歴史に残る名勝負の幕開け

毎週ハラハラさせられながらも、土曜日、ラジオを付けていつも通りの実況が流れてくるとホッとする。ここのところずっと、そんな週末を繰り返している。

何といっても今週末の最大のトピックは、オーストラリアからダミアン・レーン騎手が再来日して騎乗を開始した、ということで、これだけ世界的に移動が不自由になっている状況下において、開催が中止になるリスクも、2週間の「待機」を食らうリスクもすべて承知の上で彼が日本に来てくれた、ということには、どれだけ感謝してもしきれない。

そして、そんな若干26歳の新鋭の思いに、関係者もファンも、土曜日から7鞍に騎乗依頼、しかもすべて3番人気以内、というお膳立てで見事に応えた。

あいにく、土曜日の中山はあまりに酷い雨で、ラジオ実況曰く、「不良馬場を通り越したような不良馬場」*1。しかも、この2週間の間、ひたすら待機で手綱を持つことすら許されていなかったような状況でそんな状況に直面したら、どんな名手でもさすがにキツい。迎え撃つルメール騎手が5勝の固め打ちを見せる中、最高着順が4着、一度も馬券に絡めない散々な出だしとなってしまった。

だが、翌19日は一夜にして復活。7鞍騎乗で3勝2着3回の結果を残し、連対率は早くもルメール騎手を上回るに至ったのだから、やっぱり本物・・・。

そんな伏線の下で名勝負が演出されたのが、今年の皐月賞だった。


今年は、もはや珍しくなくなった「2歳戦から直行」ローテの馬が2頭、しかも1頭(コントレイル)は昨年のサートゥルナーリアと同様にホープフルSから、もう1頭(サリオス)はかつての登竜門、朝日杯FSからの直行でいずれも3戦して未だ負けなし。3歳初戦にして「宿命の対決」といっても過言ではないようなお膳立てが整っていた。

ところが、蓋を開けてみたら、、1番人気のコントレイルの次に支持されたのは、なぜか弥生賞*2のサトノフラッグで、そんなに差はないもののサリオスは3番人気に甘んじる。

昨年のJRA賞最優秀2歳牡馬部門)でも、いつもなら「朝日杯」のタイトルだけで順当に選ばれていても不思議ではなかったサリオスが、コントレイルに苦杯を喫する*3という屈辱を味わっていたこともあり、陣営としてはさぞかしストレスがたまる状況だっただろう。

それまでのマイル戦での勝ちっぷりがあまりに見事過ぎて2000mは長いのでは?という声があったのは確かだし、それ以上にホープフルSでのコントレイルの勝ち方が凄すぎた、というのも人気を譲った原因だったのだろうが、2歳時のレースレベルの比較ではサリオスの方が上(レーティングはサリオスの116に対し、コントレイルは115に留まっている)*4。対戦相手の比較でも、トライアルで勝ちきれなかったホープフルSの2,3着組に対し、朝日杯でちぎった相手(2着)のタイセイビジョンは前日のアーリントンカップで後続を突き放して快勝している。

父・ハーツクライで母系にもニジンスキーの血が入っていれば、距離だってそんなに不安視されるほどではない血統背景なのに・・・とフラストレーション全開のところでこの馬の手綱を取ったのが、救世主・レーン騎手だった。

キメラヴェリテが稍重にしては比較的速いペースで引っ張る中、好位を追走。そして2番手にいたウインカーネリアンが思いのほか粘りを見せる中、直線でスルスルと抜け出して交わし、さらに後続を突き放す、というスタミナ不足など全く感じさせない実に力強い競馬。そしてそれを引き出したのが、デビュー戦以来の騎乗となった名手の手綱捌きだったことは言うまでもないだろう。

残念ながら、最後の最後、福永騎手にしては絶妙の仕掛けのタイミングで*5、計ったように差してきたコントレイルの豪脚の前に屈する結果になってしまったが、最後の最後までどっちに転ぶか分からないようなしびれる攻防がそこにはあった。

そして、3着以降の馬との間に付いた3馬身以上の途方もない差*6は、サリオスという馬が決して「3番手」の馬ではなく、依然としてコントレイルと並ぶ「2強」、それも「次元の違う2強」のうちの一頭であることを見事に証明してくれたのである。

2頭ともトライアルでの消耗がないことを考えると、順調に中央競馬の開催が続く限りこのままダービーへ、そして夏を越して菊花賞、あるいは古馬混合GⅠへ、と対決の場を移していく可能性は高いのだけれど、まだまだこの2頭間での順位付けは済んでないし、何よりもレーン騎手が昨年苦杯をなめた舞台に再び挑むうえで、これだけ素晴らしいお手馬はいないから、この先コントレイルにどれだけ人気が集まろうと、本当のドラマはこの次で起きるんじゃないかな、とひそかに思っているところである*7

*1:この土砂降りの雨が生み出した重すぎる馬場が、中山グランドジャンプでの「上位2頭以外は皆大差、しかも上位人気馬が次々とリタイア」という悲劇的なレースを生むことにもなってしまった。それでも見事に5連覇を成し遂げたオジュウチョウサンの強さはただただ讃えるしかないのだが、予後不良となってしまったシングンマイケル陣営をはじめ、引き立て役となってしまった他の馬たちにはちょっと気の毒なレースだったかな、と思う。

*2:そもそも弥生賞から皐月賞をそのまま勝つケースというのは、ここ10年見てもほとんど例がないので、自分は迷わず切りにいったのだが、ファンの多数派はなぜかこの馬を支持していた。

*3:「2019年JRA賞」の大波乱が示唆する新時代の幕開け。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*4:2020年 皐月賞 プレレーティング JRA参照。

*5:一昨年のワグネリアンに象徴されるように、中山コースでの福永騎手の仕掛けのタイミングのまずさは、長年指摘されていたところでもある。

*6:それでも末脚勝負に徹したヒューイットソン騎手のガロアクリークが3着に飛び込んできたからこの差で済んだものの、それがなければもっとちぎられても不思議ではない状況だった。

*7:本来ならノーザンファーム生産のサリオスよりも、新冠ノースヒルズ生産のコントレイルの方に”チャレンジャー感”が出ても不思議ではないところだったのだが、今年は、平地GⅠ5戦を終えてノーザンファーム生産馬の勝利はわずか1頭(ラッキーライラック)のみ、という状況でその辺の潮目も変わりつつあるだけに、なおさらレーン騎手の「救世主」感も高まるのかな、という気はしている。

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