生々しく語られる就職戦線の混乱。

6月末頃に、自分の古い記憶も辿りながら、今年の就職活動の“荒れ模様”を皮肉るエントリーを書いたら*1、思いのほか反響があって、やはり、今の学生も、それを見守る人々も、皆、今年の無秩序状態に忸怩たる想いを抱いているのだなぁ・・・ということを改めて痛感した。

そして、8月も終わりに近づき、今年の大手企業の就職活動はほぼ“終焉”を迎えたこのタイミングで、日経紙の週替わりコラム「迫真」に、「真夏の採用活動」と題した記事の掲載が始まっている。

「縛りがない非加盟企業に出遅れるとの危機感から、選考解禁前に『面談』などと称して学生と接触する動きが相次ぐ。解禁当日には内定が出せるよう水面下で着々と準備を進めていた。
「7月下旬に『8月1日に本社に来てほしい』と人事部から電話が入り、1日に役員面接を受け、内々定を獲得。本社で用意されていた内々定者懇親会にそのまま参加した。
日本経済新聞2015年8月24日付朝刊・第2面、強調筆者、以下同じ。)

何をかいわんや、20年近くタイムスリップして「就職協定」が存在していた前世紀に逆戻り、である。

「今年はいつ決まるんだろう」と不安に駆られていた学生にしてみれば、先輩リクルーターから思ったより早い段階で連絡が来た、というのは嬉しいことだったはずで、それが意中の会社であれば、それはなおさらのことだっただろう、と思う。

当然、「指針」を逸脱して“抜け駆け”することに罪悪感を抱くはずもないし、抱く必要もない。
そもそも「指針」などというものは、学生の事情などつゆも知らない老人たちが勝手に決めたものだし、企業を縛るものであっても、学生を縛るものではないのだから。


自分が学生時代にお世話になった先輩方の中には、まだ就職協定が存在した時代に、「8月1日が就職活動解禁日、というルールなのだから、それ以前に行われている説明会やら面接に行くのはフェアじゃない」と言って、リクルーターの誘いにも微動だにしなかった気骨ある人もいて、そこまで徹底できるのは凄い、と、心から感服したものだった。

今年の就活戦線にも、そういうモノノフ魂を持って戦った学生がいるなら、そいつの将来を全力で応援したい、と思うのは確かだが、同時に、そういう振る舞いは誰にでも真似できることではないし、真似することを強制されるものでもないな、と自分は思っている。

「最初は非加盟企業に先を越される懸念が募ったが、いつの間にか加盟企業同士の水面下での奪合いが始まっていた。ルールを守るほど出遅れは深刻になる。例年なら左うちわのはずの、就職人気が高い企業にも今年は緊張感が漂う。」
『採用スケジュールを守る正直者がバカを見る指針に何の意味があるのか』。ある加盟企業の人事担当者は苦虫をかみつぶしたような顔でつぶやいた。」
(同上)

こういう“非常時”には、会社の(少なくとも人事部門の)本性が思いっきりあらわになる。

常識的な勘が働く採用担当者なら、こうなることは当然分かっている。
それでも、“経団連加盟企業である以上は抜け駆けをしない”と誓って、きっちりと約束されたスケジュール通りに動いた会社は、少なくとも、「その会社でずっと働きたい」と考えている人にとっては、心地よく働ける場所であるはずだし*2、逆もまたしかり、だと思うが、生き馬の目を抜く世界で競争を勝ち抜ける会社かどうか、ということになると、またちょっと話は変わってきて、そういったところまで未来を予想することはなかなか難しい。

ただ一つだけ言えることは、採用時期、タイミングが変わったことによって、今年の採用者の傾向が昨年までとはガラッと変わってしまう、という会社は決して少なくないだろう、ということくらいだろうか。

個人的には「バカを見」てでも、約束をきっちり守った会社は、きちんと報われ、称えられるべきシステムにすべきだと思っているが、仮にそういう方向が志向されるとしても、何をどうすれば?というところはあるし、そんなことになるのはまだまだ先の話だろうから、しばらくの間は、泣いて耐えるしかないのである・・・。



今は、多くの企業にとって上り調子の好業績のまっただ中で、人不足感も強いだけに、学生にとっては、多少出遅れても最終的にはどこかの会社には入社できる蓋然性が高い、という幸運な状況。

それゆえに、就活活動時期をめぐる混乱や、“先祖がえり”みたいな企業側の動きを、終わった後に“笑い話”として振り返れるだけの余裕も、学生側にはまだ残っているはずである。

だが、そういう状況が崩れた時、待っているのは“地獄”しかない。

このまま学生数の減少が続けば、いずれ、短期間で行われる「新卒一括採用」の伝統も滅びることになるだろうから、今の混乱も、あくまで過渡期的な現象に過ぎないのかもしれないが、できれば、振り回される学生が出てくることが余儀なくされるような制度は早めに改めるに越したことはない、と、心から願っている。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20150626/1436072815

*2:少なくとも合理的な理由もなくルールをないがしろにするような社風ではない、ということまでは期待できる。