振り返れば転換点、なのかもしれない「株主総会2022」

今年は、シーズンがひと段落するギリギリまでかかわっていたこともあって、”振り返り”もなかなかできないまま過ぎていった「6月総会」のシーズン。

全体的な傾向としては、すでに以下のエントリーでもまとめた通りで、株主提案を受けた会社がとにかく多かったこと、とか、例外なく行われた株主総会資料の電子提供から一部の会社で見られたバーチャルオンリー化を可能とする変更まで、ほぼすべての会社で定款変更が議案になったこと、などが、今年のエピソードとして後々まで語り継がれることになるのだろう。

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株主提案の多くは否決されたものの、一部の会社では会社提案をひっくり返す形で株主側の役員選任議案が可決されてしまったケースもあったし、総会当日になって、会社提案が否決される前に「議案の一部撤回」という形で会社側が取締役候補者を取り下げる、というイレギュラーなケースも複数の会社で発生した。

個人的には、会社側の候補者の資質に明らかな疑義がある場合ならともかく、単に多数株主のお気に召さないから、という理由で会社が選んだ取締役候補の選任を否決するのはいかがなものかと思うし、事実上議決権の過半数保有するオーナーの一存だけで会社提案否決、株主提案可決、となってしまったように思えるケースに接すると、「そもそもそんな会社を上場させて良いのか?」という思いに駆られたりもする。

会社提案の否決、という事態にこそならなかったものの、東芝の定時株主総会終了後に出された以下のようなリリースにも落胆させられるところは多かった。

www.nikkei.com

株主間契約だけでガバナンスが完結するような閉鎖会社であれば、株式を多数保有する株主が取締役会に自己の指名する取締役を送り込むことにも何ら違和感はないのだが、これだけの規模の、社会に責任を負う大企業でも同じ発想でボードが組み立てられてよいのか、という素朴な疑問はあるし、そういった様々な”違和感”を「利益相反」という法的論点を切り口に言語化して世に知らしめた、という意味で、綿引万里子取締役の行動は大いに称えられるべきものだと思っている。

にもかかわらず、会社が資本の論理を最優先に押し通した結果、彼女の指摘が報われることはなく、さらに今回の重任直後の辞任により、公益を代表しうる取締役はまた一人ボードから消える。それがなんとも残念に思えてならない。

また、定款変更のうち「バーチャルオンリー」総会を開催可能とするための変更案は、世の中全体を見れば比較的、好意的に評価する声が多いようにも思われるのだが、昨年一足早く定款変更を成し遂げ、今年も「ハイブリッド出席型」で布石を着々と打っていた会社が、総会直前に自社の不祥事が問題になるとすかさず大きな会場を手配して総会を実施した、という事実は、「バーチャル」の限界を知る、という意味でなかなか興味深いものでもあった*1

この後、9月総会の会社くらいまでは、この「定款変更」ラッシュが続くことが予想されているが、そこに「バーチャル」も含めた変更案がどの程度混じってくるのか、また、株主提案を通じた「資本の圧力」の勢いがこの先もずっと続いていくのか、もう少し時が経たないと見えてこないところもあるが、後から振り返れば、「ターニングポイントは2022年の夏だった」ということになっても不思議ではない、そんな1か月だったような気がする。

なお、やや特殊な背景を抱える会社での話ではあるが、定時株主総会において「会場における座席の制限及び事前登録制」を実施した会社に対し、一部株主が株主参与権の行使の侵害を理由として、定時株主総会の開催差し止め(主位的申立て)や、株主権行使の妨害禁止を求める(予備的申立て)仮処分の申立てを行った事例で、以下のような裁判所(静岡地裁沼津支部)の判断(申立却下)が示されている*2

「①経済産業省及び法務省令和2年4月2日付「株主総会運営に係るQ&A」では、当社が本定時株主総会において採用した事前登録制と同様の事前登録制を採用することが許容されており、かかる見解は現在までに変更されていないこと、②当社の第210期定時株主総会においては、議事の最中に出席した株主が大声で不規則発言をしたり、議長がいた会場前方の演台に複数の株主が係員の制止を無視して詰め寄る場面が散見されるなど、飛沫感染等のリスクが生じていたことからすると、現時点で不特定多数の株主が当社の定時株主総会に全国から集まる際に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止という公益目的のために出席する株主数を一定数に限定し、かつ、株主間の公平性を担保するために、事前登録の希望者が会場に設置する座席数を超える場合には事前登録者から抽選により出席者を選定するという事前登録制を採用することは、やむを得ないものであり、これが合理性を欠くものであるとは認められない等として、債権者らの主位的申立ては理由がないと判断しました。」
「また、予備的申立てについても、債権者らの主張する総会参与権は、会社に対して、希望する株主全員を株主総会に出席させなければならない権利であるとは認められず、また、本件においては、株主総会における趣旨説明や質疑応答の場面で、債権者303名全員の出席が不可欠であるとは考え難く、また、当選した株主である債権者あるいは当選者から委任された株主である債権者において、株主提案の趣旨説明を行うことは十分可能であるから、事前登録制を採用したことが、抽選により出席することができない債権者との関係で、その総会参与権を不当に侵害するものであるとは認められず、抽選に当選した債権者又は当選した債権者の委任を受けて本定時株主総会に出席できる債権者との関係では、総会参与権を制約するものではないから、結局、予備的申立てに係る被保全権利が認められず、理由がないと判断しました。」(強調筆者)

2年前からのwith COVID-19の総会オペレーションにおいて、皆半信半疑で行っていた「運用」への「回答」がここでようやく示された、というのは何とも感慨深いものがあるのだが、新型コロナの社会的インパクトが薄まりつつある中、今回会社を勝たせたロジックがいつまで使えるのか?ということは、ちょっと気になるところでもある。

あと、これはまだ精査しきれていないので、別途エントリーを立てることも考えているが、6月の最後の数日間で大量に世に放たれた各社の「コーポレート・ガバナンス報告書」の中では、ほとんどの会社が「知的財産への投資等に関する情報の開示・提供」(補充原則3-1-3)も含めて”Comply”になってるな、そして開示されている内容は実にあっさりしているな(そもそも「知的財産への投資」については何ら記載していない会社も結構ある、という印象を受けた、ということは、ひとまずここに書き残しておくことにしたい。

*1:総会直前に何かアクシデントがあれば、多数株主の「リアル出席」を前提としたオペレーションに切り替えることが社会的に要請されている、という前提に立つならば、まともな会社なら「バーチャルオンリー」前提の総会運営に踏み切ることなど、怖くて到底できやしないだろうな、というのが、大人数を収容できる会場の確保に汗をかく総会担当者(毎年使っている会場でも1年前に押さえるのが必須で、会場変更でもしようものなら数年単位のプロジェクトになる、という実態もある)の姿に接していた者の率直な感想である。

*2:www.nikkei.comあくまで一方当事者である会社側からのリリースなので注意して読む必要はあるが、書きぶりからして、決定内容を比較的忠実に記載しているように思われたため、以下そのまま引用する。

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