毎年、年末の恒例企画として法務関係者を楽しませてくれるBusiness Law Journal(BLJ)誌の「法務のためのブックガイド」特集。
BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2015年 2月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
- 発売日: 2014/12/20
- メディア: 雑誌
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ここ数年は、冒頭の「座談会」で総括的な紹介を行ったうえで、法務担当者、弁護士の分野別の紹介稿を掲載する、というパターンが定着していて、安心して読める企画だったのだが、今年はちょっとした“異変”が起きていた。
何かと言えば、いつもの座談会の後に、
「企業法務系ブロガーによる辛口法律書レビュー」
というタイトルで、「アホヲタ元法学部生の日常」名義で活躍している“ronnor”氏の記事が、実に4ページにわたって掲載されていたのである。
書き出しからして、
と、目の前の仕事に関係する本すら十分にはカバーできていない自分などからしたら、信じられないような強烈なパンチをかましているし*1、内容的にも、一つひとつの書評に、(業界ではかねてから定評がある)鋭い指摘とウィットの利いたユーモアが散りばめられており、ややマニアックな印象すら受ける脚注の記述*2まで、隅から隅まで面白く読める。
個人的には、このまま通年連載で、新刊書籍を毎月10冊ペースで切っていく、という企画でもやれば、BLJの発売部数も1割、2割は増えるんじゃないか、という気がしているが、いずれにしても、ronner氏の記事が今年の「ブックガイド」企画の中で、あまりに圧倒的な存在感を示しているがゆえに、まったりムードの座談会も、他の顕名・匿名記事も、何となく食われてしまっているなぁ、というのが率直な印象であった。
なお、この企画の中で取り上げられている本は、いずれも有益なものだと思うのだが、やはり、取り上げる人それぞれの視点、というのはあって、そこは自分の立ち位置&好みに合わせて、必要なものをピックアップしていくのが良いのではないかと思っている*3。
また、個人的には、編集後記にさりげなく書かれている、
「2015年は本誌編集部初で書籍を何点か刊行する予定です」
というところに期待している。
おまけ
2年前のエントリーと同じパターンで、今年最後の書籍紹介をしておくことにしたい。
- 作者: 高橋淳
- 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
- 発売日: 2014/12/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書は、「職務発明」制度について、Twitterやブログで積極的な提言を行っている高橋淳弁護士が、現在行われている特許法改正の議論も踏まえつつ、これからの企業の実務において、(主に)知的財産担当部門にどのような対応が求められるのか、という視点で、書かれたと思われる一冊である。
高橋弁護士といえば、発明者の対価請求権を、(発明者への利益分配ではなく)「イノベーションを促進するためのインセンティブ」と解する立場から、現行特許法の職務発明制度や、「発明者帰属」派の主張に対して、厳しい指摘をされているのを拝見することが多い先生、ということもあって、自分は、書店でおそるおそる本書を手に取ったのだが、本の中では、「反対側の意見」についてもしっかり紹介されており、全体的にバランスが意識されたつくりになっている。
もちろん、メインの部分は、ご自身の立場から、相当対価の算定方式等、制度設計について論理一貫した解説が行われており、特に、「実績補償方式には看過できない様々の問題点・弊害があります」「特許法上は、一括払いが原則となるのです」(70頁)という点を強調されているくだりなど、著者のカラーがかなり強く出ている、と感じられるところもあるのだが、それぞれの箇所で、“各企業の実態に合わせて”という趣旨のフォローが施されていることもあり、全体としてみれば、スタンダードな記載になっていると思われる。
また、それなりにこのあたりの実務をかじってきた者からすると、「第4章」の「実務的問題点・留意点」で書かれている「退職者への対応」や「未出願発明の取り扱い」、「出向者や取締役による発明の取り扱い」といった、細かい論点が網羅的に拾われているのは、非常に有難い*4。
立場や視点の違いゆえ、個々の記述の中には、腑に落ちないところもいくつか見受けられ*5、このあたりは、実際に企業内で実務に関わっている人々の視点も取り込むと、より内容的には充実するのではないか、と思うところだが、いずれにしても、実務上何が必要か、ということを考える上で、非常に参考になるものであることは間違いないだろう。
なお、第1章では改正の最新動向(先日のエントリーでも言及した小委員会での議論が第9回までカバーされている*6ことに加え、論点の整理もなされている)が詳細に書かれているし、第2章に掲載されている職務発明に関する「近時の裁判例」の紹介も充実していて、資料価値はとても高い、ということも併せて付言しておきたい。
冒頭の特許法35条条文の引用誤り*7に始まり、全体的にかなり誤植が目立つなど、出版物としてはまだ未完成(?)なところも多いと思うだけに、いずれ訪れるであろう特許法の改正に合わせて、より版を重ねていただければ、と思うところである。
*1:実際、カバーしている領域もかなり幅広く、企業法務全般にわたる。
*2:なお、この脚注の使い方が、何となく自分のそれ、と似ていて、無意味に共感した(笑)。
*3:例えば、ronnor氏や柴田堅太郎弁護士が高く評価している『法務の技法』などは、「外」から企業の中に入ってきた弁護士等にとっては有意義な書籍なのだと思うが、長年、会社の中の空気を吸ってきた者が読むと、「これをノウハウ本にしないといけないような時代なのか・・・」という感想しか出てこない。新入社員等にとっては有益、という意見も聞くところだが、あの本に書かれているような「技法」は、それぞれの組織での実地経験の中で体得して身に付けるからこそ意味があるものなのであって、それを最初から目学問、耳学問で知ったところで、得られるものは少ないだろう、と思っている。また、『勝利する企業法務』は、ひそかに評判になっていることを耳にして、書店で手に取ってみたが、宣伝色が濃すぎて、自分は生理的にダメだった。
*4:昔、森濱田松本の飯塚卓也弁護士が編著者となっている「徹底解析 職務発明」という本(商事法務)があって、かなり重宝したものだが、論点の網羅性に関しては、それに匹敵するのではないかと個人的には思っている。
*5:例えば183頁で、職務発明規程の変更に応じない「少数の反対者」への対応として、労働条件変更法理を持ち出して「配置転換をする・・・ことが可能」と書かれているくだりなどは、かなり違和感があり、ここは、会社の規模にかかわらず「個別同意の取得」を目標とする、という前提にも無理があるように思われる。