結果が全ての世界、ではあるけれど・・・。

アギーレ監督就任後、日本代表の試合を、初めてまともに通して見た3時間。
そして、戦前から抱いていた、もしかしたら・・・という予感が、見事に的中してしまったことに、居心地の悪さを感じずにはいられなかった*1

「サッカーのアジアカップ第14日は23日、シドニーなどで準々決勝2試合を行い、日本は1-1からのPK戦の末、アラブ首長国連邦UAE)に敗れて2連覇を逃した。日本が4強入りできなかったのは1996年以来、5大会ぶり」(日本経済新聞2015年1月24日付朝刊・第40面)

日本代表が、まだ「W杯」の舞台を知らなかった1996年大会以来の屈辱的な早期敗退であることに加え、シュートを35本も打ちながらわずか1点しか取れなかったこと、とか、最後は、本田、香川、というビッグネームがPKを外して終戦・・・とか、バッシングしたくなる材料には事欠かない敗戦だっただけに、この先、監督の去就から代表経験が長い選手たちへの「限界論」まで、サッカーメディアから週刊誌まで、とやかく騒がしくなることは間違いないところだろう*2

だが、キックオフからPK戦終了の瞬間までを見届けた者として、この試合を「結果」だけで語るのは、あまりにもったいない、と思うだけに、僅かに垣間見えた“希望の光”を、ここに書き残しておくことにしたい。

遂に訪れた「世代交代」

何と言ってもこの試合で素晴らしい輝きを見せたのは、後半途中から投入された柴崎岳選手だろう。

遠藤選手に代わってフィールドに入るや否や、中盤から精度の高い縦パスをガンガン通しまくったかと思えば、前線に出没してで自ら果敢に攻撃参加、と縦横無尽の大活躍。
試合のリズムを一気に“日本一辺倒”のものにした。

そして、選手としての自分の価値を一気に引き上げた感がある、本田選手とのワン・ツーパスからの豪快な同点ミドルシュート

延長戦に入ってからは、長友選手負傷のアクシデントもあってサイドバックに回ったため、少し存在感は落ちたものの、それでも本田選手に代わってフリーキックを蹴るなど、最後まで見せ場を失わず*3PK戦でも、余裕をもって右隅に決めるなど、強心臓ぶりを存分に発揮した。

遠藤選手の力が落ちた、とは決して思っていないが、この試合に関して言えば、交代前後でのチームの攻撃のキレの差は歴然。
長年探し続けてきた“ポスト遠藤”のピースがようやく埋まった、そんな記念碑的な試合として、後々まで語り継がれても不思議ではない・・・
それくらいのインパクトはあった。

個人的には、後半早々から出場した武藤選手が、度々あったチャンスで「あと一歩」を決めていれば、試合の勝敗と合わせて、よりエポックメイキングな試合になったと思うのだけど、それでも、この先もまだまだサッカーも、日本代表の歴史も続く、ということを考えれば、この試合の価値は、決して失われるものではない。

アギーレ監督の勝負師、としての一面が見えた

就任後、選手選考でも、親善試合での戦い方でも、疑問符をいくつも付けたくなるようなマネジメントが目立っていたアギーレ監督だが、この試合に関しては、「勝負師」としての才覚を存分に発揮していたのではないかと思う。

特に、遠藤、岡崎、という日本代表の主力2選手を、後半の早い時間帯でスッと交代させる、という、先手、先手の采配で、完全にゲームを支配したところは、お見事の一言だった。

結局、日本の攻撃陣が決定機を決めきれなかったことと、延長戦に入ってからの長友選手の負傷によって、監督がかけた「勝負」は裏目に出る結果になったが、後手後手の選手交代で、試合の流れを変えられずにズルズル行くことが多かった前任者・ザッケローニ監督やジーコ監督に比べると、明らかに一枚上、の采配。

もちろん、真夏の南半球での戦いで、グループリーグから選手を固定し過ぎて主力選手の疲弊を招いたこととか*4、大事な試合で、A代表経験が乏しい武藤、豊田、といった選手達に命運を委ねざるを得ない状況にしてしまったこと*5、さらに、調子の上がらない香川選手を先発で使い続けたこと*6など、叩こうと思えば叩ける材料はいくらでもあるのだろうけど、それでも、日本代表の試合で、試合の流れを一気に変える積極的な采配、というのを目にすること自体が久しぶりで、この試合が「最後まで見る価値のある試合」になったのは、監督の采配の影響も大きかったのではないか、と思っている。

おそらく、この先、次のW杯まで、アギーレ監督が指揮を執り続ける可能性は極めて低いと思うが、次の選択にあたっても、「勝負師」としての資質、は、きっちり見極めてほしい、と思った次第である。

代表の試合で久しぶりに感じた“熱”

細かい話はともかく、この試合からは、両チームの代表の「熱」がひしひしと伝わってきた。

アジアの頂点を決めるトーナメント戦、となれば、真剣勝負になるのは当然なのだろうけど、機関銃のようにシュートを浴びせた日本の攻撃陣と、体を張って守り続けたUAEの守備陣。負けた方がベスト8敗退、という結果になってしまうのは、もったいないくらいの熱い試合だったわけで・・・*7

美しくパスを回す、というよりは、ボールを持ったら走れ、と言わんばかりの、縦へのスピード感がゲームを支配したことが、UAEを防戦一方に追い込み、日本の再三の波状攻撃を可能にした理由だと思うが、攻めた方も、守り切った方も、称賛に値する戦いぶりだった、と思う。

そして、本田選手、長谷部選手、長友選手という代表のベテラン勢が軸となって体を張り*8、台頭した若手選手がしっかり絡む、という、勝ってさえいれば「理想的」と言われたであろう展開で、長友選手の負傷から中盤へのコンバート、PK戦に至るまで、長谷部選手のキャプテンシーが結びつけたチームが、ちゃんと機能していた、ということも忘れてはならないだろう。

結果は非常に残念だし、アジアでこの戦績では言い訳もしづらいところだが、ここ最近はびこっていた「アジアは弱い」という変な先入観を捨てて、今の日本代表と、「アジア」という地域の世界でのレベルを比較すれば、今大会の結果はそんなに悲観するようなものではない。

日本が、アジア大会で優勝した後の大会では、(地元開催の2002年を除いて)W杯本戦で結果を残せていない、ということからも分かるように、地域ごとのタイトル戦とW杯の結果には、元々有意な因果関係はないのだから、日本サッカー界の関係者には、雑音に惑わされることなく、垣間見えた光明を、3年後に向けて大きく育てていく、そんな仕事をしてほしいなぁ、と思うのである。

*1:大して根拠もなく、「UAEなんて大したチームじゃない」と戦前言っていた識者は多かった(NHK・BSでスタジオ解説をやっていた某元代表監督なんて、その典型・・・)のだが、2009年ワールドユースベスト8、2012年ロンドン五輪初出場、と順当にステップアップし、2013年にはガルフカップも制しているUAEは、今、中東で一番勢いがあるチーム、と言っても良いチームなわけで、簡単な相手ではないことも、日本との闘いが「いい試合」になることも、十分予想できたことだった。そして、実際その通りになり、地力と経験の差を120分のスコアで示せなかった日本が、天運に見放された、という残念な結果になってしまった。残念なことではあるが、思いのほか意外感のある結末ではなかった、というのが本音である。

*2:まだ、客観的に見れば「世界」など程遠かった加茂ジャパンの時代でさえ、アジア杯でベスト8敗退の憂き目にあったことで、メディアには随分叩かれたのだから・・・。

*3:壁の作り方が、あまりに“本田仕様”になっていたためにキッカーを替えたのだろうけど、あの本田が大事な場面でキッカーを譲った、というところに、柴崎選手の“他の若手選手と違う何か”を感じたし、実際、本当にあと一歩、のところにシュートを打って見せたのはさすがだった。

*4:とはいえ、試合勘の落ちている選手にコンディションを取り戻させることもグループリーグでは大事だし、中盤に関しては、柴崎選手がインフルエンザで出遅れる、という誤算があったことも大きかったように思われ、監督ばかりを責めるわけにもいくまい。

*5:武藤選手はともかく、豊田選手などは、これまでの出場時間数も少なかったし、中盤の選手たちとの連携も今一つだったように見えた。この大事な場面で投入するのであれば、グループリーグのうちから、先発で使っておけばよかったんじゃないか、という議論は当然出てくることだろう。

*6:この日もそうだったが、4年前のアジア杯の時の溌剌とした動きに比べると、香川選手の動きはどうしても鈍く見えたし、そもそも存在感自体を欠いていた。PKのキッカーを6番目にしたところからして、アギーレ監督もそれはよく分かっていたのだろうが、それなら最初から違う選手で行けばよかったのに…と思わずにはいられない。

*7:ザッケローニ監督時代、特にW杯本番までの1,2年の間に、こういう試合を見ることはなかなかできなかったし、それが自分の中で代表戦への関心を薄れさせていた大きな原因だったのだが、こういう試合をいつもすることができるのであれば、もう一度、代表の試合を見にスタジアムに足を運ぼうという気にもなるものである。

*8:特に、あんなに切れている長谷部選手の動きは、久しぶりに見たような気がする。