ここのところ、「出版者の権利」について熱心に追いかけている日経紙が、5日付の法務面にも、「コミック雑誌の電子出版権 出版社の義務、焦点に」という記事を掲載している。
7月29日に行われた文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の中断前の最後の審議内容(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/shuppan/h25_06/pdf/shiryo_2.pdf)を踏まえた記事で、これまでの議論の流れを把握していない読者がどこまで理解できるのか、という問題をひとまず置くならば、インターネット上の海賊版への対策として提案されていた3つの方策(特定の版面に対象を限定した権利の創設(いわゆる中山提言の3)/電子書籍に対応した出版権による対応/紙の出版物の出版権に係るみなし侵害とする)を分かり易く説明しようと試みている点において有意義な内容ではあると思う*1。
もっとも、記事の中でも言及されているように、いずれの方策を採用したとしても、「海賊版対策」を超えて「電子書籍の普及」という効果までは期待しづらいのが現実だ。
仮に「電子書籍に対応した出版権」により対応する、という選択肢を取るならば、現在の著作権法の出版権規定に盛り込まれている
(出版の義務)
第81条 出版権者は、その出版権の目的である著作物につき次に掲げる義務を負う。ただし、設定行為に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 複製権者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から六月以内に当該著作物を出版する義務
二 当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務
といった規律を当該出版権にも設ける、という選択肢が一応考えられるのだが、記事の中でも触れられているとおり、雑誌に掲載する一原稿のために「電子書籍の出版まで義務づけられる」ような権利を設定しなければならない、というのは、ちょっと現実的ではない*2。
となれば、自ずから、
「出版権に係る出版の義務を(紙の)雑誌に限定する」
ということにならざるを得ないわけで、そうなると、何でそのレベルの義務しか負わない出版者に、電子書籍にまで及ぶ出版権を付与しなければならないのか・・・という批判は当然出てくるだろう。
現実的な方策としては、雑誌の分野における現在の契約慣行(出版権設定契約まで結ぶことはまずない、という慣行)を改めるために、「出版義務を雑誌に限定した出版権」というのを認めた上で*3、インターネットにアップされた海賊版に対しては、「みなし侵害」規定を設けて対処する、という合わせ技によるほかないのでは、と思うところである。
元々、出版社側にとって「海賊版対策」というのは、必ずしも一連の立法に向けた動きの“本丸”ではなく、紙も電子も含めた書籍出版に係る包括的な権利を取得することで、Amazon等との交渉の矢面に立てるようにしたい、という思いの方がむしろ先行していたはずだから、雑誌の一部版面の公衆送信に対応する権利設定をどうするか、ということなど実は大した話ではない、というのが本音なのかもしれないが、肝心の電子書籍にしても、「出版権」の延長線上で保護しようと考える限りは「出版義務」の呪縛から逃れることはできない。
権利を確保した上で、それをどう使うかについてフリーハンドを持ちたい出版社の思いと、契約で排他的拘束を受けるだけで作者の側に何の見返りもない、という事態は何としても避けなければならない著作権者側の思いは、本来相反するものであるわけで*4、小委員会での議論を眺めると、両者の対立点が明確になりかけていた様子も垣間見えるところ。
中断期間の間に、そんな複雑な関係がどう整理されるのか、興味は尽きないところである。