紛争収拾に向けたシナリオ

昨年末に勃発した新国立競技場のデザインをめぐる著作権トラブルが、やはり、本格的に紛争に発展しそうな気配である*1

2020年東京五輪で使う新国立競技場の旧計画のデザインを担ったザハ・ハディド氏の建築事務所は14日、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に対し、昨年末に決まった新計画のデザインが旧計画とかなり類似しているとして具体例を挙げて書面で通知したことを明かし、著作権をめぐる交渉を要求した。」(日本経済新聞2016年1月15日付朝刊・第35面)

そうでなくても国を挙げてのビッグイベントであることに加え、すったもんだあった後・・・、ということもあって、新デザインは公に晒された状態になっており、ザハ氏側で詳細な情報を入手することもそう難しくはないはず。
そして、“新デザイン”が、旧デザインに基づく設計施工を受注予定だった大成建設のJVの提案、ということになれば、依拠性の有無を争うことはほぼ不可能だし、類似性についても、「工期短縮」が新デザインのアピールポイントとなっている時点で、旧デザインと新デザインの間に、何らかの共通性があることは、強く窺われるところ・・・

そうなってくると、争点は「共通部分の著作物性」くらいに絞られることになり、ザハ氏側としては、かなり攻めやすい展開、ということになってくる。

「JSCからデザインの未納代金を全額支払うのと引き換えに著作権を譲り、事業についてコメントを封じる追加の契約条項への署名を求められた」(同上)

というザハ氏側の事務所の発表が、どこまで正確な内容なのかは分からないが、何が何でも2020年の開幕までに競技場を完成させなければならない、というJSCのプレッシャーを考えると、このような提案が出てきたとしても、自分は決して驚かない*2

少なくともここまでのリアクションを見る限り、ザハ氏側はJSCの対応に納得していない、ということのようだから、今後の協議の中で、ザハ氏側の本当の狙いが何なのか*3ということを探っていくほかないのだが、もし、金銭の支払いだけで話を付けることができるのであれば、そうするにこしたことはない話だと言えるだろう。

予算の中で動いている話である以上、“言い値で支払え”ということを安易に言うのは憚られるが、万が一、建築差し止めの仮処分でも申立てられて、その結果、工事の一時中断を余儀なくされることになれば一大事なのだから、その前に手を打つ・・・というのは、リスク管理上当然のことである。

また、原著作者としてのクレジット明記、といったことまで要求されるようになってくると、いろいろややこしい話は出てくるものの、これまでの経緯を踏まえて考えると、個人的には、そこまでやっても良い事案なのではないかな、と思わずにはいられない。


昨夏からの諸々の騒動の教訓を踏まえて、本格的な紛争に発展する前に早めに処理することができるのか、それとも、法廷で血みどろの争いを繰り広げることになるのか?

この種の話で、どう対応するのが良いか、ということについて明確な答えがあるわけではないし、最終的には、受け止める側の“経営判断”で決めるべきマターだけに、今は、今後の経緯をひたすら見守るほかないのだが、関係者が決断できずにズルズル泥沼・・・という展開だけは勘弁してほしいなぁ、と思った次第である。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20151224/1452485585

*2:「未納代金」がどのような趣旨のものなのかは分からないが、旧デザインが“廃案”になったために、契約を途中で解除して(契約上は)支払義務を免れたはずの設計費用の一部をJSCが支払う、ということなのであれば、一応話の辻褄は合う。

*3:著作権譲渡ないし利用許諾の対価の額に関心があるのか、それとも設計者としての名誉を与えることで解決できるものなのか、等。

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