ささやかな波乱の末に~令和元年改正会社法成立

ここしばらく、界隈で盛り上がっていた会社法改正案が、本日の参院本会議で可決され、成立した。

「政府が今国会の重要法案とした改正会社法は4日午前の参院本会議で可決、成立した。上場企業の社外取締役の設置義務化や、株主総会資料のオンライン提供の導入を柱とする。役員報酬の透明化を図る方策も盛り込まれた。日本の企業統治(コーポレート・ガバナンス)を強化し、海外から投資を呼び込む狙いがある。」(日本経済新聞2019年12月4日付夕刊・第3面)

臨時国会冒頭で大臣が不祥事で辞任する、という波乱含みの展開だった割には、審議時間としては短めにカタが付いた印象はある。

ただ、既に報道されているとおり、この法案、本来一つの重要改正点になるはずだった「株主提案権の濫用制限」(当初提出案の新304条ただし書き、新305条6項)に関して、かなり大きな修正が加えられている*1

今回、これまで10年近く抵抗してきた社外取締役の設置義務付けの論点で押し切られた企業側にとって、この株主提案権の制限に関する改正は、数少ない”勝ち取れた部分”だったはず。

それが、与党が圧倒的多数を占める今の国会で、まさかこんな展開になろうとは・・・。

そんな中、この改正案審議の”分水嶺”となったともいわれている、衆院法務委員会の会議録がひっそりと公開されている*2

2019年11月20日参考人として法制審議会会社法制部会長の神田秀樹教授・学習院大学大学院法務研究科教授らが出席していた回。そして、そこには確かに・・・というやり取りが記録に残されている。

少し長くなるが、以下、「上手な尋問」の模範のようなやり取りを引用しておくことにしたい。

○山尾委員 立憲民主党山尾志桜里です。
 きょうは、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
 まず、神田先生にお伺いをしたいんですけれども、私は、三百四条の一項二号、三号の追加内容規制、そして三百五条の同種の規定、これについては大変問題を感じています。その立場からの質問ということになります。
 まず、最初に質問なんですけれども、もしこの法案が通った場合には、この三百四条の例えば二号、株主が専ら人を困惑させる目的で議案の提出をした、ごめんなさい、逆ですね、この法案には当たらない、今回、名誉侵害とか侮辱とか困惑というカテゴリーが明文化されていますけれども、この三百四条には当たらないんだけれども、民法の一般条項を通しての権利濫用には当たる、こういう場合には拒絶は可能なんでしょうか。
○神田参考人 ありがとうございます。
 それは、法律の一般論ということになりますが、法務委員会でございますが、私はそれは、論理的にはというか理論的には拒絶可能であるというふうに思います。すなわち、民法の一般条項というのは常に適用があるということかと思います。
○山尾委員 論理的には適用可能ということでした。
 じゃ、逆なんですね。必ずしも民法の権利濫用には当たらないけれども、この新設三百四条の二号に当たるという場合は拒絶可能なんでしょうか。
○神田参考人 ありがとうございます。
 この法律が成立していればという前提だと思いますけれども、可能でございます。
○山尾委員 それはすごく驚きまして、これが私はこの問題の本質だと思っていて、法務省は恐らくその説明を極めて曖昧かつ不誠実にしてきたというふうに私は感じているんですね。
 参考人に確認なんですけれども、つまり、今回のこの法案の提案というのは、今までの一般条項でいえば権利濫用には当たらないけれども、ただし、この三百四条新設に該当さえすれば、濫用的な行使だから拒絶できる、こういう、今までの一般条項の枠の外の新しい拒絶できるカテゴリー、これができるというような理解でいいんですね
○神田参考人 ありがとうございます。
 そこは違うんです。といいますのは、論理的には、今回の三百四条の書かれている要件がありますよね、その外にいわば一般条項としての権利濫用というのがあるように見えると思うので、それはそのとおりですので、先ほどのような答えになるんですけれども、この文章を何で書いたかといいますと、濫用と見られるような事案があって、それに会社が対応するのに苦慮している、濫用かどうかわからないというのがあるものですから、そのために、動くような規定を書こうということで、普通の言い方で言うと、濫用に当たるか当たらないかがはっきりしなくて会社が苦慮する場合で株主提案権として認めなくていい場合を文章化しましょうという結果、文章にしたわけなんですね。
 ですから、論理的には先生がおっしゃったとおりというか、すき間はあるんですけれども、例えばですけれども、濫用に当たらないけれどもこれに当たるから拒絶できるんですかと言われたら、論理的にはイエスなんですけれども、実際問題は、濫用に当たらないけれどもというのは、よくわからないわけです。
 それから、逆もそうで、これに当たる場合、当たらない場合でも、濫用の場合は拒絶できますかといったら、民法の一般規定でイエスでしょうけれども、これに当たらない場合で濫用に当たりますということはわからないわけで、特にそれは、最後は裁判所が判断すると思うんですけれども、総会の時点でまず第一次的に判断しなければいけませんので、そういう制度設計の中で、いわば濫用に当たり得るか当たらないかというところを明らかにするという趣旨も含まれていますので、実はこの問題だけじゃないんですけれども、より具体的な文言で書くと、過失というのも、具体化しても同じ問題です。
 ですから、一般的な概念とそれを具体的に法律の用語に落とすときの関係ということで、そこが非常に、私のあれもわかりにくい説明になっているかもしれませんけれども、そういう関係になるということでございます。
○山尾委員 済みません、私はちょっとわからなかったんですね。もう一回聞きます。
 論理的な帰結としてお答えいただきたいと思います。
 必ずしも民法の一般条項で見たときには権利濫用に当たらないけれども、この三百四条新設の二号、三号に当たる場合は拒絶できる余地がある、こういう法案だということでしょうか。論理的な帰結としてお答えください。
○神田参考人 論理的にはそのとおりです。
○山尾委員 まずこれがすごく、きょうはっきりしてよかったなというふうに思います。
 なぜここを気にしているかというと、やはり、私ずっと、なぜ一般条項でやれることで、しかも、すごく特殊な事例が数件あるとはいえ、一般条項で対処し得る状態になっているのにどうしてここまでこういう文言を入れるのかなというのがずっとわからなかったんです。
 法務省の説明を聞くと、ただ濫用に当たるかどうかが判断が難しい場合やちゅうちょする場合に判断基準をいわば与えるというような意味だというふうに言う。それを聞くと、なるほど、じゃ、権利濫用の判断が難しいから、これが権利濫用に当たるか否かの判断要素をこの法文に入れ込んだのかなというふうに理解をしたわけです。
 ただ、一方で、よく見ると、法務大臣の趣旨説明も、あるいは、きのうこの委員会で質疑したときの大臣や政務官の答弁も、濫用的行使と言うんですね。的なんです。きょう神田先生の資料を見てもやはり濫用的となっているので、恐らくこれは、だから、権利濫用に当たるカテゴリーの外枠に論理としては濫用的行使というものがこの新設条項によってつけ加わる、こういう論理になっているんだろうというふうに推測をして、きょう確認をしたかったので、確認ができてよかったなというふうに思います。
 じゃ、済みません、もう一つお伺いをしたいんですけれども、そうだとすると、専ら、例えば取締役を困らせる目的だ、もうそれは私怨というか個人的な恨みがあったりということでそれは認定できる、専ら、どうやら役員を困らせる目的だ、だけれども、その内容自体は必ずしも不正ではないし、必ずしも会社の利益を不当に害するものではない、こういうものについては、この法文だけ見ると拒絶できると思うんですけれども、部会長としてはどうなるというお考えなんでしょうか。
○神田参考人 ありがとうございます。
 会社が拒絶することは、この条文が成立していればできます。ただ、もちろん拒絶しないこともできますので、変な話ですけれども。
○山尾委員 ありがとうございます。そこもはっきりしてよかったなと思います。
 多分、今までの通説とかあるいは裁判例二例を見ても、基本的には、主観目的、その株主の意図、プラス、それの提案によって会社が利益を害するかというような客観面、この主観と客観の利益衡量で濫用に当たるかどうかを判断していくというのが通説であり、裁判例のおおよその流れだと思ったので、つまり、この法案が通ると、それとはまた別に、いわゆる会社としては、まず、主観面をもってこの二号、三号に当たれば、特に二号に当たれば拒絶はできるというものだということを部会長の口から確認できてよかったなと思います。ただ、私は、極めて深刻な問題がより浮かび上がったかなというふうに思っているわけなんですけれども。
 最後に、もう一点だけ神田参考人にお伺いをします。
 ちょっと、ずっと問題になっている、先ほど前川参考人からもお話があったんですけれども、やはり立法事実の問題で、私も、この議論を始めてから、法務省から出てくる資料というのは、最高裁判例がないので高裁の平成二十四年判例そして平成二十七年裁判例、それぞれの裁判例が出てきたのが資料としては唯一です。プラス、口頭で出てくるのは、野村ホールディングスの事例で、会社の全てを和式にしろという提案だとか、あるいは取締役をクリスタルと呼べという提案だというようなかなり異質なもの、でも、ほとんどそれしか出てこないんですけれども、部会長としては、今回、この法案を議論するに当たって根拠となった立法事実、今の裁判例二つのほかにあるんでしょうか。あったらその内容を教えてください。
○神田参考人 ありがとうございます。
 これは先ほど前川先生から資料の御提供と御説明もあったと思うんですけれども、今の二つの例というのは非常に極端な例であると言っていいと思うんですけれども、さらに、七年、八年前の例なんですね。たしか、野村というお名前が挙がったので、の方は二十四年ですので、二〇一二年の株主総会であったんじゃないかと思います。ですから、ちょっと今冷めているというか、ここ一、二年、その二つの例みたいな例はないんですね。そこが若干議論しにくいということはございます。
 それで、先ほど前川先生からの資料にあったと思うんですけれども、あの資料は会社が取り上げた一覧を載せている資料だと思いますので、実際、例えば、百提案があってそのうち二十を取り上げますとか、そういう実務をしているので、十五提案があって七つ取り上げたら七つ載っているということだと思うんですね。
 ですから、そういう資料等はあって、それで、数の方は、例えば、そういうもので独占してはどうですかという話になりましたし、それから、先ほど先生から御指摘のあった、その目的というんですか、内容の方については、数だけでいけるなら数だけでもいいのではないかという御議論はあったと思うんですけれども、やはり中を見ると、先ほど例を挙げられましたが、私もきょう野村のだけは持ってきたんですけれども、ほかにも、まず、商号を野菜ホールディングスへ変更すべきだというのがありますし、ちょっと時間の関係であとは省略しますけれども、こういうものをどう見るかということで、ちょっと数の問題とは質が違いますねと。
 あとは、先生おっしゃるように、もう濫用という一般論でいいんだというようなお考えも当然あり得るとは思うんですけれども、少しでもこういうものは何か規制していいのではないかという中で、苦慮して、文言も二転三転して今の文言になっているというところはあるんですけれども、内容、目的の方も設けられたという経緯があります。
 それを立法事実があるというのかないのかというのは、先生の御判断かとは思います。
○山尾委員 ありがとうございます。
 それでは、前川参考人にお伺いいたします。
 今の神田参考人のお答えも踏まえていくと、やはり今回問題だなと改めて思うのは、いわゆる、会社側が推測するところの提案株主の主観面だけをもって拒絶ができ、そしてそれは必ずしも権利濫用に当たらなくても可能だというような答えだったので、若干驚いているんですけれども、前川参考人にお伺いをいたします。
 こういう前提でいくと、例えば、次のような事例でも拒絶できてしまうんじゃないかと思ったものを三つ申し上げます。
 例えば、一つは、いずれも困惑させる目的なんだけれども、役員の個別報酬の開示の提案とか、二つ目では、困惑させる目的で会社ぐるみの不正融資を指摘するとか、困惑させる目的で電気事業から原発事業を外すとか、こういうものも拒絶できるという論理的帰結になるのではないかなと思ったんですけれども、いかがでしょうか。

○前川参考人 三つの例をいただきましたけれども、先ほどの神田先生のお話からすると、いずれも拒絶できるという論理的な帰結になるのではないかというふうに考えます。
○山尾委員 私もそう思うんですね。相当広がるというか、こういうものだとはちょっと、正直、ここまでは思っていなかったんですけれども。
 もう一つ、前川参考人にお伺いをいたします。
 三号のこともやはり問題点を指摘していただいておりましたけれども、ちょっと私、素朴な疑問として、会社が株主の共同の利益を盾に個別株主の根源的権利を拒絶するのがおかしいんじゃないかというふうに思っているんですけれども、ちょっと、うまくそれを法的な説得力ある言葉にまだ変換できていないので、そこをお願いできますでしょうか。
○前川参考人 私が考えているのは、要するに、株主提案権というのは少数株主権なわけですよね。ですから、当然、多数派と利害が対立する場合というのはあり得る話です。ですから、そのようなときに、株主共同の利益というものが、その中身が全く不明な中で、このような条文を根拠に少数株主権を制限するというような形になる立法というのは、私は、よくないというか、やめておくべきだというふうに思います。
○山尾委員 そうしましたら、ちょっと今の関係で、やはりもう一回神田参考人にも聞いておいた方がいいと思ったんですけれども、御質問いたします。
 今のような前提でいくと、先ほどの三例についても拒絶は可能なんだろう。ただ、それが裁判になったときに、裁判所の審理対象は何なのかということをお聞きしたいんです。
 つまり、この新設三百四条二号に当たる、専ら会社を困惑させる目的であるということであれば、これは提案拒絶は適切だったという裁判になるのか、あるいは、裁判所としては、やはり民法の一般条項も踏まえた上で、会社の毀損される利益、不利益みたいなものも総合考慮して、権利濫用に当たるか否かを判断することになるのか、どちらになるんでしょうか。
○神田参考人 二点申させていただければ、お許しいただければと思いますが、私が会社でしたら、先生が挙げられていた三つの例は困惑させる目的にはならないというふうに判断すると思います。
 先生の御質問、二点目なんですが、裁判所は最終的にこの条文を解釈します。そのときに立法の趣旨も勘案して解釈しますので、そのいろいろなバランスとか利益というのは、例えば、先生の言葉で民法の権利濫用といったときに考慮するような諸要素も、この要件を満たされているかどうかを判定する上で裁判所は勘案すると思います。恐らく先生が裁判所であったら同じような解釈をすると思います。
 ですから、あとは具体的な事情によるので、三つの例というのも、ただそれだけで常にイエス、常にノーと言えませんけれども、どちらかというと、先生がお挙げになった例というのは、それで困惑させる目的というのは言いにくいのではないかという印象を私は持ちます。
○山尾委員 私も、神田先生が会社だったら恐らくそういう判断をされるんじゃないかなと思うんですね、これで拒絶はしないと。
 ただ、会社は神田先生ではないといいますか、やはり極めてさまざまな会社がありますし、場合によっては、適正な株主提案権の行使、社会的に見れば極めて真っ当な提案であっても、会社や特定の役員にとっては致命的な提案となり得る、そしてまた、今、株主提案権の行使によって、実際に賛成率も高まっているというようなところも統計でありまして、そういうときに、やはり審議の俎上にのせたくないというような強烈なインセンティブが働く事例というのは私はあり得るんだというふうに思って、極めて危惧をします。
 今、二点目についてもありがとうございました。つまり、もし仮にこの改正が通ってしまった場合に、裁判所の審理対象というのは、権利濫用か否かではなくて、あくまでも、新設された場合の三百四条の条文解釈である、その立法趣旨などなど、さまざまな要素が入ってくるということでありました。
 それで、私は松嶋参考人にもお伺いをしたいんですけれども、質問は、先ほど国光議員の御質問のときに、いわゆる内容規制の文言ぶりに関しては特段の反対はないというようなことがございました。ただ、その上で、今、濫用的な事案まで相当広範に拒絶できる範囲に含まれるということが、ちょっとこの委員会でも初めて明らかになったんですね。もしかしたら部会なんかではそういう前提に立っていたのかもしれないですけれども、この委員会ではそういう前提に、多分、少なくとも共有された事項ではなくて、恐らく多くの専門家も、そう認識していろいろ判断している人もまだ少ないんじゃないかなというふうに思うんです。
 そういう今の一連のやりとりを踏まえ、そして、先生がおっしゃっている、参考人がおっしゃっている、私がすごく大事だと思うのは、やはり立法事実なんですね。言っていただいた、巷間紹介されている事例というのは、よくよく見ると、いずれもごく一部の特定の者による行使事例である、特殊な事情がある、このようなごくごく一部の者による特殊な事例を根拠に、株主の重要な権利である株主提案権の行使が限定されるというのは立法事実として極めて不十分ではないかと考えていると。
 この趣旨は、やはり内容規制の新設に当たっても当たるというふうに理解していいんでしょうか。
○松嶋参考人 御質問ありがとうございます。
 まさにそのとおりだと思います。
 また、若干敷衍させておきますと、ちょっと山尾議員と神田教授のやりとりを聞いていて思ったのですが、この内容規制に関してですけれども、二つの観点がありまして、一つは、神田教授が言われていたのは、多分、濫用というのは非常に不明確なので、それを例示化したものである、こういう理解なんですけれども、それに対して山尾先生が言われているのは、濫用外のものを広げているのではないか。これは例えば、民法の強迫の要件を下げて、消費者契約法等々で困惑というような形でハードルを下げたのではないかということで、そこは一見かみ合わないんですけれども、ハードルを下げるものができますと、実は、その両者の境というものが曖昧なものですので、実際上、ハードルは下がってくるというところはあるのではないかと思います。
 それは、どうしてそういうことを今考えたかと申しますと、山尾先生、あと神田先生も、山尾議員が指摘された理由は拒絶事由に当たらないというふうにおっしゃいまして、私もそのように思うんですけれども、条文の文言上だけを見ると、前川参考人のように、当たるのではないかなと思ったものですから、ちょっとそこは奇異に思いました。
 以上でございます。

山尾志桜里議員の質問が鋭いのは今に始まったことではないのだが、業界では百戦錬磨、講義でも審議会でも巧みな節回しで知られる名部会長を相手に、ここまで徹底的に詰め切るとは、さすがの一言。そして、そこで炸裂した「会社は神田先生ではない」というフレーズには、今年の流行語大賞を贈呈しても惜しくはない。

引用した箇所の最後でも出てくるとおり、この日呼ばれていた野党側参考人のうち、株主提案の内容による制限に反対していたのは、株主の権利弁護団事務局長の前川拓郎弁護士だけで、もう一人の松嶋隆弘日大教授は、「個数制限」には反対していたものの、内容による制限には反対しない、というスタンスを示されていた(山尾議員が質問に立つまでは)。

にもかかわらず、その先生に、神田教授とのやり取りから水を向ける、という流れで、新設条文案に基づく当てはめに懐疑的な姿勢を示させた時点で、事実上勝負は決したといえるだろう*3

法的な位置づけに関するそれまでの説明に綻びが生じ、それを支えるはずの立法事実の存在すら疑わしい、という状況では、大臣、政務官、民事局長がいくら必死に答弁したところでもはや立つ瀬はない。

結果、与党側の政治的判断で、この2日後に、野党側修正案を飲む形で決着することとなった。


おそらくこれは、毎年アクションを起こしてくる株主と対峙せざるを得ない一部の会社の担当者にとっては、ため息が出るような結末と言わざるを得ないものだろう。

ただ、今回やり玉に挙がった新304条ただし書き、新305条6項に関して、立法事実が弱い、というのは部会での審議段階から言われていたことで、だからこそ、趣旨説明も「(規制強化ではなく)権利濫用の要件明確化」という方向に持っていかざるを得なかった(そしてそれが、部会長にも政府側の答弁者にも苦しい説明を強いることになった)、というのが実態だと思われる。

今回、「内容」にかかる制限が改正案から外されてしまったとはいえ、「個数制限」は無事改正に反映されることになったし、本当に名誉棄損的、侮辱的な株主提案であれば、これまで同様、会社の腹一つでバッサリ切ることができるのだからよいではないか*4、というのが慰めになるのかどうか。

いずれにしても、会社法の歴史に(番外編も含め)また新たな一ページが刻まれた、ということで、成立の日にエントリーを書き残した次第である*5

*1:当初提出案と、国会の審議過程での修正案の対比については、川井信之弁護士のブログにて詳しく解説されているので、そちらを参照されたい。会社法改正法案の衆議院での修正内容について - 弁護士川井信之(東京・銀座)の企業法務(ビジネス・ロー)ノート

*2:衆議院会議録情報 第200回国会 法務委員会 第10号

*3:その後、前日からの流れで日本維新の会串田誠一議員の「困惑」という文言の曖昧さを追及する質問も続き、完全に流れは決まった。

*4:ここは会社のスタンス次第、というところはあって、一部伏字等にしながらも、ギリギリまで我慢して議案にしている会社があるのも事実なのだが・・・。

*5:その他の論点については、また関心が向いたときに、書ければ書く、という感じでご容赦いただければ、と。

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