先日のエントリー*1でも取り上げた「巨大プラットフォーマー規制」の概要が、4月24日に開催された「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」で公表されたようである。
残念ながら公取委、経産省、総務省のいずれのWebサイトを見ても原文自体はまだアップされていないのだが、日経朝刊には、「巨大IT規制案の要旨」として相当のボリュームを割いて内容が紹介されている*2。
規制の方向性としては、「競争制限の恐れがある行為だけを事後的に規制する独占禁止法の積極運用をルール整備の中心に据えることが望ましい。」ということで、それ自体は想定の範囲内だったのだが、先日のエントリーでも疑問を呈した点に関しては、以下のような記載がなされている(強調筆者、以下同じ。)。
■具体策
IT大手の取引慣行について、優越的地位の乱用や私的独占の規制を当てはめる余地がある。ただ、調査で詳細な事実認定をするには相当な時間がかかる。対処が遅れれば取引先が泣き寝入り状態になるなど大きな被害が生じる恐れがある。そこで迅速な救済のためには以下の選択肢が考えられる。(1)ガイドラインの制定
未然防止のため、違法となる可能性の高い行為を明示する。違法が確定するわけではないため個別事例ごとの判断が必要になる。(2)特殊指定の告示
具体的な行為を不公正な取引方法として告示で指定できる。違反すると排除措置命令の対象になる。迅速な執行が可能だが、環境変化の激しいプラットフォーム分野で適切な規制の実現が課題になる。(3)確約手続きの活用
独禁法違反の疑いを公正取引委員会と事業者間の合意で解決するしくみ。違反の認定をせずに是正を促せるため迅速な解決につながる。違反にならないため先例の蓄積によるルール形成が不十分になる恐れはある。(4)事業者団体の組成
プラットフォームを利用する事業者を組織化する。報復を恐れて声をあげられない事業者の交渉力を高め、公正な取引環境の実現を促す。(5)継続的な実態調査
公取委が継続的に実態調査をすることで問題行為を把握する。調査のための強制的な権限を定めた独禁法40条に基づく「40条調査」も視野に入れ、違反のけん制や自主的な解決につなげる。■独禁法を補完する規制
独禁法を補完してデジタル市場の透明化や公正化を促す規律の必要性や制度設計も検討する。違反を未然に防ぐ効果が期待できる規律として、一方的な規約変更や恣意的なアカウント停止に対して禁止事項を設けるかどうかなどを検討する。
検索結果やランキングの表示順を決める要素や、審査基準などについて開示・明示義務を設けるかどうかも検討する。営業秘密に該当する可能性もあり、国際動向を踏まえて慎重に検討する。
前段は、ガイドラインの制定や事業者団体の組織化(による任意協議での解決)といったソフト・ローチックなものから、「特殊指定」のような強力なエンフォースメント手段の導入まで、バラエティに富んだ内容になっているし、後段に至っては、これが「強行法規」として導入されることになれば、「独禁法の補完」どころか、契約内容にストレートに突っ込んでくる非常に強烈な規律になる可能性まで秘めている、という点で、なかなかエキサイティングな内容だな、というのが率直な感想。
「法律で具体的な行為義務を課す場合、下請法の趣旨が参考になる」
というくだりも気になっていて、企業実務サイドとしては、一番歓迎されないタイプの法規制&執行パターン*3を念頭においてこれから進めていくのであれば、「巨大プラットフォーマー」でなくても、結構厄介な話になりそうだぞ…という直感はどうしても働いてしまう。
また、今回の「要旨」を見る限り、検討されている規制が、あくまで「事業者」との関係における取引制限だけを問題にしているように読め、安易に「消費者取引」に独禁法を介入させるようなトーンにはなっていない、という点は、現時点では評価してもよいのではないかと思う。ただ、今回、以下の通り、「データポータビリティ」の話が競争政策の文脈で出てきたことと、奇しくも同じ日の朝刊に掲載された「個人情報保護法2020年改正」に向けた議論との関係をどう整理するのか、ということが、この日の一連の記事を見ただけでは判然としない。
「24日に公表された規制案では、個人が利用履歴などのデータを自由に持ち運べる「データポータビリティー」の導入が盛り込まれた。その狙いは有利なサービスに乗り換えやすくすることだ。」(日本経済新聞2019年4月25日付朝刊・第3面)
EUのように「データポータビリティ」を個人の側の「権利」としてとらえるのか、それとも、事業者間の健全な競争を促進するための競争政策のツールとしてとらえるのか、あるいは、その両面から規制を入れるのか、答えは一つではないと思うけど、これからまさにいろいろなことが動き出そうとしているタイミングだけに、ここはしっかりと頭を整理して、ルールメイクしていく必要があるだろうな、と思った次第である。
*1:場違いな「独占禁止法適用」議論に思うこと。 - 企業法務戦士の雑感参照。
*3:「執行の容易性」を理由に、本質的な規制手段の前に過度に具体的にパターン化した規制類型を置くやり方は、(当の下請法が既にそういう状況に陥っているのと同様に)どうしても規制側も規制に対応する側も思考停止した硬直的な対応に陥りがちなので、個人的にはあまり好ましいやり方ではないのでは、と思っているところである。