数日前に、「そろそろ危ないよ・・・」という雰囲気のエントリーを書いたばかりだったのだが、案の定、じわじわと波は来つつある。
「プロ野球阪神は25日、糸原健斗(27)、陽川尚将(29)両内野手と岩貞祐太(29)、馬場皐輔(25)両投手、1軍チームスタッフ2人の計6人の新型コロナウイルス感染が新たに確認されたと発表した。2軍の浜地真澄投手(22)の感染判明を受け1軍関係者全員のPCR検査を実施し、陽性者は計7人となった。濃厚接触者とされた選手を含む計10人が出場選手登録を外れた上で、神宮球場でヤクルト戦を行った。」(日本経済新聞電子版・2020年9月25日19時20分配信。強調筆者、以下同じ。)
代わりに一軍昇格を決めた選手の中に藤浪晋太郎投手がいた、というのが何とも皮肉なのだが、普通に考えて、どんな強いチームだったとしても一軍登録選手がいきなり10人も欠けてしまったら、まずもたない。ましてやこのチームは勝負弱い「虎」である。
ペナントレースももう終盤。強すぎる巨人の前に、優勝の可能性が首の皮一枚・・・という状況で何とか踏みとどまろうとしてきてはいたものの、この日はヤクルト相手に痛い敗戦。おそらくこのままシーズンを終えることになってしまうことだろう。
自分が、この件が実に象徴的だな、と思ったのは、以下の点においてである。
「12球団と日本野球機構(NPB)は同日、臨時の実行委員会を開き、阪神が経緯を説明。可能な限りシーズンを止めず全120試合の消化を目指す方針を確認した。」(同上)
おそらくこれが数か月前の話だったら、シーズンが数試合中断した可能性もあり得たし、少なくともタイガースの試合だけは延期、ということになっていたはず。
だが、今や「動かし始めたものは何があっても止めない」という強迫観念に取りつかれたような世の中になってしまっているから、10人欠けてもシーズンは淡々と続き、結果、戦力ダウンを余儀なくされたチームがダメージを受ける、という構図になっている。
翻って、我ら一般市民の日常に置き換えても状況は同じである。
3月、4月の頃なら、職場で感染者が出ても出なくても、ライバル会社も含めて皆仕事は”お休み”モードに入っていたから、暫しペースダウンさせてでも、自分の体調を悪化させないことを考える余裕はあったし、(万が一感染者が出てしまった場合には)波が止まるまで仕事も止める、というジャッジをすることもできた。
しかし、今はそういうわけにはいかない。
感染症自体に収まる気配はなくとも、世の中のビジネスのほとんどは今や完全に平時モードに戻っていて、むしろそれまでの停滞を”取り返す”ために、平時以上のエネルギーを費やさないといけなくなっている人も多いように見受けられる。
そんな状況で、万が一、職場でクラスタ発生、という事態が起きてしまったら一体どうなるか。
一軍のみならず二軍にもレベルの高い人材が揃っているプロスポーツの世界なら「特例」をフル活用して(少なくともまともな試合を成立させる程度には)やり繰りすることも十分できるし、某電力会社のように感染したのが雲上人なら、日頃の仕事にダイレクトに支障が生じることはないだろう。
でも、普通の会社の現場で同じようなことが起きたときに、誰かがまとまって「代替」してくれるような事態は、どう考えたって期待できない。
ましてや、自分の知恵と体だけが資本の一人事業主ともなればなおさらだ*1。
だから、これまで以上に罹患することで失うものが多く、一方で罹患リスクは当面増す一方となるであろう今の状況下では、リスク感度をこれまで以上に高めないと、と思っているところではあるのだが・・・。
残念ながら、最初の「波」から半年以上経過しようとしている今となっても、結局、この国では、「合理的なリスク意識の共有」という一番大事なミッションが達成できていないような気がする。
3月~5月の時期は、誰もが過剰なまでに慮って、街中でコーヒー一杯すら飲めないような事態になるし、それが解かれても、両極端の思想で分断された世の中はなかなか融合する方向には向かわず、むしろ形式的な「感染症対策」ばかりが目に付くようになってしまった。
そして、ここに来て、タガが外れたかのように、やれ宴会だ、やれ大人数で旅行だ、と、向かう先はまたまた不思議な方向へ・・・。
冒頭の話で言えば、結果がああなった以上、どうしても批判されてしまうのだが、阪神球団が取っていた「対策」の方向性は決して誤ったものではなかったと思う。
「広島、名古屋遠征時の球団指定日に限り(9月は19日のみ)球団関係者および家族との外食を許可。外食時は個室で、人数は4人まで。2時間程度の制限を設け、マスクを必ず着けること、食事前後の手洗い、うがい、手指の消毒を徹底するなどの対策を取っていた。」(Yahooニュース・スポーツ報知9月25日22:10配信、【阪神】谷本球団本部長がコロナ7人感染で謝罪「私のミスジャッジで深く反省」(スポーツ報知) - Yahoo!ニュース)
特に強調した「個室で、人数は4人まで」のくだり。
一昨日のエントリーでも書いた通り、
「人が集まる」
「(至近距離で)騒ぐ」
という2つの要素を排除すれば、ほぼほぼ仲間内で移しあうリスクも、周囲の人々にまき散らすリスクもなくなる、というのが分かってきている状況なのだから、チームが取るべき方針としては実に合理的だった*2。
おそらく、同じような申し合わせ事項を設けている会社も多いだろうが、できることなら、こういうのは、単なる一組織内の申し合わせ事項に留めるのではなく、世の中に広く浸透させるべき話だと自分は思っている*3。
なのに、それができない・・・。
政府分科会のお馴染み尾身会長が、目下の全国の新型コロナウイルスへの感染状況について、「下止まりしている」と、あたかも「あなたは日銀総裁か!?」と言いたくなるような微妙な言い回しをしているのを見て思わず吹きそうになってしまったのだが、そういう慎重な言い回しをしなければならないほど、政府が「Go To」をはじめとしたさまざまな施策に前のめりになってしまっている状況がある、ということの裏返しでもあるのだろう*4。
不幸なのは、第1波が始まった頃から、「新型コロナウイルス感染症」への対応をめぐって、あたかも「感染症の拡大防止」と「経済対策」がトレードオフの関係であるかのような論調が湧いて登場し、未だにその”刷り込み”から多くの人々が抜け出せていない、ということだろうか*5。
現実には、ここ数か月の間に決算発表を行った会社の中に、「対前年比∔10%以上の増収」かつ「利益増加・最終黒字」という要件を満たす会社が全体の約1割以上存在しているし、シンプルに増収増益、という結果となった会社まで合わせると、その2~3倍くらいは優に存在する計算となる。
春先は、急に「緊急事態」が出て慌てふためいて事業機会を失った会社も多かったが、今や不自由な状況でも着々と仕事を進める術を学び、サプライチェーンの回復、再構築とも相まって一気に業績を取り戻しに来ている会社も、今となっては相当な数に上ると見込まれる*6。
要は、「拡大防止対策モード」を維持したままでも、一部の特殊な業種を除けば、賢く振る舞って業績を伸ばすチャンスは十分にある、ということなのだ。
そう考えると、無理に平時に巻き戻すような「Go To」施策にここまで足を突っ込む必要もなければ、空気を読みながら「感染リスクを高める行動」の周知をおそるおそるやることもないんじゃないか、と思わずにはいられなくなる。
よもや政府が、「国民をあたかも新型コロナのリスクが下がったかのような錯覚に陥らせることによって、消費行動を喚起する」といった策略を練っているとは思いたくもないのだが、最近のメディアの論調を眺めていると、そんな雰囲気も漂いつつあるだけに、改めて「リスクへの感度」を人々に磨かせる方向でのリスク・コミュニケーションの機会を設けることも忘れないでほしい、ということは、この場で強く申し上げておきたい。。
何度でも繰り返すが、ここからが一番大事なところなのだから。
一人でも多くの人々が無事次の波も超えられるように、そしてリスクを本当の意味で「共有」できるようにするための最後の機会がきちんと生かされることを、自分は願ってやまないのである。
*1:ちょうど一年前、まだ世の中の人々が誰も「COVID」という言葉に関心を持っていなかった頃、自分は細菌感染症で40度の高熱に数日うなされる、という悪夢を味わった。今となれば得難い体験だったと思うが、抗生物質の点滴を打てば治ったようなシンプルな病でも、”ただの風邪じゃない”ということが分かった瞬間からとてつもない恐怖感を味わうもので、だからこそ「コロナ=ただの風邪」信者の戯言を見かけるたびに、意地悪な感情が頭をもたげてきてしまうのである。
*2:おそらくは「4人」というルールを破った集団だけでなく、外形的にはルールの範囲内で会食していた集団の方も、「中身」の面で逸脱していた可能性は否定できないわけで、「球団がそこまでコントロールできない以上、一律禁止にすべきだった」という話も出てきてしまうわけだが、そういうことを言っているといつまでも世の中は前に進めないだろう、というのも自分の意見だったりする。
*3:店に行く側の意識だけでなく、受け入れる側の店の側にも同じような意識を浸透させれば、騒ぐ団体客の存在によって不快な思いをする人も減るだろうし、かえって売上を落とさずに多くの人に利用してもらえるようになる、と自分は思っているのだが、そういった賢い判断ができている店は決して多くはない。一定時間以降の営業を一律に自粛させるより、よほど感染対策には効果があることのはずなのだが、行政側でもそういうアプローチに切り替えられてはいないように思われる。
*4:尾身会長はこれまでのシンプルな「三密回避」をさらに掘り下げて「感染リスクを高める行動」をより具体的に説明していたりもするのだが(“感染リスク高める行動”を避けて 「Go To」東京追加前に分科会が呼び掛け(THE PAGE) - Yahoo!ニュース)、それがあまりきちんと報じられていない、というのも残念なところだったりする。
*5:もっとも、これは日本だけの話ではなく、他の世界各国でも同じことに頭を悩まされ、その結果、政策が日本以上に迷走している国も実際あったりするから、あまり政府関係者を責めるのも気の毒なところではあるのだが・・・。
*6:昨年の10~12月期は消費税引き上げ直後で、消費にもそれなりに影響が出ていたことを考えると、少なくとも対前年比では一気に巻き返す会社は相当出てくるだろうし、3月期決算会社であれば、徹底した経費節減効果も相まって悪くとも「減収増益」に留まる、というケースは多くなるような気がする。