雪解け過程での「継続会」判断はあり得るか?

首都圏ではまだ一応「STAY HOME」は続いているようなのだけど、GWからの流れを引き継ぐかのようにじわじわと日常が戻りつつある。

先日のエントリーでも書いたとおり、大手の系列のカフェや飲食店は相変わらずシャッターを下ろしたままだが、個人経営の小規模店は徐々に店を開け始め、一時期に比べると「自分の時間」を楽しめる場所が家の外にちょっとずつ広がってきたのはありがたい限り。

今、日本より一足早く”緩めた”国々で起きているように、おそらくこの先も突発的なクラスタ発生のニュースがメディア上で踊ることはあるだろうし、今、生死の境を彷徨っている方々の訃報に接する機会も決して少なくないのだろうが、全体としてはたぶんこのままなし崩し的に「正常化」が進み、夏の盛りを迎える頃には「そういえば、数か月前は・・・」ということになるのだろうな、という気がする。

ここ数日は、一部の自治体で具体的な給付金の申請手続が始まった、というニュースを聞きながら、「そういえばマスクも街中で手に入るようになったタイミングで届いたんだよな・・・」と底意地の悪いことを考えてしまったりもしたのだが、一方で日弁連から「法律事務所が利用可能な新型コロナウイルス感染症に関連する国・地方自治体の施策・助成金についての案内が発出されていたりするのも事実なわけで、決して対岸の火事ではないのだよね、ということも改めて思い知らされている状況である*1

3月期決算企業初の「継続会」宣言が流れを変えるのか?

さて、8日の適時開示のちょっとしたサプライズで、更新中の5月総会関係のエントリー*2の中でもチラッと触れたのが、決算発表の延期と「継続会」を宣言したNKKスイッチズ㈱の「第 67 期定時株主総会の継続会の開催方針に関するお知らせ 」である。

https://www.nkkswitches.co.jp/home/ir/pdf/ir20200508_02.pdf

この前日、5月7日までの間に、3月期決算の会社で決算発表のスケジュールを大幅に動かし、それに合わせて定時株主総会も従来のやり方から変えることを明らかにした会社は11社あったのだが、それらはすべて「定時株主総会の基準日を変更した上で、開催日を延期する」という選択を行っていたし、8日にも新たに2社が同様の選択をすることを公表している。

思えば4月の半ば、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」が出したリリース(「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」*3の中では、会社法317条の「続行」決議を用いた「継続会」という手法の説明に多くの紙幅が費やされていた*4

金融庁のページではさらに4月28日付で「継続会(会社法317条)について」というリリースも出されている*5

本来は極めてイレギュラーな手法であるにもかかわらず、お上からこれだけのお膳立てがなされる、というのは実に珍しいことだと思うのだが、それにもかかわらず、これまでこの方式を積極的に採用する会社が出てこなかったのは、いかにシンプルに書いたとしても残る手続きの煩雑さと、どれだけお墨付きを与えられてもなお残る解釈の不明確さゆえだと言えるだろう。

現在、商事法務が「Zaitaku SHOJIHOMU」として無料公開しているコンテンツ*6の中に、柴田堅太郎弁護士の「新型コロナウイルス感染症の影響による2020 年 6 月定時株主総会開催の延期及び継続会への対応」という論稿があり*7、そこで定時株主総会の「開催延期」パターンと「継続会」パターンを比較しつつ、メリデメが丁寧に整理されているのだが、こと手続きに関していえば、

・続行の決議に際しては、議決権行使書による議決権行使分を賛否に参入できない。したがって、万が一のリスクを避けるためには、包括委任状等により議場の議決権の過半数を取得しておく必要がある*8
・継続会における議題は,当初株主総会における議題として定められ,招集通知に記載されている議題の範囲に限られる。したがって、当初株主総会の狭議の招集通知における報告事項の項目に、必ず当期計算書類等の報告の件を記載しておく必要がある*9
・改選期にある役員の任期は、継続会終結の時まで満了しない。したがって、6 月の当初株主総会終結をもって退任させる必要のある役員には,当初株主総会終結時点をもって辞任してもらう必要がある*10
・継続会においては,あらためて書面で計算書類及び事業報告を提供する手段として,継続会招集通知を発送する必要があるものと解される。したがって、招集通知送付に要する費用は2度かかる
(以上、柴田12~16頁参照。表現等はこちらで少し改変している)

と、事務的な手間も、シナリオ等の作り込みに関しても、まぁとにかくややこしいところが多い。

あと、長年慣れ親しんだ「一括上程」方式で総会運営を行っていた会社にとっては、議案の審議と報告事項の審議が分断されて別の機会に行われる、ということ自体がちょっと嫌だったりもするわけで*11、特に、今後の世の中の「雪解け」プロセスから推察すると、いかにシナリオで「今回は報告事項に関する質問だけでお願いします。前回決議済みの議案のことは蒸し返さないでください。」といったところとで、

「最初の総会の時は『時間短縮』に協力しようと思って、遠慮して質問しなかったんだけど、今ならたっぷり時間かけても大丈夫でしょ。前回聞けなかったことも質問させてよ!」

と暴れ出す株主が出てきても全く不思議ではなくて、どこまでやれば説明義務を果たしたことになるのか、とか、打ち切ったら決議取消事由になるのか、といったことまで考えだすと収拾がつかなくなるから*12、自分が担当者だったら絶対やりたくはないだろうな・・・と思わずにはいられない。

柴田弁護士は、純粋に「延期」した場合のリスクとして以下の4点を指摘し(8~9頁)、

 ⑴  6 月までに決議しておきたい議案の存在
 ⑵ 配当の基準日を決算期より後の日に変更しなければならなくなる
 ⑶ 投資家から理解を得られない可能性
 ⑷ 役員の任期が満了する可能性

それとの比較で、「継続会を開催する会社としては,定時株主総会の延期との比較でいうと,以下のような状況にある会社が適しているように思われる。」(17頁)とまとめられている。

 ①  6 月までに決議しておく必要性の高い議案を予定している。
 ② 株主総会を 2 回開催するための会場確保が可能である。
 ③ 株主総会を 2 回開催するための費用(会場利用費,招集通知発送費等)が許容可能である。
 ④ 当初株主総会では決算が確定していない状態で決議事項の決議を行うことを含め,継続会開催に関する株主の理解を得られる見込みが相当程度認められる。

しかし、こと「配当」以外の点に関しては、何が何でも6月に総会を開いて決議しないといけないことはないのでは?*13と思えるし、規模の大きい会社であればあるほど手間がかかりコストもかさむ会場確保や総会費用の負担を「2度」も強いられる、という時点で、やはり多くの会社では選択肢から消えてしまうのではないかなぁ・・・と思わずにはいられなかった*14


以上のような状況の下、冒頭で取り上げた会社がなぜ「継続会」を選択したのか。

「当社フィリピン連結子会社での決算業務ならびに同地での会計監査業務が滞り、当社の連結会計処理に係る作業も遅延することとなりました。」

というのがイレギュラーな対応をとる契機となったことは疑いないだろうが*15、さらにそれに加えて、予定されている「50円」という配当を、決算期末の株主に確実に支払うことを重視したのか、それとも、取締役、監査役の選任を急ぐ事情があったのだろうか?*16

平成31年3月末時点の株主数は465名。大株主欄にも安定株主と思われる名前が並ぶ会社だけに、おそらく当初株主総会での議事運営はつつがなく行われることになるのだろうが、実務者として気になるところは多い。


おそらく、ここから「雪解け」が加速し、あっという間にそれまでどおりの日常が戻ってきても不思議ではない状況の下で、6月総会の担当者には、先月まではおそらく問題にされることもなかったであろう、

「今年、あえてそれまでと違うことをするのか?」

という問いも、日に日に投げかけられる機会は増えていくと思うのだけれど、それぞれの会社がそのような問いにどう応え、それぞれの選択をしていくのか、週明け以降の状況にも注目しつつ、眺めていくことにしたい。

*1:こういった助成周りの話をクライアントからのオーダーで確認することはあっても、自分自身にかかわる問題として意識することすらなかったから、それだけ自営業者としては恵まれているということで、ありがたい限りではあるのだけど。

*2:「株主総会2020・春」いよいよここが正念場、の5月がやってきた。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*3:新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について:金融庁

*4:風雲急。最後の山は動くのか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~のエントリーも参照のこと。

*5:https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/11.pdf

*6:Zaitaku SHOJIHOMU 細かい話ではあるが、一部の記事について見出しとリンク先のファイルが整合しておらず、読みたかったコンテンツがまだ読めていない、ということは付言しておく。

*7:https://www.shojihomu.co.jp/documents/10452/11515236/shiryo434_2.pdf

*8:オーナーが大株主というような場合であればよいが、浮動株の比率が多い会社だとまぁまぁ大変なことになる。

*9:これは、これまでどおりのテンプレートで作ればよい、といえばそれまでなのだが、律儀な担当者がコンテンツと一緒に招集通知の項目まで削ってしまう、という、ついうっかりのミスはあったら、と思うとドキリとする。

*10:この点につき、自分は「退任する役員」よりも「新たに就任する役員」の就任時期がどうなるのか、ということの方が気になっていて、当初総会に合わせて辞任&選任したつもりなのに、選任の効力が継続会が終わるまで生じない、ということだと、それまでの間どうする? 継続会で誰が答弁する?といった問題も出てくる。法務省の「商業・法人登記事務に関するQ&A」(http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho06_00076.html)では、選任決議を行った当初総会の日に就任する取扱いとされているが、柴田弁護士も指摘するような「当初株主総会と一体にある継続会が終結していないにもかかわらず,当初株主総会の議事録のみをもって商業登記法にいう株主総会議事録として法務局に添付書類として受理されるかは必ずしも明らかではない」(柴田15頁)といった問題もあるので、安全サイドで考えるなら、下手に6月にこだわるより「継続会終結のタイミングで交代」とする方が無難ではないかと思われる。

*11:東日本大震災後に提案された「非常時シナリオ」では、開催中に余震が来て中止、延期を余儀なくされても良いように、議案とそれに対する質疑答弁の機会だけを先行させる、というパターンも取り上げられることが多かったが、実際に採用した会社は少なかったように思う。

*12:かといって、2度の総会で同じことを何度も何度も答弁させるのも忍びないし、そのために準備する負担も大きい。

*13:例えば、大企業で役員人事のタイミングが2,3カ月遅れたからといって、それが何か企業経営に致命的なインパクトを与えるとは思えないわけで、「後続の人事にまで影響する」といったところで、3月以降、今のような状況になっている時点で皆多かれ少なかれ覚悟はしていることだから、何が何でも6月にやらなきゃいけない、という話ではないと思われる(強いて言えば、定年、役職定年になる人を取締役、執行役員にすることが予定されていたようなケースだが、この点に関しては検事総長とは異なり法律でルールが決まっているわけではない(あくまで社内の内規に過ぎない)のだから、適宜融通を利かせればよいではないか(それができないような人事部門は・・・)、と思うところである。

*14:「5月」という現在のタイミングを考えると、会社によっては「これから株主提案に対応しなければいけなくなる」というリスクを回避するために(「8週間前」のタイミングがずれることによるリスク回避)、継続会方式を採用するという判断もありうるのかもしれないが、そういう会社であれば、むしろ延期も継続会もせず、「今年は6月一回勝負で押し切る」道をとるような気もする。

*15:ちなみに会計監査人は、有限責任あずさ監査法人である。

*16:ちなみにこの会社では、前年に続き、退任監査役への退職慰労金贈呈、という議案も提出される予定になっているが、前期の監査報告そのものが終わっていない状況で、こちらを先に可決することの是非等、突き詰めていくといろいろと議論になるところは出てきそうである。

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