そうだ、これは「アジアの」W杯なのだ。

始まる前は、中東、それも何もないことで有名だったカタールなんかでできるのか?という懐疑ムードが強かった4年に一度の祭典だったが、始まってしまえばいつものワールドカップ

国家の富を存分にアピールする立派すぎるスタジアムに、世界各地の予選を勝ち抜いた強豪国が集って本気のバトルを繰り広げ、そこに世界中から集まった大観衆がCOVID-19など昔の話、と言わんばかりに熱狂的な声援を浴びせ続ける。

飛び込んでくる映像を見る限り、その絵は4年前のロシアや、8年前のブラジルと比べても何ら遜色ない。

久しぶりにフルでサッカーの試合を見た人間にとっては、多用されるVARで度々中断される展開にはどうしても違和感があるし、AIによるオフサイドの「厳格」な判定もかえって本当の意味での”公正さ”からは試合を遠ざけているように思える。

長々と確保されるアディショナルタイムは「90分のスポーツ」という常識を覆し、観戦者の生活リズムも微妙に狂わせる。

そして何よりも、「見る」ためのツールが、テレビではなくスマホやノートPCになった、という現実に、「良い時代になったものだ」と喜びつつも、どことなく戸惑いを感じている自分がいる。

だが、いつもより短い大会期間に、一日4試合、ぎっちりと詰め込まれた試合日程を追いかけていけば、そんなあれこれに慣れるのも恐らく時間の問題。

「簡単には取れない『1点』を取り合う」というサッカーの本質が変わらない限り、多少ルールが変わろうが、視聴するツールが変わろうが、繰り返される興奮に変わりはない・・・我らが日本代表初戦の熱狂に90分+α、じっくり浸った後、なおさらその思いを強くした。


「欧州の優勝経験国」というだけで名前負けしていた20年前ならいざ知らず、今や主力選手のほとんどが欧州のリーグでレギュラーとして体を張っている時代。

だから、今大会の初戦の対戦相手がドイツ、と聞いたときも、そこまで驚きはしなかった*1

試合が始まってからも、しばらくの間は、ドイツ代表のほうに何となく緩慢な動きが目立ち、豊富な運動量を誇る久保健英選手や前線から切り込む前田大然選手のスピードが敵陣を切り裂いて先制・・・という予感も何度か訪れた。

だが、そこは歴戦の雄。

本田圭佑氏の解説によれば、ドイツ側が前半早々に陣形を修正して攻撃の枚数を増やしたことで日本は防戦一方になった、ということだったようだが、素人目に見ても、ベテランのミュラーギュンドアンといったお馴染みの選手から、左サイドの脅威・ラウムやドリブルでかき回す19歳・ムシアラといった新鋭の選手たちまで、日本DF陣が何度クリアしても波状攻撃を仕掛けてくるドイツの白いユニフォームの「圧」は尋常なものではなかった。

不幸中の幸いだったのは、前半、ドイツ側が8割近いボール支配率に10本を優に上回るシュート数と、圧倒的に有利な状況を築きつつも、日本の失点がPKで献上した1点にとどまったこと。

そして、最終予選までは「交代が遅れがち」と批判されることも多かった森保監督が後半開始から「冨安」というカードを切り、さらに浅野選手、三笘選手というスピード自慢、ドリブル自慢のプレイヤーを早々に投入したことで、流れは大きく変わっていく。

前半とは別のチームのような強烈なハイプレスを仕掛けられたドイツ守備陣はじわじわと”怖さ”を失っていく。

もしかしたら、決してコンディションが十分ではない中、最初の45分で”攻め疲れた”ところがあったのかもしれない。ミュラーギュンドアンの両選手は後半20分過ぎで早々とベンチに退き、後半に入ってもなお脅威だったムシアラ選手も最後はかなり疲れた様子でピッチを去る。

もちろん、その間、日本側に全く危機が訪れなかったわけではない。

反撃で気が抜けた、ということではないだろうが、権田選手の神がかりセーブがなければ優に1点取られても不思議ではない状況はあった。

でも、そこで追加点を許さず、逆に後半26分、左サイドからの三笘選手の崩しを起点に、投入されたばかりの堂安律選手が同点ゴールを決める。

その次の瞬間から、前線からのプレスに代えて、しっかり守った後のカウンターに戦術をシフトさせたところに自分は日本代表の”進化”を見たし、度々チャンスを逃しても愚直に同じパターンで走り続けた浅野選手が、最後にGKノイアー選手の脇のほんのわずかな空間を通してシュートを突き刺したところで、選手たちの日々の鍛錬は結実した。

そこから7分+アディショナル7分。試合を見ていた側にはずいぶん長く感じられたが、既にエースを欠き、足も止まりつつあったドイツ代表に前半のような脅威は存在しなかった。

結果、2-1。堂々と勝ち点3をゲット。

これまでの実績を考えれば、「歴史的勝利」であることは間違いないし、前半のひどい状況を見て眠りについた人々にとっても、この結果は「マイアミの奇跡の再来?」と思い込んでも不思議ではないような代物だろう。

だが、本田圭佑氏の解説とともに試合の流れをずっと追ってきた視聴者なら、今日の試合は間違いなく、「勝てる」と確信できる瞬間が何度もあった試合だった*2

そんな状況を生み出したのが、「1点差で負けているがゆえ」の開き直りからくる名采配だったのか、それとも現地に押し寄せた日本からのサポーターの声援だったのか、あるいは解説席にいた本田圭佑氏の”強運”によるものなのかは分からない。前日のサウジアラビア対アルゼンチン戦に続いて、2日連続でのアップセットだけに、”地の利”を理由としてささやく人が出てきても不思議ではない。

東アジアと中東エリアとでは、同じ「アジア」でもあまりに違いすぎる・・・というのが日本人の率直な感想だとは思うが、この開催地が「欧州」でも「南米」でもない、ということが、もしかしたら東アジアの島国にも相対的な恩恵を与えてくれることになるのかもな・・・と思うと、この大会の見方もちょっと変わってくる。

大会は始まったばかりで、グループリーグだけでもまだ2試合残っている。だから、ぬか喜びは禁物ではあるのだが、この先、「アジア」でのW杯という事実が少しでもポジティブな方向に働いてくれることを願って、まだまだ続くこの大会を楽しんでいきたいと思っている。

*1:そもそもブラジルW杯での優勝以降不振が続き、Tier1から陥落したからこそ、スペインまで同居する、という激烈なグループが出来上がってしまったわけで、その意味では「格落ち」の相手だったともいえる。

*2:これで文句を言おうものなら罰が当たるが、後半の左サイドからの崩し(特に三笘選手、南野選手に堂安選手が絡むパターン)が実に見事だっただけに、もう1,2点取れたのでは?という思いさえある。

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