「1対1」の勝負で見せたジェンティルドンナの執念。

本命馬が微妙に勝ち切れず、“傑出したスター”の登場を待ちわびるファンにとってはもどかしいレースが続いた3歳クラシック戦線も先週で終わり、いよいよ古馬が主役となる本格的な秋のG1シリーズの季節が到来した。

そして、今回、「第150回」という偉大な節目を迎えた秋の天皇賞は、まさにそんな季節の幕開けにふさわしい好メンバーが揃っていたように思う。

世界の女王・ジェンティルドンナを筆頭に、皐月賞イスラボニータ春の天皇賞連覇のフェノーメノといった今年のG1ホルダーが顔を揃え、さらに、菊花賞馬・エピファネイア、JC2着馬・デニムアンドルビーといった4歳の実績馬や、徐々に地力を付けてきたマイネルラクリママーティンボロスピルバーグ、そして、3年前のこのレースで、ワン、ツー、スリーに名を連ねたベテラン勢(トーセンジョーダンダークシャドウペルーサ)という面々が脇を固める、“何が起きるか分からないなぁ”という布陣。

もちろん、いつもながらに凱旋門賞組(今年はハープスタージャスタウェイゴールドシップ)の姿がなく、かつて日本の一線級の馬がほとんど顔を揃えていた時代のレースに比べれば、決して「充実した」メンバーとまでは言えないのだが、それでもここ数年に比べれば、少しはマシになったのではないか、というのが、馬柱を見た時の感想だった。

また、1番人気に支持されたイスラボニータには、3歳という年齢と「フジキセキ産駒」という血統背景の問題が*1、2番人気のジェンティルドンナ、3番人気のフェノーメノには、休養明けぶっつけ本番、というローテーションの問題があって、馬券的にもいろいろと狙いどころが多かったレースだった、と言えるだろう。

特に、ドバイ遠征から帰国した直後の宝塚記念で不可解な惨敗を喫し、休養を挟んだ再起の一戦、としてこのレースを迎えたジェンティルドンナにとっては、ここが正念場、という状況であり、あれだけの実績を誇りながら、単勝人気が4.7倍、複勝に至っては3番人気、というあたりに、彼女に懐疑的な目を向けるファンの心理が如実に現れていた。

熾烈な競り合いの末に・・・

レースが始まってみれば、予想通り、カレンブラックヒルが引っ張る。
例年に比べれば、かなりゆったりとしたペース(前半1000mが60秒7)で進行したこともあって、人気のジェンティルドンナイスラボニータが先行し、専ら「前の方」に視線が集まる、秋の天皇賞らしからぬ展開となった。

ジェンティルドンナに騎乗した戸崎圭太騎手にしても、イスラボニータに騎乗したルメール騎手にしても、お互い競り勝てば栄冠に大きく近づく、ということは当然分かっていたはず。ゆえに、シビレるような競り合いが、3コーナーを回り、4コーナーを回っても続いて、双方最内のコースをロスなく進む。

位置取り的に後ろにいたイスラボニータの方が、先に外目のコースを取り、脚色が衰えたカレンブラックヒルに最内のコースを塞がれそうになったジェンティルドンナを出し抜いて前に出る。

だが、そこで一瞬、脚を溜めたことが効を奏したのか、コースが空くや否や、ジェンティルドンナの強烈な末脚が一気に差し返す。

負けじと差し返そうとするイスラボニータと、勝負根性を存分に発揮して前を譲らないジェンティルドンナ
いずれのジョッキーも今回が初騎乗ながら、お互いの騎乗馬の持ち味を存分に引き出して*2、そのまま合わせ馬のような形で2頭ゴールまで突き抜ける・・・

最後、首の上げ下げを制したのはジェンティルドンナ(クビ差)。

現時点では3歳最強の若駒に、「世界レベル」の格と執念を存分に見せつける結果であり、彼女がそのまま昨年の雪辱を果たして「天皇賞馬」の栄冠をつかんでいれば、この2頭のたたき合いが“歴史に残る好勝負”になっていたはずなのだが・・・


残念なことに、勝ったのは外側から33秒台の差し脚で豪快に差し切った、スピルバーグ北村宏司騎手。

藤沢厩舎所属馬らしい「無理しない使われ方」でここまで来て、4歳になった昨年から今年にかけて3連勝、と充実ぶりは著しかった(しかも東京コースの戦績が【5 1 2 1】)とはいえ、未だ重賞未勝利、獲得賞金は出走馬の中で最低、という馬が、G1馬同士の“一騎打ち”を嘲笑うかのように栄冠をかっさらっていった様は、見る人によっては痛快だったのかもしれないが、個人的には、少々拍子抜けしてしまうところもあった*3

名門藤沢厩舎も、G1に勝利したのがこれが今季初めてだし、北村宏騎手に至っては、8年前のダンスインザムード以来の久々のG1勝利(2勝目)、ということで、職人技でこの10年、関東の競馬界を支えてきた師弟コンビが、ここで大きなタイトルを掴んだことをとやかく言うつもりはないのだけど、ここはジェンティルに取らせてあげたいタイトルだったな・・・と。

おそらくこれは、今回よりももっとメンバーが揃うJCで、前人未到の三連覇を達成する前の“布石”なのだ、と思って、ここから4週間、待つことにしたい。

*1:過去8戦、ダービーも含めて全て2着以内に食い込んでいる、という安定感は魅力なのだが、この血統で本当に大丈夫か?という疑念は最後まで消えなかった。また、ワンアンドオンリー菊花賞であっさりと負けてしまったのを見て、春のクラシックで活躍した3歳世代の“実力”にも疑問符が付いたのは確かだと思う。

*2:特に、いつもの強引な騎乗で最内から脚元を掬おうとしたサトノノブレス&岩田騎手の進路を完全にブロックして、2頭のたたき合いの邪魔をさせなかった戸崎圭太騎手の騎乗はさすが、だった。

*3:ここで差し切ったのが、ジャスタウェイとかハープスターであればともかく・・・。

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