試されるのはこの国の人々の9年間の進化、だと思う。

Twitterでもちょこちょことコメントしているのだが、ここ最近の世の中の動きが、「あの頃」に近づいてきた。

メディアでは日々断片的、局地的な情報が流れ、皆が日々公表される官庁の正式リリースに憂いを募らす。
大きなイベントが一つまた一つと中止になっていく中で、どこの主催者も周囲の顔色を伺いながら、おそるおそるイベント開催可否の状況を見極めている。

街に出れば、普段と変わらない日常が続いているように思えるのに、スーパーやコンビニの一部の棚では欠品が続出。
そして、SNS上では、過激な悲観論たちと、「冷静になれ!」と傍から見ていると決して冷静ではない感じで呼びかけている人々が、朝から晩まで論争を繰り広げている。

そう、これはまさに9年前、「3・11」の後に見た光景と瓜二つではないか・・・!

放射能&余震」と「病原体ウィルス」、「強烈な悲劇的インパクトから始まった」状況なのか、それとも「じわじわと悲劇が広がっている(ように見える)」状況なのか、といった違いはあるが、いずれもこれまでに経験したことのない”未知”の脅威に直面し、日常を過ごしつつも微妙な心理的パニックが発生している、という点では、実に共通点が多い話のように思える。

ちょっと振り返れば、自分が1月末に中国からじわじわと出てきた報道に嫌な雰囲気を感じて、これからの一週間が平和に過ぎゆくことを、今はただひたすら願う。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~のようなエントリーを上げた時は、まだ日本国内の盛り上がり(?)はそこまででもなかったし、市場でも株価が値上がりしたりしていたくらいだから、その時はちょっと早まったか・・・と一瞬後悔したものだった。

でも、そこは火が付くと一瞬で燃え上がる日本人。先週の後半くらいから一気に空気が変わり、ここ数日は、むしろ自分が引いてしまうような深刻なムードに。

法務の世界でも、今は、12月期決算会社の株主総会の準備が着々と進んでいる時期であり、新年度の契約更新に向けた契約書レビューが増えてくる時期でもあり、そして、年度末駆け込みのセミナー開催で「特需」が生じる時期でもある。

だから、自分も、かつて法務省経産省が出した「ご見解」をついつい眺めなおしてしまったり*1普段ならスルーしがちな契約書の不可抗力条項をやたら丁寧に見直して、現実のリスクに応じて加筆してみたり時間をかけて準備した資料が無駄になりやしないかとハラハラしながら開催日を待たねばならなくなる、といった羽目に陥ることになってしまった*2

さして実益のない比較だが、今目の前にある脅威は、9年前のそれに比べれば、万が一当事者になっても命まで落とす確率は決して高くない、という点でまだ救いようがあるのでは?というのが自分の見立て。

ただその一方で、日本中どこにいても当事者になるリスクを抱え、しかも当事者になった瞬間に即、確実に心身ともにダメージを受けるわけで*3、そこを重く受け止めるならば、9年前以上にシビアな状況ともいえる。

そして何よりも「いつ収束するか分からない」という見通しの立たなさが、あの時と同様のどうしようもない苛立たしさを引き起こしているというのも、紛れもない事実なわけで、思わず「♪めぐるめぐるよ時代はめぐる~」と口ずさんで悪態をつきたくもなるのだけれど・・・


9年前と比べて明らかに変わったものがあるとすれば、「リモートワーク」を支える技術・心理両面での変化だろう。

もちろん、9年前も、一部の先進的企業には、「3・11」直後に在宅で仕事をされていた人々がいたし、それを可能とするインフラが存在しなかったわけではないが、その後9年の間に訪れた「働き方改革」の波は、”いざやろうと思えばできる”企業の裾野を大きく広げた。

個人的には、今夏無事に行われるはずだった(というか、今のところはまだ行われることになっている)オリンピック・パラリンピック期間が、「会社に行かずに仕事をする時代」の本格的な到来を告げるトリガーになるのかな、と思っていたのだが、このままいけば、それが半年早まる形になっても不思議ではない。

某最大手通信事業者や、某新興IT企業の「宣言」に一種の宣伝やパフォーマンスの意味合いが込められていることは否定できないが、それでもおそるおそる、皆で揃ってやってみたら「案外仕事回るね」ということになるのが、この仕掛けの良いところ(かつ、人を移動させることを生業とする業界にとっては恐ろしいところ)でもあるわけで、事態がより深刻化しても「表」に出るパニックを最小限にとどめることができる策があるとしたらこれしかないだろう、と自分は思っている。

もちろん、それに加えて、9年前の反省を踏まえて練り込まれたBCPが効果を発揮するようなことになれば、各事業者としては万々歳だろうし、行政が主導する諸々のオペレーションで(無理なく)事態を鎮静化させることができるなら、「いい国に生まれて良かった」ということになるのだろうが、果たしてそううまくいくのかどうか*4

それよりは、あの未曾有の災禍を経験し、さらにその後も、大なり小なり、予測しえない様々な天の悪戯に直面する中で多くの人々の心に培われた(はずの)「自分を守れるのは自分だけ」という、ごく当たり前の認識が、多くの人々の行動様式をより落ち着いた方向に向かわせてくれることを自分は期待したい。

誰の政権だろうが、大臣が誰で何をしていようが、お上が市井の人々の暮らしの隅々までサポートすることなんてもとより不可能なのだ。

そして、自分が所属する会社なり、組織なりに、安全・安心な生活を求めるのもこれまたお門違いなわけで、リスクのある「職場」は極力離れ、自分がコントロールできる空間に身を置きながら、冷静に危機が過ぎるのを待つ。

そういうマインドで振る舞える人々がちょっとでも増えていたなら、この国は進化した、といえるはずだし、今回の一件を機に、そういう人々が増えるなら、それはそれで災い転じて何とやら…だと思うのである。

*1:法務省:定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについてや、https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/guideline.pdfが懐かしい。

*2:あの頃と違うのは、特殊な不法行為責任を定めた特別法の解釈を議論するために、古い資料を探し回らなくてよい、ということくらいかもしれない。

*3:何といっても、今、罹患して発症してしまうと、前後の行動も含めてプライバシーが晒されることになりかねず、しかも、あちこちでスプレッダー扱いされて傷つくのは目に見えているわけで、その辺はもう少し何とかならないものか、と思わずにはいられない。今回の「新型」は、これまでの状況を見る限り、ちょっとでも体調が悪ければ早めに休んで、医療機関で受診して、対処療法でもよいから薬をもらって数日静養すれば何とかなりそうなレベルの疾患のように思えてならないのだが、前記のような状況ゆえ、ギリギリまで医者に診てもらうのもためらい、その結果、かえって感染者の増大や重症化を招くことになるのでは?と心配なことこの上ない。

*4:少なくともBCPがちゃんと機能した、という会社は、今回も少数にとどまるような気がする。多くの事業者のBCPが、あくまで一過性の「災害」を念頭に置いて作られていて、長期間じわじわと、しかも全国、全世界的に広がっていく、という状況までは想定しきれていない、というのがその理由の一つ。さらに言えば、机上で作られた計画は一度「実戦」を経て修正されない限り、まともな代物にはならない、という、万事に共通する問題もそこにはあるような気がする。

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