェックミス、(2)リスク検討対象のビジネススキームに関する情報の不十分さ、(3)事後的な法令改正、新設等によるリスク増加、といった事情で、「どっかのタイミングで改訂してください」という話になることは、ままある。

*8:ショッピングサイトを開くにしても、モール型と直販型とでは全く発想が異なるし、代金の決済手段や商品の受け渡し手段として何を想定しているか、といったところでも、注意事項の書き方がだいぶ変わってくる。