「新型コロナ下」で様々なドラマが繰り広げられた「株主総会2020」。
ギリギリまで継続会等で引っ張った3月期決算会社がまだわずかに残っているような状況ではあるのだが、それでも多くの会社では一段落して来年に向けてあれこれ考えを巡らせ始めたタイミング、というのがおそらく今の状況だと言えるのだろう。
だが、そんな時に、総会を陰で支える証券代行業務の現場から、関係者が騒然となるようなニュースが飛び込んできた。
「東芝の株主総会を巡り、議決権行使の集計を受託した三井住友信託銀行が適切に事務処理せず、一部の株主の意見が反映されない事態が起きたことが分かった。取締役選任の賛否などを記した海外投資ファンドの書類が期限内に届いたにもかかわらず、無効となった。同様の処理は約1千社に及ぶ。会社法で保障する株主の権利を損ないかねず、説明責任も問われる。」(日本経済新聞2020年9月24日付朝刊・第1面)
メディア関係者にとっての「株主総会」は、会場で起きていることと、発表された議決権行使結果だけが事実上全てで、裏方にいる人々がかいている汗にまで思いを馳せてもらえるなんてことはとても期待できないから、こういうトーンの記事になってしまうのも止むを得ないのだが、日頃の株式事務における「代行」各社の緻密さときめ細やかさに少しでも触れたことのある人の中には、ことがこのような形で報じられることに心を痛めている人も多いことだろう。
特に株主総会前、送られてくる膨大な議決権行使書を捌いて日々報告書を上げ、前日夕方の行使期限からさして間を置くことなく事前行使の確定値を出し、データを詰め込んだCD-ROMを持参して、当日の投票輻輳の捌きまでスムーズに対応できるようにしてくれる。小規模な会社になると当日は受付補助の役回りまで担ってくれる、というその姿はまさに「神」であり、彼ら抜きにして円滑な総会な運営をすることなどまず無理だと言ってよい。
だからこそ、紙面に踊る「不適切な処理を20年」というフレーズには、「理屈も、建前も分かるけどさ・・・」と思わずつぶやきたくなってしまうのだ。
何が起きていたかは、報道でも断片的に説明されていたし、今日付けで発表された「調査結果のお知らせ」(https://www.smtb.jp/corporate/release/pdf/200924.pdf)に詳しく書かれているので、そちらをご覧いただければと思うのだが、端的に言ってしまえば、
「総会直前に押し寄せる膨大な数の議決権行使書の集計業務を処理するため、郵便局と握って本来の配達日よりも一足早く入手できるようにしていた。その結果、本来なら期限までに届かないものまで手元に来てしまったが、そこは彼ら特有の”厳格さ”により、行使票に算入しない取扱いとしていた*1」
ということなのだと自分は理解している。
当事会社自身も「算入すべきであった」と認めたように、いかなる事情によっても、会社の代理人として現に受領してしまった以上は、議決権行使の意思表示が到達したものとして取り扱わなければならない、という理屈は分からないでもないが、そうでなくても出してから届くまでの間に一定のタイムラグがある、というのが「郵便」の特徴でもあるわけで、
「確実に自分の議決権を結果に反映させたければ、早めに行使書を送ってこいよ!」
というのが、ハラハラしながら結果を待つ「行使される側」の思いだったりもする。
そして、かっちりとしたスケジュールが決まっている世界で組み込まなければいけない、という現実を踏まえれば*2、アナログな方式で送られてくる書面に対して物理的に対応できるリソースにはどうしても限界があるわけだから、どこかで一線を引かないことにはどうしようもない。
それゆえに、顧客である各会社にギリギリまでしんどい思いをさせないために慮っていただいた末に、こういう結果になってしまったのだとしたら・・・と考えると、何とも言えない気持ちになってしまう。
ちなみに、前記プレスリリースの中で、自分が思わず目を止めてしまった箇所は2カ所で、まず1つ目は、
「従来 JaSt で実施しておりました先付処理については、速やかにその運用を取り止め、実際に郵便局から議決権行使書を受領した日を基準に集計業務を行うこととし、業務の適正化に努めてまいります。」(リリース3頁、強調筆者、以下同じ。)
のくだり。
これによって「先付処理」の問題が亡くなるのは良いことなのかもしれないが、前日、だいたい会社の終業時刻くらいに合わせて設定されている「期限の時刻」まで待って、そこから集計作業を行って、レポート化して・・・ということになるのだとしたら、総会の現場が少々乱れるおそれも出てきそうで、ちょっと心配なところではある。
また、より衝撃だったのは、リリースの1頁に記載されている脚注の中にあった、
「三井住友信託銀行が受託している集計業務について、電子行使は増加傾向にありますが、依然として郵送による書面行使の比率は高く、2020 年 6 月株主総会開催分では全体の約 83%(約 480 万件)を占めております。」
という説明の方で、これだけ電子議決権行使の導入も進み、スマホ1台で事足りる、ということにさえなりかけている時代に、「書面率83%」という数字がたたき出されてしまったのは、いくら何でも・・・と思わずにはいられなかった。
おそらくあと何年か経てば、株主総会における議決権行使などは、ほぼほぼ電子行使主体になってくるはずだし、そうなってくれないと困る。
本件の当事会社自身も、
「より正確かつ迅速、また効率的な議決権行使集計が可能となる電子行使を推奨する取り組みを従来以上に促進してまいります。 」(報告書3頁)
ということで、モード切替のタイミングを見計らっているように見えるところもあったりする*3。
いつか、全てが「電子」の世界に移行し、「議決権行使書を郵便でやり取りする」なんてことがすっかり過去の遺物になってしまうような時が来たら、今問題になっているようなことも、「あの頃はとんでもないくらい手間のかかることをやっていたんだよね」という”日本昔ばなし”的な文脈で語るだけで済むことだろう。
だからこそ、そう遠くないうちにあらゆることが一気に変わることを願いつつ、会社の側でも、これからの暫しの混乱(?)を乗り切るための備えをしっかり固めておくべきだろうな、と思うのである。