「エンブレム」の次は「建築」か? 〜 止まらない東京五輪著作権紛争

今年の著作権関係の最大の話題、と言えば、「五輪エンブレム」をめぐる一連の騒動だろう*1

社内の研修等でしばらく使いまわせる素材が見つかった、という点で、法務・知財畑の人間としてはありがたい話だったのかもしれないが、東京五輪の成功に向けて地道に汗をかいている市井の多くの人々にとって迷惑この上ない話だった。

幸いなことに、秋以降、話題になることもめっきりなくなり、「新しいエンブレムの作成」という前向きな話の方に世間の関心が向かっていくようになったから、良かったな、と思っていたのだが、ここに来て、違うところで、再び“デザイン”をめぐる問題が吹き出そうとしている。

「白紙撤回となった新国立競技場の旧計画のデザインを手掛けたザハ・ハディド氏の建築事務所は23日、新たに採用された大成建設、梓設計と建築家の隈研吾氏の計画案について『デザインチームが類似性について詳細な調査を開始した』と明らかにした。法的措置に踏み切るかは『未定』としており、調査結果を受けて検討するとみられる」(日本経済新聞2015年12月24日付朝刊・第34面)

想定予算を大幅に超える、という理由で、「新国立」の原案がボツになった時期は、ちょうどエンブレム問題で世の中が騒がしくなっていた時期と重なる。
その意味で、東京五輪の関係者としては、エンブレム問題同様、早期に新たなデザインを公表することで、年内に騒動の幕引きを図りたかったのだろう。

だが、計画策定のための準備期間の短さに加え、4年程度で完成まで持っていかないといけない、という工期の制約を考えると、全く新しいデザインで一から実施設計、詳細設計を行う、というのはあまりに無謀だ。

そして「工期短縮」という項目が評価されて大成建設JVの案が選定された時点で、従前のデザイン&設計資料がある程度使われることになること、そして、そのことが、旧案の創作者だったザハ氏側との間で、何らかの紛争を招く可能性があることは、容易に想像できることであった*2

「建築」だからといって、あらゆる部分に著作物としての創作性が認められるわけではないし、「キールアーチ」のような極端にデザイン性が強い部分を除けば、仮に認められたとしても類似性が肯定される範囲は狭い、と考えるのが一般的である。

したがって、エンブレム騒動の際の欧州のデザイナー氏と同様に、ザハ氏が法的手段に訴えたとしても、それが最終的に認められる可能性は必ずしも高いとは言えないように思うのだが、そうでなくても遅れ気味の工程の中で、一度でも仮処分が認められれば即アウト、という状況になりかねないだけに、今後、JSCや大成JVが、ザハ氏側に対してどう対応していくか、というのが極めて重要なポイントになってくることだろう。

背に腹は代えられない以上、個人的には、ザハ氏に「共同著作者」としての名誉を与えるとか、場合によっては、ライセンス料を支払ってでも処理すべき事案ではないか、と思っているのだが、いずれにしても、新しいエンブレムが決まる頃までには落ち着いていてほしいなぁ・・・と思うところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20150903/1441411666参照。

*2:今回のコンペにおいてデザインそのものでは大成JV案よりも高い評価を受けていた竹中・清水・大林JVの案が前記の理由で落選し、そのデザインを担当していた伊東豊雄氏の“皮を剥げば”発言を招いたことも、大成側には痛手だったと思われる。