今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月19日版

海外の状況はもちろん、国内の感染拡大のニュースを見ていてもそう楽観できるような情報はないように思える状況なのに、連休前ということもあってか街中の個室の整った飲食店は予約で満席。世の中に危機感があるのかないのか分からない、そんな不思議な状況になりつつある。

今日発表されたショッキングなニュースの一つは、2月の訪日外客数の統計だろう。

「「日本政府観光局が19日発表した2月の訪日客数は前年同月比58.3%減の108万5100人だった。新型コロナウイルスの感染拡大で、人数は2014年9月以来5年5カ月ぶりの低水準となった。減少幅は東日本大震災直後に記録した11年4月(62.5%減)に並ぶ規模だ観光庁は「3月はより厳しい状況になっている」(田端浩長官)としており、一段と減少する可能性が高い。」(日本経済新聞電子版2020年3月19日16時15分、強調筆者、以下同じ)

個人的には、「それでも100万人超もいたのか!」という驚きもあったりするのだが、公表されている資料*1を見ると、これまで100万人規模の送客実績を誇っていた中韓が合わせて23万人、相対的に落ち込み幅が小さかった台湾や東南アジア諸国、豪州あたりが辛うじて「100万人」という数字を支えているものの、3月はこれに輪をかけてひどいことになるのはもう避けようがない。

「3・11」からここまでの間、放っておいても人は来ない極東の島国のブランド価値を高めるために、関係者がどれだけ汗を流してきたか、ということを多少なりとも知っているだけに、ここで一気に時計の針が逆に回ってしまったことは何とも無念というほかないが、ここ数年日本を支えてきた”インバウンド消費”の勢いがここ最近陰りを見せていたのも事実なわけで、これまでもこの国にありがちだった、「成功体験に縛られてじわじわとゆで蛙のように地盤沈下していく」という状況に陥るよりは、こんなイレギュラーな形でも、一度きれいさっぱりリセットして原点に還った方が、将来的にはプラスになる可能性もあると今は信じるほかないと思っている。

で、そんな状況だけに、ホテル業界はかなり悲惨な状況になっていて、今日は帝国ホテルが2020年3月期の業績予想を下方修正(売上高で45.1億円マイナス)*2、今週はロイヤルホテルが2度目の下方修正(営業赤字転落)*3ワシントンホテルも3月前半で68.2%減、という惨状を受けて業績予想を「未定」に変更した上で減配を発表*4と良いニュースはほとんどなかった。

そしてもう一つ深刻な影響を受けている興行の世界でも、ぴあ㈱が払い戻しに伴う3億円の特別損失と、売上高150億円の下方修正*5、さらには最大150億円の借入枠設定*6、と相当厳しい状況に直面していることが伝わってくる。

もちろん、業績開示全体を見れば、「コロナウイルスの影響は今のところなし」として強気の影響開示をする会社もチラホラ見受けられるし、業績好調につき淡々と上方修正、増配を決めている会社も結構あったりする。

また、このブログでもたびたび指摘してきたとおり、むしろ今の状況をポジティブに生かしている業界も現実には存在するわけで、今日開示されたイオンの営業概況*7もなかなかすごいものだった。

【2月度概況】
「当月は、各地で記録的な暖冬であったことに加え、新型コロナウイルスの感染拡大による不安が広がったことで、衣料品、住居余暇商品の売上は前年を下回ったものの、グループ主要の総合スーパー、食品スーパー、ドラッグストアにおいては、感染予防対策からマスク等の衛生用品や、備蓄や買い溜め行動から紙製品等の家事用品の売上が大きく伸長し、各社売上既存比100%以上を達成しました。」
【3月足元概況】
衣料品、住居余暇商品の売上は前年を下回っている一方で、休校や在宅勤務が拡大したことにより、グループ主要各社においては加工食品や冷凍食品の売上が好調に推移しています

イレギュラーな状況が続くと、どうしてもマイナスの部分だけが強調されることになりがちだが、長くビジネスに関わってきた者としては、世の中そんなに単純なものではないよ、ということだけは、改めて声を大にして言っておきたいかな、というのが一つ。そして、どういう対策を打つにしても、きちんとその裏付けとなるデータを押さえた上でやらないと、「救済策」がかえって世の中のバランスをおかしくすることになってしまうぞ、ということも忘れたくないところである*8

未知のフェーズに突入していく「株主総会2020」

そんな中、まさに佳境を迎えようとしているのが、12月期決算会社の定時株主総会である。

先日のエントリーで取り上げて以降も*9、会場変更を余儀なくされた、という事例はチラホラ出てきていて*10、特に会場として公共の施設を使うことのリスクは今回の一連の動きの中で、改めて認識されることになってしまったような気がする。

だが、そんな中、今日、「机上設例」が遂に現実のものになってしまう、という事例に接した。

福井市に拠点を置く日華化学㈱という化学品の会社が出したリリースはこちら。

www.nicca.co.jp

冒頭に書かれている

「本日、プレスリリースでお知らせしましたとおり、この度、弊社役員1名が新型コロナウイルスに感染した事が判明いたしました。当件に関し、ご心配、ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございません。」(強調筆者)

というコメントが、それだけでも「ただ事ではない」と感じさせてくれるのだが、より衝撃だったのは、この「役員」が社長である、という地元メディアの報道が出たことだろう*11

本来であれば、総会で議長の大役を担うはずの社長が当日欠ける、というのはそれだけで異常事態。そして原因がCOVID-19となれば本人だけの話では済まない。だが、予定されている総会は一週間後の26日に迫っている。

記事にもあるとおり、会社のリリースでは、

新型コロナウイルス感染防止の追加対応を講じることで開催及び成立が可能と判断し、予定通りの日時・場所にて開催させていただく所存です

と、あくまで予定どおり開催する方針であることが強調されているのだが、「新型コロナウイルス感染防止の追加対応」として記載された、

・保健所から濃厚接触者の認定を受けなかった取締役、監査役が出席いたします
・出席できない取締役が出る可能性がございますが、株主様からのご質問に対しましては、出席取締役で十分対応できる環境を整備いたします
運営スタッフにつきましても、濃厚接触者の認定を受けなかった社員で対応いたします
・ハピリン外部や駐車場等での会場案内者は置かないこととさせていただきます

という項目の裏にある関係の方々の苦悩にまで思いを巡らせると、もう、これは涙なしには読めない。

既に様々なところから出されている「コロナウイルス対応総会虎の巻」の中には、「議長その他の役員が感染するリスク」にまで言及したものもあったのは確かだが、それが本当に起きてしまった時にどう乗り切るのか・・・。参考になるような他社事例がその辺に転がっているような話ではないだけに、何をするにしても手探りということにならざるを得ないと思われるが*12、他人事ながら、ここは何とか乗り切った例になってほしいと思わずにはいられない。

そして、それが、今以上に深刻な状況が生じている可能性が高く、それゆえに、例年以上の不安を抱えている5月、6月総会の担当者にとっても希望の光となることを願ってやまないのである。

*1:https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/200319_monthly.pdf

*2:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200317480458.pdf

*3:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200311477716.pdf

*4:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200317480374.pdf

*5:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200319481554.pdf

*6:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200319481555.pdf

*7:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200319481923.pdf

*8:昨今、様々な業界が「救済」を求めて声を上げている状況があるのだが、目につきやすい”窮状”に引っ張られて情緒的な対策に流されるようなことになってはいかんだろうと思わずにはいられない。今の状況はまだまだしばらく続く話だし、配分できる財源には限りがある以上、分かりやすいところに飛びつくことが、結局真に救うべきものを救えない、ということだって、あり得る話だから。

*9:今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月4日版 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*10:建長寺」での開催という個性的な総会を売りにしていた㈱カヤックは、通常の会議棟に開催場所を変更(https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS01527/a3dd9130/0509/4388/9b28/ffa48826b219/140120200312478766.pdf)、さらに、「中10日」での会場変更、開始時刻の変更まで余儀なくされた会社も出てきた(㈱メドレックス、http://pdf.irpocket.com/C4586/bbZB/EaMT/LYy8.pdf)。

*11:日華化学社長が新型コロナ感染 本社半数超が在宅勤務へ :日本経済新聞

*12:他の役員を議長にして乗り切るとしても、これからの一週間でその役員にまで感染が広がってしまったら?といったリスクもあるだけに、事務方としては様々なシナリオを準備しなければいけない、というつらさがあるような気がする。

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