時代の変化を感じさせるニュース

間もなく新年度、ということで、どの会社も「人事」の話が浮上してくる季節であるが、そんな中、「大手商社初の女性執行役員」というニュースが報じられた。

伊藤忠商事は5日、法務部長代行の池みつる氏(46、写真)が4月1日付で執行役員に就任すると発表した。青果物大手の米ドール・フード・カンパニーの一部事業買収など大型のM&A(合併・買収)が増えるなか、法務の専門家として活躍したことが評価された。商社大手で女性の執行役員は初めて。」(日本経済新聞2013年2月6日付け朝刊・第11面)

4月1日付けで、法務部長に昇格し、執行役員に就任するとのことで、伊藤忠商事のHP(http://www.itochu.co.jp/ja/news/files/2013/pdf/news_130205.pdf)にも、略歴*1とともに、同じ内容の人事情報が開示されている。

年明けくらいから“女性活用キャンペーン”をいつもに増して強く展開している日経紙にとっては、非常に“美味しい”ニュースだったのだろうが、単に「女性」ということだけでこの人事に注目しているのだとしたら、それはちょっとどうかなぁ・・・というのが、自分の率直な感想だ。

確かに統計上の数字だけ見れば、まだ日本企業(特に大手企業)の中の女性の役員は少ない。
だが、この国において、「女性が総合職として普通に就職するようになった」歴史というのは極めて浅いのであって、雇均法が改正されて以降も、しばらくは「結婚、出産しても企業で総合職として働き続ける女性」が異端視されていた時代が長く続いていたことを考えれば*2、「今この時点において」大手企業の中に女性の幹部社員が割合的に少ないのは当たり前*3

今の30代、40代前半の世代に目を移せば、どの会社にも、会社中枢で仕事のカギを握っている女性は必ずいるはずで、あと5年もすれば、そういった方々がどの会社でも、ふさわしいポストに就くことになるだろうから、単なる「女性初」というフレーズだけでニュースとしての価値を持つこともなくなるだろう*4

その意味で、今回伊藤忠の新しい法務部長に昇格した人が“たまたま女性だった”ということを、殊更フィーチャーすることには、違和感がある*5


むしろ、この人事で自分が関心を惹かれたのは、彼女の経歴の方だ、

平成3年に名門・米コーネル大学法科大学院を修了し、その後、カリフォルニア州弁護士として、米グラハムアンドジェイムス法律事務所に8年勤務する、という異色の経歴。

しかも、伊藤忠に入社したのは、30歳も半ばに差し掛かった平成12年、ということだから、まだ社歴は15年にも満たない。

同時に発表されている他の新任執行役員が、いずれも昭和56年〜57年入社で*6、学部の違いはあれど、大学卒業後すぐ新卒入社、という経歴になっているのと比較すると、余計にその異色さは際立つ。

確かに、「法務」というのは、他の職種と比べても、残酷なまでに“実力の差”がはっきりと仕事に表れてしまう職種だけに、知識と経験を兼ね備えた人を外部からスカウトして部門のトップに据える、というのも、決して不合理なことではない*7

だが、それが、伊藤忠、という日本有数の商社で行われた、ということに、自分は大きな意味があると感じている。

商社、という業界に属する大手企業が、(世間のイメージに反して)どこも極めて保守的な組織風土を持っている、ということに気付いている人は多いだろうし、自分も折に触れて感じていたことなのであるが、今回の人事は、(傍目から見れば)そこに突如として現れた“新しい風”のようなものだ。

そして、人材流動化が激しい業界ながら、中途組ではなかなか食い込めなかった「名門企業」の壁を、法務業界の人間がもしかしたら超えられるかもしれない・・・という可能性が示された、という点で、今回のニュースには意味があるのではないかな、と思うところである。

*1:執行役員レベルでここまで詳細に「履歴書」を開示する会社も珍しいのではなかろうか。取締役であれば、総会招集通知の添付書類に記載される話だからまぁ分かるのだが・・・。

*2:ナチュラルに女性が総合職として就職できるようになったのは、90年代後半を過ぎてからなのではないかなぁ、というのが、自分の実感。

*3:だって、そもそも役員適齢期の40代後半〜50代に、幹部職ルートを歩いてきた女性社員自体が少ないのだから…。

*4:だから、同じように汗水垂らして頑張っている男性陣を「逆差別」するようなアファーマティブアクション策は勘弁してね(笑)、ということも一応言っておく。

*5:しかも、前任の法務部長も執行役員だから、会社としても彼女を「執行役員」に据えることそれ自体に、特別の意味合いを持たせたわけではないのだろう、と推察する。もちろん、これから、法務部門に限らず、池氏と同世代で活躍している女性たちが、次々とあちこちの会社で要職に就く時代は来るはずで、その意味で“時代の先駆け”を象徴する意味は認めてよいのかもしれないが。

*6:美しいまでの「同期人事」。さすが商社(笑)。

*7:そして、歴史の浅い会社では、そういったことが日常的に良く行われている。

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