また一歩近づいたのは、いつか誰かが夢見た理想かそれとも制度の終焉か。

一年前の時点で大方予想できたことではあったのだけれど、それにしてもなぁ・・・というため息。

法務省は6日、2022年司法試験に、前年比18人減の1403人が合格したと発表した。合格者数は右肩下がりで、旧司法試験から新試験に完全移行した12年以降で最少。政府が15年に下方修正した目標「1500人以上」を3年連続で下回った。合格率は45.5%で、新試験では過去最高となった。」(日本経済新聞2022年9月7日付朝刊第38面)

自分などは、発表日翌日の朝刊を開くまで合格発表があったことをまるで知らなかった、というくらいの感覚の人間だから、こういう時だけ突っ込みを入れるとお叱りを受けるかもしれないが、この記事に対するツッコミどころは山ほどある。

特に、比較の起点を「旧司法試験から新試験に完全移行した2012年」に置いているところは全くもって意味不明で、いわゆる「新司法試験」は2回目(2007年)の合格者から既に1800人超(1851人)、「旧」のレッテルを貼られた受験生たちが200人に満たないサバイバルゲームを強いられた翌2008年には合格者が2000人の大台を超えていた、ということを考慮するならば、

「(1期既修者しか受験していなかった)第1回(2006年)の試験以来過去2番目に少ない合格者数」

という表現の方が状況をより正確に表しているといえる。

また、45.5%の合格率を「新試験では過去最高」というのは明らかに間違いで、今年の数字をもってしても、「ボーナス」と評された第1回試験の合格率(48.3%)をまだ上回る状況には至っていない*1

ということで、それなりに長く続いているイベントを報道するときには過去の歴史にもちゃんと敬意をもって向き合ってほしい、という揚げ足取りのような小言をひとしきり述べた後にやってくるのが、やはり以下の数字から受けた衝撃である。

出願者数 3,367名(前年比 387名減)
受験者数 3,082名(前年比 342名減)
合格者数 1,403名(前年比 18名減)

昨年以上の幅で減少した出願者数、受験者数、それでも合格者数はそこまで減らなかったゆえに生じた異常なまでの合格率の上昇・・・。

そしてその中で、さらに存在感を増しているのが、昨年以上に人数を増やした「予備試験組」である。

法科大学院を経なくても受験資格を得られる予備試験ルートでの合格は395人で、合格率は97.5%。合格者全体の28.2%を占めた。」(同上)

自分もすっかり、年の近い方からご子息の「合格」の話を聞かされるような世代となってしまったが、昨年くらいから耳にする吉報はことごとく「予備試験ルートでの合格」という話ばかりで、今の優秀な学生たちの選択肢の中に「法科大学院修了まで待つ」というような悠長なプランは到底存在しないのだろうな、ということをつくづく感じる。


かくして2022年度の試験も、刻一刻と悪化する残酷な数字だけを残して終了。

いかなるルールも、それを包含する制度それ自体も、真に良いものにしようと思うなら、

「出来上がったその時からフィードバック&見直しのサイクルを回し始める」

というのが仕事の鉄則。

だが、ことこの法曹養成制度に関して言えば、わずかな”微修正”を除けば抜本的な打ち手が講じられないまま16年、ここまで来てしまった感はある。

このまま受験者数の減少を放置して、いつか誰かが夢見た「合格率7割」を達成させる*2、というのもそれはそれで一興なのかもしれないが、それが本当にこの制度の正しい到達点だったのか?と問われた時に、躊躇なく「そうだ!」と答えられる者が果たしてどれだけいるのだろうか。

今残された唯一の希望は、一時期の停滞を脱し、ここ2年ほど毎年1000人単位で受験者を増やし続けている予備試験だけ*3

そして、短答、論文のみならず、昔ながらの「口述」まで課すこの試験が「予備」ではなくなった時、長く沈んでいた一連の制度にもようやく復活の狼煙が上がる、と信じてやまない自分が、毎年祈るような思いで力も心も備えた誰かの決断を待っている、ということは、改めて声を大にしてここに書き記しておきたい。

*1:とはいえ、合格率に関しては、「第1回超え」を果たすのはもはや時間の問題だと思われる。

*2:今の合格者数の水準が当面維持されるとすれば、受験者があと1000人減れば目標は達成されることになる。

*3:https://www.moj.go.jp/content/001373176.pdf参照

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