一線を越えずに済んだことへの安堵感。

強制捜査や、被疑者の検察官送致(書類送検)等、事件発覚後のドラスチックな展開のインパクトが相当強かったこともあり、著作権業界では長らく話題が絶えることがなかった「ハイスコアガール」。

刑事処分については事柄的に不起訴も十分予想されたものの、民事事件の方は少なくとも一審判決が出るまでは続くだろう、という観測も強かったこの事件が、夏も終わりかけたこの季節に、急転直下の決着を迎えた。

「当社完全子会社・株式会社スクウェア・エニックス(以下「スクウェア・エニックス」)と株式会社SNKプレイモア(以下「SNKプレイモア」)との間で生じていたスクウェア・エニックスの出版物「ハイスコアガール」(以下「本件出版物」)に関する刑事及び民事の紛争(以下「本件紛争」)について、以下の通り平成27年8月24日付で両社間の和解が成立しましたので、お知らせいたします。」

という書き出しで始まるスクウェア・エニックス社の8月26日付プレスリリース*1には、これまでの紛争の経緯とともに、SNKプレイモアの株主も関与した上で「各社のコンテンツを利用した新たな協業機会の創出を可能にするため、本件紛争を早期に解決すべきとの合意に至」った、ということが記されており、その結果として、

SNKプレイモアは、上記刑事告訴を取り消す。
両当事者が、民事訴訟スクウェア・エニックスの債務不存在確認訴訟、SNKプレイモア著作権侵害差止請求訴訟)を各々取り下げる。
スクウェア・エニックスが「ハイスコアガール」の出版及び販売を継続することができる。

という決着に至ったことが明確に記されている。

プレスリリースの中では、定型的な「当社の業績に与える影響は軽微」という表現が使われているものの*2、ネットメディアでは発表直後からこのニュースが大々的に報じられているし、日経紙でも(強制捜査の時ほどではないものの)発表翌日である今日の夕刊に、和解を伝える記事が掲載されており、世の中に与えた影響は決して「軽微」なものではない。


実は、今年の3月に本件を素材に行われた明大IPLPIシンポジウムの議事録が最近公開され、その内容のあまりの濃さに感銘を受けて、エントリーを一つ立てようと準備していたところだったので、このニュースを聞いた時には、一瞬「時機に後れた」というフレーズが頭の中をよぎったりもしたし、おそらく「複製」、「引用」の解釈をめぐって激しく主張が戦わされていたであろう本件民事訴訟の判決を目にする機会が失われた、という事実に、ほんの少しがっかりしたところもあるのだが、昨年の強制捜査以降、刑事罰を受けるリスクにずっと晒され続けていた当事者の方々の気持ちを思うと、やはり、すべてをリセットする今回のような終わり方がもっとも望ましい解決だったのは言うまでもあるまい。

上記のような決着に至った原因が、プレスリリースに記載されているような純粋ビジネス的観点によるものなのか、それとも、有識者の抗議声明*3等、他の世の中の動きを踏まえたものなのか、コンパクトなプレスリリースからは、それを読み解く手掛かりのようなものを見つけることはなかなか難しい。

だが、どんな理由であるにせよ、よかったよかった、と心の底から安堵できる、そんな素晴らしい決着だったと、自分は思っている。


なお、今回のプレスリリースの中には、「SNKプレイモアが、「刑事告訴についての告訴取消書」を大阪地検に提出し、受理された」という旨の記載がある。

著作権侵害罪が専ら親告罪をなっている現行法の下では、“被害者(告訴権者)”が告訴を取り下げた瞬間に刑事処罰がなされないことがほぼ確定するのであるが、将来的に同罪が「非親告罪」化された場合に、こんなふうな分かりやすい決着になるのかどうか*4

そういった意味でも、なかなか示唆に富む事例だったといえるだろう。

そして、これまでに議論された内容については、あまり遠くならないうちに纏めておくことにしたい。

*1:http://www.jp.square-enix.com/company/ja/news/2015/html/e9d94051bc90936cadf6b66e9e7e5604.html

*2:確かに1コミック作品の紛争の帰趨だけで、一部上場企業の業績が左右されることはないだろう。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20141223/1419343311参照

*4:もちろん、民事上の和解が成立した、という事実は、起訴するかどうか、また、起訴した場合の求刑をどうするか、といったことに大きく影響する事実ではあるのだが・・・。

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