蓋を開けてみたら、こうなった。

昨年の商標法改正により、さる本年4月1日から出願が可能になった「新しいタイプの商標」。

どうなるかな、と思っていたら、今週になって、次々とデータが公表されている。

まず、特許庁のホームページに掲載された「4月1日の出願状況」。
https://www.jpo.go.jp/seido/s_shouhyou/new_shouhyou_jyoukyou.htm

これによると、4月1日に出願された件数は、電子出願と書面出願を合わせて471件、内訳としては、音144件、色彩190件、位置102件、動き32件、ホログラム3件、となっている。

そして、続いて、毎日新聞が、「新商標:音や色の出願、1週間で500件」という記事を掲載し(Web版、http://mainichi.jp/select/news/20150408k0000m020086000c.html)、より詳細に、これまでに出願した会社等の動向を報じている。

記事によると、

音の商標
 ・久光製薬(「ヒ・サ・ミ・ツ♪」のメロディーなど)
 ・江崎グリコ(「グ・リ・コ♪」の旋律)
 ・大幸薬品(「パッパラパッパ♪」で始まるラッパのメロディー)
色彩商標
 ・タカラトミー(「プラレール」の線路の色の青)
 ・セブン−イレブン・ジャパン(コンビニエンスストアの店舗に使うオレンジ、緑、赤の3色の組み合わせ)

といったあたりになる。

このうち、大幸薬品は、4月1日の時点でプレスリリースまで出して、前記ラッパのメロディと「クレペリン」のサウンドロゴの商標出願を行ったことをアピールしているし(http://www.seirogan.co.jp/uploads/arrival/pdf_390.pdf)、それ以外の会社についても、挙げられている商標に関して言えば、そんなに意外感はない*1

音の商標、特にサウンドロゴに関しては、著作権者、著作隣接権者との関係をどう整理しているのかな、という点にも個人的な関心はあるのだが、出願人がきちんと整理した上で出願しているのであれば、それで良いことである*2

ただ、気になるのは、音と色彩に関する商標だけで、上記記事で紹介されているもの以外にも300件以上が、出願開始初日に出願されている、ということ。

8年前の“小売商標祭”の時には、最初の4日間だけで2,656件も出願されていた、ということを考えると(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070504/1178269094参照)、控えめな数字ではあるものの、決して少ない、と言える数字ではない。

そして、この数は、「しばらく様子を見よう」と静観していた会社の担当者に、「念のためうちも出しておこうか・・・」という動きをさせるには十分なものではないか、と自分は思っている。

「新しいタイプの商標につきましては、ニーズは相当あるとしましても、何万件という単位で出願時において混乱するほどの出願があるということは想定できないのではないかということで、出願日の特例は新しいタイプの商標については設けないこととしております。」(2014年7月29日・明治大学知的財産法政策研究会(IPLPI)シンポジウム「改正商標法の評価と課題」における特許庁・青木商標課長の発言)*3

というコメントに象徴されるように、「そんなに出願する人は多くないのでは?」というのが、去年からついこの前くらいまでの関係者の空気だったのだが、果たしてこの先、特許庁の現在の審査能力でカバーできるレベルで収まるのかどうか、もう少し状況を注視した方がよいのでは?と思うところである。

なお、毎日新聞の記事の最後は、以下のような記者のコメントで締めくくられている。

「法改正の検討段階では、色や音の商標登録が、ほかの企業の広告、宣伝活動を制約しかねないとの懸念の声も上がっていた。権利をしっかり保護しつつ、競争も妨げない審査を特許庁が進められるかも問われることになる。」(強調筆者)

この点については、自分も全面的に共感できるだけに、特許庁には、“未知の新制度への不安”を払拭するような、メリハリを付けた審査を期待したい。

*1:個人的には、プラレールの線路の色が「青」というのは、言われてみればそうかなぁ・・・?というレベルの認識しかなかったのだが、同社の商品紹介のサイトなどを見ると「青いレール」こそが商品の象徴、とされており(http://www.takaratomy.co.jp/products/plarail/about/index.htm)、商品分野を特定すれば、十分識別力が認められるレベル、ということができるのだろう。

*2:今回、商標法29条は、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様によりその商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権実用新案権若しくは意匠権又はその商標登録出願の日前に生じた他人の著作権若しくは著作隣接権と抵触するときは、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。」と、音の商標の出願登録まで意識した規定に改正された。また、実務的には、使用云々以前に、「著作権者に無断で出願した」ということ自体が、トラブルを引き起こすことも稀ではない。サウンドロゴに関しては、かつて著作物性等を巡る訴訟提起事例が報じられたこともあり(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060111/1136918158)、広告主の企業が長年使用しているメロディであったとしても、慎重な対応が求められるところだと考えている。

*3:議事録(http://www.kisc.meiji.ac.jp/~ip/_src/sc846/20140729sympo.pdf)9頁参照。

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