時々、商標関係の記事がポン、と載る日経新聞に、「キャッチフレーズ」の商標登録に関する記事が掲載された。
「特許庁は2016年4月にも、企業が商品の販売促進のために使うキャッチフレーズを商標登録しやすくする。審査段階で認める類型を増やし、登録までの期間をこれまでの約1年から約4カ月に大幅に短くする」(日本経済新聞2015年9月25日付朝刊・第4面)
上の引用部分だけだと、あまりに“意訳”されている部分が多すぎて、法律の勉強から商標の世界に入った人だと「何言ってんの?」という感想を抱いてしまうかもしれないが、実務者の立場からは、まぁ言わんとすることは分かる・・・というところだろうか*1。
今年度に入ってから、「産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会」に設置されたワーキンググループで、「商標審査基準」の見直しが進められており、上記の記事で取り上げられた「キャッチフレーズ」についても、見直しの対象となっている(「標語、キャッチフレーズに関する商標審査基準について(案)」、https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/t_mark_wg_new12shiryou/04.pdf)。
少なくとも、9月17日の会議に提出されていた見直しの方向性に関する資料には、
4.商標審査基準改訂の方向性
(1)商標法第3条第1項第6号は、同項第1号ないし第5号には該当しないが識別力を有していない商標を総括的に規定している。現行商標審査基準が、第3条第1項第6号に該当するものとして「標語(例えば、キャッチフレーズ)」を規定しているのは、一般的に識別力がない商標に該当する典型的な類型を例示するものであるが、この記載では、第3条第1項第6号に該当するかではなく、形式的に「標語(例えば、キャッチフレーズ)」の該当性を判断するものと捉えられるおそれがある。そこで、商標審査基準の見直しにあたっては、「標語(例えば、キャッチフレーズ)」が識別力を有しないとされる理由を明確にした上で、その該当性を推認させる要素と否定する要素をそれぞれ列挙し、第3条第1項第6号の判断基準として機能するようにした上で、出願人に一定の予測可能性を与える内容にする必要があるのではないか。
(2)「標語(例えば、キャッチフレーズ)」が本号に該当する理由は、需要者が、出願商標の意味合いについて、出所識別標識ではなく商品又は役務の宣伝文句や企業理念等のみとして認識することが多いためである。そして、出願商標が、商品又は役務の宣伝文句や企業理念等として認識されるか否かは、出願商標から生じる観念と指定商品又は指定役務との関連性、指定商品又は指定役務の取引の実情、出願商標の構成及び態様等から総合的に判断する必要がある。商品又は役務の宣伝文句や企業理念等として認識されると推認させる事情としては、商品の特性や優位性を認識させるものであること、一般的に経営哲学・信条等を表す言葉が使用されていること、商標が一単語ではなく文章の形式になっていること、その構成が冗長であること等が考えられる。
(3)他方、形式的には商品又は役務の宣伝文句、企業理念等として需要者に認識されるような構成からなっていたとしても、商号等が含まれていることにより、出所識別機能も併せ持つ商標も想定できるため、その場合には本号該当性を否定する事情として働くことを明確にする必要がある。さらに、出願人の使用状況及び出願商標と同一またはこれに類する語の第三者の使用の有無など現実の使用状況から、出所識別標識とも認識されるに至っていると判断できる場合もあるため、その旨も明確にする必要があるのではないか。なお、出願商標が商品又は役務の宣伝文句や企業理念等として一般的に使用されていないことの事実や、出願人が創作したフレーズであることについては、あくまでも識別標識として認識されるか否かの一つの事情に過ぎず、これらの事実をもって直ちに識別力がある(本号に該当しない)とはいえないことも明確にする必要があるのではないか。
といったことしか書かれておらず、多くのキャッチフレーズが引き続き商標法3条1項6号に該当して拒絶される、という結論にかわりはないのだが、それでも、「出所識別機能を有するキャッチフレーズ」が存在することが審査基準において明確にされることによって、実務が受ける影響は決して小さくないように思われる*2。
個人的には、記事の中で出てくる
「世界最高を、お届けしたい」
といった類のキャッチフレーズにまで、商標登録が簡単に認められるようになってしまうと*3、キャッチフレーズを考える立場の人々はみな相当苦労するんじゃないか、という気がしていて、必ずしも歓迎すべき話ではないように思われるのだが、、それでもなおハードルを下げる方に政策の舵を切るのか・・・。
今後の行方に注目したいところである。