それでも「6月」にこだわることを「形式主義」などというなかれ。

新型コロナウイルスの影響が深刻になり出した3月くらいから、関係者に心休まる日はなかったのではないか、とさえ思う今年の3月期決算会社の定時総会も、いよいよ本番目前、というところまで来た。

おそらく、明日のトヨタ自動車の総会を皮切りに、経済メディアでも連日、どこかの会社の総会が注目され、その場での経営トップの発言にスポットライトが当たる日々が続くことだろう。

お上がいろいろと旗を振ったにもかかわらず、「蓋を開けてみれば6月」という会社がほとんどになったことに対しては、ここにきて様々なところから批判の声が上がっていて、そういった声を上げる人々の中には、会計監査を重視する立場の論者もいれば、総会の「会議」としての機能を重視する立場の論者もいる。

そういう人々は決まって、「延期すれば、より充実した監査を経て、新型コロナウイルスの感染リスクも下がった状態でより充実した会議ができるのに、何で無理やり6月にやろうとするのだ。監査軽視、株主軽視だ、けしからん!」と口を揃えて声高にいう。

昨日の日経紙には、以下のような記事まで掲載されてしまった。

新型コロナウイルスの影響を受けても、3月期決算企業の多くは6月の株主総会開催を動かさない。6月下旬のピーク週への集中率は前年の7割からさらに高まり、8割にのぼる。株価指数の主要銘柄でみても米欧の3~4倍。政府は開催の先送りなども容認する構えだったが、企業は年に1度の形式を重視する。」(日本経済新聞2020年6月9日付朝刊・第5面、強調筆者)

あたかも、多くの会社が「形式主義」に陥っているかのような書きぶり。

その裏には、企業活動の奥深いところまで分かっているようで分かってない、そんな記者の顔まで透けて見える。

計算書類を郵送する招集通知ではなくインターネット開示の方にだけ載せる、という省令改正をフル活用した荒業*1、株主に出席の「自粛」を求める、という昨年までなら考えられなかったような荒業。

そんなイレギュラーな状況を引き起こしながらも、「それでもなぜ、当初の予定どおりに総会を開こうとするのか?」という問いに対する答えは、これまでのエントリーの中でも節々で紹介してきたつもりである。

総会決議がなければ配当を出せない会社が「基準日」を動かすことが、当初基準日後に株式を売却した株主に与えるネガティブインパクトの大きさ、その一方で継続会にすると最初の総会でいろいろと決まっているのに「継続会」が完結するまで確定しないものが出てくるリスクはあるし、質問の機会を分断することで同じような質問に二度も晒されるリスクだってある。

だから、物理的に決算を締めることが可能な状況にある限り、意地でも5月末、6月初め頃までに作業を終わらせ、どんなにタイトで、イレギュラーな総会運営を余儀なくされたとしても、「予定された日程どおりに進めたい」という関係者の思いに水を差すことなどできないと思っている。

そして何よりも、「大変なイベントは極力早く終わらせたい」という事務方の声にも耳を傾けないわけにはいかない。

一年中「総会対応だけ」に専念できる人材を置けるほど余裕のある会社はごく一部の大企業に限られていて、そうでない会社では他の総務、IR系の仕事の年間スケジュールもある中で、総会にいつまでもリソースを割けない、という事情はある。

また、専属性の強い担当者を置いている会社でも、早い会社では年明け早々、遅くとも3月の声を聞く頃には今年の「6月」に向けた準備を進めてきていたはずで、そのスケジュールが後ろ倒しになればなるほど、走り続けてきたスタッフの負担は大きくなる。

株主総会会社法上、必須かつ重要な決議をする場だからこそ、「終わらせるべき時にきちんと終わらせてしまいたい」という感情が湧いてくることを、一体誰が非難できようか・・・。


そうはいっても、海外拠点のロックダウンによる影響等で、事務手続きに遅れが生じ、決算自体が確定していない、あるいは最低限の監査プロセスすら踏めていない、ということであれば、どうしてもイレギュラーな開催方針となってしまう。

自分で確認できた範囲では、これまでにイレギュラーな開催方針変更を公表している会社は、ざっと以下のとおり*2だが、自分がこれが「少ない」数だとは決して思わないし、「延期」にしても「継続会」にしても、これらの会社の多くが、それぞれの会社の言葉で、”苦渋”の思いを表現している、ということも見過ごされるべきではないと思っている。

■延期(議決権行使基準日変更)での対応(56社)
・㈱東芝 7月以降 基準日5月15日(配当基準日変更なし)
・㈱スカパーJSATHD 7月30日 基準日5月31日(配当基準日変更なし)
・㈱ナンシン 7月以降 基準日5月31日(配当基準日も変更)
サンデンHD㈱ 7月29日 基準日6月12日*3
・㈱ジャパンディスプレイ 8月26日 基準日6月30日*4 
・㈱サンリツ 8月27日 基準日5月31日(配当基準日も変更)
ブロードメディア㈱ 7月下旬 基準日5月31日(株主優待制度は基準日変更なし)
オリンパス㈱ 7月下旬 基準日5月31日(配当基準日も変更)
日本板硝子㈱ 7月以降 基準日6月4日 (配当基準日は変更なし)
・㈱音通 7月下旬 基準日5月25日(配当基準日変更なし)
・㈱レオパレス21 7月22日 基準日5月28日(無配)
・㈱三城HD 7月28日 基準日5月31日(配当基準日変更なし)*5
・㈱昭和HD 7月 基準日5月31日 (配当基準日への言及はなし)
・㈱リプロセル 7月以降 基準日6月30日(無配)
・㈱プレステージ・インターナショナル 7月30日 基準日6月10日(配当基準日変更なし)
・㈱フォーバルテレコム 未定 基準日5月31日 (配当基準日変更なし)
・㈱フォーバル 未定 基準日5月31日 (配当基準日変更なし)
凸版印刷㈱ 7月21日 基準日5月31日 (配当基準日変更なし) 
日本電波工業㈱ 7月31日 基準日5月31日 本社事務所会議室で開催(配当基準日変更なし)*6
・㈱日立製作所 7月下旬以降 基準日5月28日(配当基準日変更なし)
日立建機㈱ 7月以降 基準日5月31日(配当基準日変更なし)
東洋エンジニアリング㈱ 8月1日 基準日5月31日(無配)
・㈱アールスティ 7月以降 基準日5月31日(無配)
・相模ゴム工業㈱ 7月16日 基準日5月31日(配当基準日変更なし)
玉井商船㈱ 7月29日 基準日5月31日(無配)
クオールHD㈱ 7月21日 基準日5月31日(配当基準日変更なし)
・㈱ケーヒン 7月以降 基準日6月12日(無配)
岩崎通信機㈱ 7月29日 基準日5月31日(無配)*7
・チムニー㈱ 7月下旬 基準日6月8日(無配)
北日本紡績㈱ 7月30日 基準日6月5日*16
・Fringe81㈱ 7月22日 基準日6月10日
・ユニプレス㈱ 7月下旬 基準日6月11日
鴻池運輸㈱ 7月31日 基準日6月18日(配当基準日変更なし)*8
・燦キャピタルマーケット㈱ 7月下旬→8月上旬 基準日6月5日(無配予定)*9
・㈱やまや 7月下旬 基準日6月15日(配当基準日変更なし)
・㈱ショーワ 7月以降 基準日6月8日(配当基準日変更なし)
・㈱電業社機械製作所 7月下旬 基準日6月15日(配当基準日変更なし)
ワイエスフード㈱ 6月→8月中旬→9月7日(再延期) 基準日6月30日→7月20日(再設定)(無配)*10
・㈱フレンドリー 7月31日 基準日6月19日(配当基準日への言及はなし)
・㈱フジクラ 9月16日 基準日6月30日(無配)*11
アジア開発キャピタル㈱ 9月 基準日7月10日(無配)*12
住友精密工業㈱ 未定 基準日6月30日(無配)
理研ビタミン㈱ 8月下旬 基準日6月30日(配当基準日変更なし)*13
・㈱ヴィア・ホールディングス 7月下旬 基準日6月13日(無配)
富士電機株 6月下旬→8月6日 基準日6月15日(配当基準日変更なし)
曙ブレーキ工業㈱ 6月→7月30日 基準日6月19日(無配/A種種類株式の配当基準日は6月19日に変更)
・東京ボード工業㈱ 6月下旬→8月7日 基準日6月16日(無配)*14
・㈱サンリオ 6月下旬→8月26日 基準日6月30日(配当基準日変更なし)*15
桂川電機㈱ 7月下旬 基準日6月15日(配当基準日変更なし)
NTN㈱ 7月以降 基準日6月15日(無配)
・ユー・エム・シー・エレクトロニクス㈱ 6月→8月7日 基準日6月16日(無配)
・㈱コンヴァノ 6月下旬→7月29日 基準日6月18日(配当基準日への言及なし)*16
・㈱アドバネクス 6月25日→未定 基準日6月30日(配当基準日も変更)*17
ユニデンHD㈱ 6月→8月28日 基準日6月26日(無配)
・㈱ミマキエンジニアリング 6月30日→8月5日 基準日6月30日(無配)*18
・㈱NUTS 6月末→8月以降
・㈱旅工房 6月下旬→未定 基準日7月13日 *19

■継続会での対応(31社)
・NKKスイッチズ㈱ 6月26日→継続会予定(7月17日) ※6月総会初の継続会リリース*20
・アネスト岩田㈱ 6月25日→継続会予定→継続会開催とりやめ
・㈱パイオラックス 6月24日→継続会予定(8月5日)*21*22
日本農薬㈱ 6月26日→継続会予定
芦森工業㈱ 6月19日→7月30日*23
・㈱ADEKA 6月29日→8月6日*24
・㈱ナカノフドー建設 6月26日→継続会予定
・国際計測器㈱ 6月29日→継続会予定(7月30日)*25
・㈱三栄コーポレーション 6月26日→継続会予定
・中央ビルト工業㈱ 6月19日→7月6日*26
・㈱フェローテックHD 6月26日→継続会予定(7月31日)
・㈱リケン 6月26日→継続会予定
・㈱アイフリークモバイル 6月25日→継続会予定(無配の方針に言及)
大和自動車交通㈱ 6月26日→継続会予定(7月17日)*27
・㈱ミクニ 6月26日→継続会予定(7月20日*28
大同工業㈱ 6月26日→継続会予定
・新田ゼラチン㈱ 6月25日→継続会予定(7月24日)*29
リズム時計工業㈱ 6月19日→継続会予定(7月29日)*30
リーダー電子㈱ 6月26日→継続会予定(7月31日)
尾張精機㈱ 6月25日→継続会予定(7月31日)*31
・岡谷電機産業㈱ 6月30日→継続会予定
・大成温調㈱ 6月29日→継続会予定(7月22日)*32 
・㈱巴川製作所 6月25日→継続会予定(7月13日)*33
・水道機工㈱ 6月26日→継続会予定
・寺崎電気産業㈱ 6月29日→継続会予定(7月21日)*34
戸田建設㈱ 6月25日→継続会予定
・㈱タツミ 6月24日→継続会予定(8月4日)*35
・㈱フコク 6月26日→継続会予定(7月31日)*36
・㈱スペースバリューHD 6月24日→6月30日→継続会予定
・ASTI㈱ 6月29日→継続会予定(7月22日)*37
・㈱サクサHD 6月26日→継続会予定*38
・日本ドライケミカル㈱ 6月26日→継続会予定(7月29日)*39

■定時+臨時の2回開催による対応(4社)
・㈱ダイセル 6月19日 → 臨時株主総会(8月7日)で報告予定*40
・オンキョー㈱ 6月25日 → 臨時株主総会で報告予定
五洋インテックス㈱ 6月30日→ 臨時株主総会(8月上旬)で報告予定 基準日6月23日
・㈱ミツバ 6月26日→ 臨時株主総会(7月15日)で報告予定*41

■当初基準日から3か月以内での日時変更による対応(8社)
・㈱ぱど 6月18日→6月30日に延期を発表
高砂熱学工業㈱ 6月23日→6月29日に延期を発表
・㈱ディスコ 6月23日→6月26日に延期を発表
・プレミアグループ㈱ 6月25日→6月29日に延期を発表
・㈱海帆 6月26日→6月30日に延期を発表
・㈱ドリームインキュベータ 6月15日→6月29日に延期を発表
・ウィルソン・ラーニングワールドワイド㈱ 6月25日→6月30日に延期を発表
・㈱メディア・リンクス 6月20日→6月22日に延期を発表


どんな会社にとっても年に一度の機会*42、そしてそれは、会社法上定められた最高位の決議機関であるとともに、各社の事業年度を締めくくる場でもある。

だからこそこの場面においては、トップから事務方まで、一つ一つの会社でなされる「判断」は極力尊重されるべきだと自分は思っている。

そして、一つ一つの会社の適時開示なり、招集通知なりに目を通せば、予定どおり開催する会社でも、そうでない会社でも、どこかしらかには、それぞれの「個性」が発露されていることにも気づくことができるはずなので*43、自分は断じて、これを「形式主義」などと評してほしくはない

今は、鎮静化したように見えてまだじわじわと一定の範囲で勢いを保っている新型ウイルスがいつまた再び暴れ出すか分からない、という時期でもある。

「正常化に向かっている」と多くの人が思っている時だからこそ、ちょっとした揺り戻しが、4月、5月とはまた異なるダメージを世の中に与える可能性だってあるわけで、少なくとも今月の間は、どの日程の開催でもギリギリまで予断を許さない状況は続くだろう、と自分は思っているところではあるのだが*44、できることなら少しでも多くの会社が「議場外」のあれこれに振り回されることなく、議事運営に集中できる環境で当日を迎えられることを今は願うばかりである。

*1:自分がたまたま最初に見つけたのは、日本空港ビルデング㈱さんのものだったのだが、6月に入ってから決算発表を行い、そのまま総会に突入する会社も相当数あるだけに、これから開示する会社の中にも同様のパターンのものは出てくるはずである。日本空港ビルデング[9706]:第76回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項 2020年6月8日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞

*2:開示の経過等については、その「老婆心」が贔屓の引き倒しにならないことを願って・・・。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照のこと。

*3:20年6月19日、開催日時をリリース。決算発表は6月30日予定。

*4:20年6月11日、開催日時をリリース。同時に種類株主総会も開催。

*5:20年6月26日、開催日時を公表。

*6:20年6月19日、総会開催日時、場所を公表。

*7:20年6月22日に決算発表、延期後の開催日時も公表。

*8:20年6月19日、総会開催日発表。

*9:20年6月30日、決算発表を7月15日に行う旨と、総会開催日時の再延期を発表した。

*10:20年6月24日、開催日時の再延期、基準日の再設定を公表。決算手続きの遅延が理由としている。合わせて無配となることも発表された。

*11:20年6月26日、開催日時を公表、9月の総会となることが確定した。

*12:20年6月25日、基準日設定、及び開催日時の目安を公表。

*13:20年6月25日、中国・青島拠点の決算遅延により決算発表日の延期を発表。総会日程への言及はないが再延期となる可能性はありそう。

*14:20年6月29日開示で決算発表を6月30日に行うことを発表。翌30日の決算短信で総会開催予定日を公表。

*15:20年6月12日、決算短信発表とともに総会開催日時も公表。

*16:20年6月11日、決算短信発表とともに総会開催日時も公表。

*17:20年6月25日、決算発表予定日を7月6日と公表。

*18:20年6月15日、基準日を6月30日とすることを発表。20年7月2日、延期後の開催日時を公表。

*19:20年6月16日、社内不正調査難航のため定時株主総会を延期する旨が公表された。20年6月23日基準日公表。

*20:20年6月26日、継続会開催日時公表。

*21:20年6月19日、インドの決算作業遅延により、当初6月22日に予定していた決算発表をさらに延期することを発表。

*22:20年7月6日、決算発表日を7月6日とすることを発表。継続会開催日時も公表。

*23:20年6月30日、継続会の開催日時を公表。

*24:20年6月29日開示で、決算発表を7月10日に行う旨と継続会の開催日時を公表。

*25:20年7月1日、「継続会開催のご案内」をWebサイトにアップ。

*26:20年6月20日、定時総会当日に継続会開催通知を開示。2週間ちょっとの間隔を空けて7月6日開催となった。

*27:20年7月1日、継続会開催通知をWebサイトにアップ。

*28:20年7月2日、継続会の開催日時公表。

*29:20年6月25日、継続会の開催日時公表。

*30:20年6月23日、継続会の開催日時公表。

*31:20年6月25日、継続会の開催日時公表。

*32:20年6月29日、継続会の開催日時公表。

*33:20年6月30日、継続会の開催日時公表。

*34:20年6月29日、継続会の開催日時公表。

*35:20年6月24日、継続会の開催日時公表。

*36:20年6月26日、継続会の開催日時公表。

*37:20年6月29日、継続会の開催日時公表。

*38:20年6月24日、不適切会計の影響により計算書類報告を継続会で行う旨を公表した。

*39:20年6月30日、定時株主総会実施後に継続会を開催する旨、及び開催日時を公表。

*40:20年7月3日、臨時株主総会の日程を公表。

*41:20年6月26日、臨時株主総会の日程を公表。

*42:時々決算期変更等に伴う例外はあるが、それはさておき。

*43:新型コロナウイルス感染症対策」一つとっても、6月の定時総会では会社ごとのスタンスのバリエーションがかなり広がったな、という印象を受けているところである。

*44:そして「新型コロナ」に対して各社がとっている備えのレベル感によっては、”緊迫した状況”になった方がしっくりとはまるケースもありそうで、どういう状況が「ベスト」なのか、ということは会社によっても異なる、という点で、いろいろと悩ましいところはある。

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