不思議な錯覚〜「合格者1500人時代」の再来。

自分の中では“遠い日の思い出”になりつつある司法試験。
当然ながら関心も薄れつつあるのだが*1、合格発表の記事を見ると、長年の惰性でやはり一言二言書きたくはなる。

法務省は6日、2016年の司法試験に1583人が合格したと発表した。昨年より267人減り、現行制度の試験では、初年の06年を除き最低。合格率は22.9%だった。」(日本経済新聞2016年9月7日付朝刊・第38面)

確かに、法務省の公式発表に基づく数字を整理すると、

出願者数 7,730名(前年比1,342名減)
受験者数 6,899名(前年比1,117名減)
合格者数 1,583名(前年比 267名減)

と、昨年は僅かながら下げ止まっていた受験者数が1000人以上も減少し、それに連れて合格者数も減少している、という状況が良く分かるし、合格率も23%を割り込む状況で、「現行制度の試験で初年度を除き最低」というフレーズを見てしまうと、ものすごくスケールが小さく、狭き門の試験になったような気がしないでもない。

だが、「1500」という数字は、かつて存在した古い試験の受験者にとっては“夢”の数字だった。

当時最盛期を誇った司法試験予備校が“空前絶後、史上最大のチャンス”と煽り、学生から社会人まで、初挑戦組からベテラン受験生まで、40,000人もの受験生が“人生一発逆転”を目指して殺到した時代のキーワードが「1500」。

現実には、最終合格者が1500名を超えた年は一度もなく(2004年の1483名が最高)、論文試験段階で超えたのも2004年の一度きり(1536名)で、3万人を優に超える人々が無念の思いを抱えて撤退を余儀なくされる結果になったわけだが、あの頃、祭りのまっただ中にいた者にとっては(自分も含めて)、「1500」というのが実に甘美な響きを持つ数字だったことは間違いない*2

受験者の質もスタートラインに立つまでの苦労も投資も当時とは全く異なる以上、今の受験生の方々を当時の受験生と比べるのは失礼なことだとは思う。

ただ、もし、試験の当事者の方々の中に、今年の合格者の数を見て、“下り坂の停滞感”を感じている人がいるのだとしたら、「着眼点を変えましょう」とどうしても言いたくなってしまう。
そして、どんなに削られても、合格者数がこの水準から大幅に減ることは現在想定されていない、ということの幸福感を少しでも味わっていただきたい、と思わずにはいられない。


なお、受験回数別の合格者数を見て気づくのは、「2回目」受験の合格者数の減り方の激しさで、これは近年の好景気で、1度受験した後の企業就職等への転身組が大幅に増加しているなぁ、という筆者自身の実感とも見事に合致する結果となっている。

1回目 867人( 53名減)
2回目 333人(172人減)
3回目 206人( 61人減)
4回目 124人( 34人減)
5回目 53人

また、予備試験ルートの合格者数は過去最高の235名で、合格率も昨年並みの61.5%、となったのは良いニュースだと思うものの、内訳をみると合格者のほとんどは法科大学院在学中の受験者で、30代以上の受験者の苦戦傾向が強まった、というのは、多様性確保の観点からは喜べるものではない。

そして何よりも、今年度も予備試験の受験者数は10,442名にとどまり、昨年よりわずかに増えたものの“頭打ち”の状況にあること、法科大学院受験者向けの適性試験の受験者数に至っては遂に多い方でも「3161名」というレベルにまで落ち込んでしまっていること*3に、全ての関係者が危機感を抱かないことには何も始まらない、と思うのである。

今は、来年の今頃、少しでも前向きなコメントが書けることをただひたすら願うのみ。

*1:そもそも今の形式の試験とは無縁だったから、なおさら・・・というのもある。

*2:だからこそ、ゴールドラッシュが終わり、一年一年残酷なほどに合格者数が削られていく過程の悲壮感もまた格別なものとなった。

*3:そもそも適性試験の存続自体が危ぶまれる状況になっているのだが・・・。

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