想像できなかった23年目の「奇跡」

皐月賞が終わった後のエントリー*1で、「ダービーになれば、真の実力馬たちが順当に馬券に絡む、そう信じて今日スポットが当たった馬達とは一期一会」と書いたのは僅か1カ月ほど前のこと。

その時自分が意識していた「真の実力馬」とは、皐月賞で人気になりながら敗れた、ワグネリアンステルヴィオ、ジャンダルム、タイムフライヤーといった馬たちのことだったのだが、世論はより過激な方に流れ、当日、蓋を開けてみれば、皐月賞を回避した無敗馬・ダノンプレミアムと、皐月賞をスルー(毎日杯から直行)した同じく無敗馬、ブラストワンピースが1,2番人気という事態に・・・。

確かに、以前、皐月賞とは無縁だったフサイチコンコルドダンスインザダークがワン・ツーを飾ったこともあったが、それは今となっては遥か昔のこと。過去10年を見ても、うち半分は1,2着を皐月賞組が占めているし、残りの半分もいずれかは皐月賞組が入っている。

ダノンプレミアムに至っては、玄人視点のNumber誌ですら、皐月賞馬を差し置いてダービー特集のトップに持ってきたほどだから、レースが始まるまでは「本命」といわざるを得ない状況だったのだが、これだけ間隔があいてのぶっつけだと、どんなに強い馬でも死角は生じるし、皐月賞組からもエポカドーロ+巻き返してくる馬たちをもっと見てやらないと・・・というのが自分の見立てだった。

蓋を開けてみたら、自分の予想のおおよその方向性は間違っていなかったといえる。
ただ、想定外だったのは、レースの展開と「勝った馬」だった。

本来なら自爆覚悟の馬が玉砕戦法に出ても不思議ではない大レースで、逃げたのはなんと戸崎圭太騎手鞍上のエポカドーロ。
そして、いつもなら後方待機を決め込むはずのワグネリアンが大外枠からスタートダッシュを決め、先行策に打って出る、という不思議な展開となる中、最後の直線で粘るエポカドーロと、同じく先行策でしぶとく張り付いていたコズミックフォースを、追いかけたワグネリアンが一気に交わし切る・・・。

昨年のうちからダービー最有力といわれ、弥生賞で苦杯をなめた相手の出走回避により、皐月賞では堂々の1番人気を張っていたワグネリアンが不可解な敗戦を喫した時、自分は、失望の溜息とともに、「もう福永騎手は一生ダービー取れないだろう」と内心思ったものだった。

元々、芝長距離のレースが決して得意ではなく、特に東京芝2400m戦に関しては、デビュー当時(キングヘイローなど)から、散々トラウマのような失敗を繰り返してきたのが鞍上の福永騎手だっただけに、馬場がちょっと渋っただけであれだけの大敗を喫してしまう馬がこの舞台で再浮上するイメージは、決して鮮明なものではなかった。

それが、「5番人気」という移り気なファンの示した結果に奮起したのか、いつになく巧みな手綱さばきで、「大外枠」という不利を全く気にも留めないような見事なレースをしてのけるとは・・・。

デビューから23年目にして、ようやく掴んだ栄光。まだデビュー32年目の蛯名正義騎手ですらとっていないタイトルだから、「時間がかかった」というのは失礼かもしれないが、デビュー当時から華々しく活躍していた騎手が40歳を過ぎるまでこのタイトルに無縁だった、というのは、やはり七不思議のひとつだったわけで、それを今年、それも直前のレースで人気を大きく裏切った馬で成り遂げた、となるとなおさら今年のめぐり合わせの不思議さを感じざるを得ない。

前日のレースから芝ではとにかく「内」の馬が伸びるような状況で、どんなにいい脚を持っていても、最後の直線で外側から追い込もうとした瞬間に着外が決まってしまう。今日、人気を集めながら本番で着順を確保できなかった馬も、その多くはそんな馬場状態に泣かされたところはある。

でも、普通に走らせれば、同じドツボに嵌っても不思議ではなかったワグネリアンを「勝ち組」にしたのは、紛れもなく福永騎手の手腕だし、彼が見せた一世一代の“奇跡”には、どれだけ称賛を浴びせても足りないような気がしてならない。そして、逃げて2着に粘ったエポカドーロの戸崎騎手、さらには16番人気で3着に突っ込んでこの日一番の大波乱*2を演出したコズミックフォースの石橋脩騎手、と日本人騎手が上位を独占したのも実に4年ぶりのことで、そこに自分は“伝統の一戦”に向けられた彼らの意地を見た気がした*3

なお、勝ったワグネリアンを管理するのは友道調教師、馬主は金子真人HDだけに、無事夏を乗り切れば、マカヒキの仇とばかりに海外遠征する話だって当然出てくるはずだし、その時に福永騎手の地位が保証されているとは到底思えないのだが、今はとにかくレース映像を繰り返し眺めながら、この23年目の奇跡のインパクトに浸りたい、そんな気持ちである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20180415/1525603123

*2:何と言ってもワイド3万円配当が2本出たのだから・・・。

*3:1、2、3着をハーツクライ産駒でもステイゴールド産駒でも、ましてやハービンジャー産駒などでもなく、ディープインパクトオルフェーヴルキングカメハメハと歴代ダービー馬を父に持つ馬たちが占めたのも、また印象的な出来事であった。

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