「ポケコイン」に法規制の網をかけることに合理性はあるのか?

ポケモンGO」のリリース直後から話題になっていたことではあるが、遂に金融庁も表だって動き出した模様である。

「人気のスマートフォンスマホ)向けゲーム『ポケモンGO』に出てくる『ポケコイン』と呼ばれるゲーム内通貨が、プリペイドカードと同じ資金決済法上の『前払い式支払い手段』に当たるかどうかに金融庁が関心を示している。同庁は実態の把握に向け、ゲームを提供するナイアンテック社にヒアリングを始めた。」(日本経済新聞2016年8月26日付朝刊・第5面)

いわゆる“ゲーム内通貨”が資金決済法の規制を受けるかどうか、という問題については、今年の春にLINE社が標的となったばかりで、しかも、LINE社の場合、直接お金を払って買うわけではない「宝箱の鍵」等のアイテムの通貨性が問題視されたのに対し、今回の『ポケコイン』は、そのままズバリお金で買えてしまうもののようだから、資金決済法第3条1項の「前払式支払手段」の定義*1にはより近く、状況的には厳しいように思われる*2

いま思いつく反論としては、「ほとんどのユーザーは、わざわざお金を払って「ポケコイン」を集めるようなことはしておらず、あくまでゲームを進める過程で入手できる“おまけ”に過ぎない、そして、お金を払って「ポケコイン」を入手する、という行為は、“ゲーム内通貨の入手”というよりは、“ゲームの進行を早めるためのオプションチャージを払う”と評価されるべき行為だから(「ポケコイン」自体に対価性がある、ということではないのだから)、資金決済法の規制を受けるべき場面には当たらない」といったところだが、頭の固い金融庁、財務局の役人に理屈で説明して説得できる自信はない*3

もっとも、資金決済法における「前払式支払手段」の規制が、プリカ法(前払式証票の規制等に関する法律)を継承するものであり、本来、商品券やプリペイドカード*4を念頭に置いたものだったことであることを考えると、一アプリ内で完結するゲーム内のアイテムを「前払式支払手段」と定義すること自体、自分は大いに疑問を感じている*5

そして、2010年の資金決済法事務ガイドライン見直し*6の際にも同じことを考えていた方はいたようで、パブコメでも「適用除外」を主張する意見は当然のように出されていた*7
だが、時は、「消費者保護」を優先したのか、当時のパブコメに対する当局の冷淡な回答が暗示していたとおり、一気にゲーム内通貨に網をかける方向に傾いてしまっているようである。

自分は、そもそもアプリを進めるためにお金を出して有料アイテムを購入すること自体滅多にないし、お金を払って買ったものは即時消費してしまう。
また、ヘビーユーザーの中には、課金アイテムの購入が常態化している人もいるのかもしれないが、それでも、ゲーム内でそれを使わずに未使用のまま溜め込む人、というのは相当限られているはず。

そうなると、ここに資金決済法の網をかぶせることで保護される消費者、というのが一体どれだけいるのか? という疑問も出てくるのだが、それでも、日本資金決済業協会のホームページ(http://www.s-kessai.jp/cms/consumer-giftcard-prica-netprica/payback)を見ると、サービスを終了したゲームの払戻公告であふれてしまっているわけで・・・*8

できることなら、米国のベンチャー精神を体現する会社として、ナイアンテック社には、理論武装して、金融庁による杓子定規的な法適用と徹底的に戦っていただき、現状の運用に一石を投じていただけないものか、と思う次第である。

*1:第1号 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの 第2号 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの

*2:あれだけ話題性のあるゲームだから、「1000万円」という最低額基準もあまり意味はなさないだろう。

*3:確か「課金しなくても楽しめる」というのが「ポケモンGO」のコンセプトだったはずだから、日本国内での「ポケコイン」の有償頒布をやめてしまう、というのも一つの手だろうが、それでゲームのビジネスモデルが維持できるのかどうか、は何とも言えない。

*4:自家発行型か、第三者発行型であるかにかかわらず、これらはある程度広い範囲の店舗なりサービスなりで使うことが予定されているものである。

*5:特定の事業者のリリースする複数のゲームに共通して使えるようなモノであれば話は別だが。

*6:http://www.fsa.go.jp/news/21/kinyu/20100301-2.html参照。

*7:http://www.fsa.go.jp/news/21/kinyu/20100301-2/01.pdf参照

*8:机の中に死蔵している可能性が高く、より広範な告知の必要性が強い商品券等の公告が完全に埋もれてしまっているのは、率直に言っていかがなものかと思う。

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