パブコメは出せなくても、思いはどこかで・・・。

これくらいの歳になってくると、時間が過ぎ行くのもただただ早くなる。

新型コロナ禍下、どこかで見たような光景が繰り返される日々となればなおさらだ。

そんなわけで、パブコメの募集が始まった頃は、「まだまだ締切りは先だから、余裕があれば・・・」なんて思っていたあれこれも、GWの終わりとともにあっけなく期限を迎えようとしている。

特に、↓などは典型で、意見募集期間が3か月近くもあり、所属会でも各団体でも、もろもろ意見をまとめているのを横目で眺めていたにもかかわらず、結局、未だに補足説明に目を通せていなかったりする。

www.moj.go.jp

おそらく出てくる意見は百家争鳴。そうこうしているうちに、IT技術の進化や世の中のリテラシーの変化の方が先に行き、最後にまとまる案は、中間試案段階の原型をとどめないレベルにまで変わってしまう可能性もないではないから、今あれこれ物申す必要もないような気はするのだが、忸怩たる思いも多少はある。

あと、このブログでも取り上げた、「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの一部改訂に係る上場制度の見直しについて(市場区分の再編に係る第三次制度改正事項)」に対するパブコメに関しても言いたいことは山ほどあったのだが、こちらも期間が短かったこともあり、まぁ見送りで・・・。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

ちなみに、東証といえば、この改訂コーポレートガバナンス・コードのパブコメ締切りに先立って、昨年末に公表された「第二次制度改正事項」に対するパブコメ結果が先月末に公表されており、これがなかなか読み物としては面白い。

https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/nlsgeu0000055nqm-att/nlsgeu000005j2ls.pdf

特に、中堅規模の会社であれば、今どこも気になって仕方がない「上場区分見直し」の話に関しては、

「プライム市場の基準について、現在市場第一部に上場している中小規模の企業に気を使い過ぎではないか。プライム市場には、日本を代表する限られた優良企業だけが上場し、上場維持のためには、大変な努力を続ける必要があり、その株価指数がTOPIXとしなければ、競争力のあるものにならないのではないか。」(4頁、強調筆者、以下同じ)

プライム市場の上場維持基準が緩すぎる。プライム市場に上場できる企業の割合を定め、たとえば流通株式数の上位から30%以内とすれば、上場企業が安穏に過ごすことなく競争し、常に企業努力を重ねていくのではないか。」(4頁)

というマッチョな意見が出ているかと思えば、

上場している企業に対する配慮が見られない。上場企業に対して市場区分の変更説明と理解を求めるためにどのような行動をしているのか。理解は得られているのか。上場維持基準を厳しくした場合に上場廃止になる企業が出ては問題、流通株式数の現行の考え方のままでよいと考える。銀行、保険会社及び事業法人等が株式を保有していても安定的に経営をしているであれば問題ない。それほどまでに海外の投資家に配慮する必要があるのか。」(14~15頁)

少数の所有者によって支配されている会社が上場会社として不適切であると判断すべきではない。先見の明のあるリーダーが支配権を有することが、まさに投資家が求めていることである可能性がある。パッシブ投資の増加などにより、流通株式比率が25%未満の株式をグロース市場に係る指数から除外することは適切な場合があるものの、流通株式比率として25%を求めることや、流通株式の定義見直しによる流動性基準の引き上げは過剰。資本市場へのアクセスを不必要に制限し、東証市場の流動性と幅を狭める。」(10頁)

といった、一部の界隈の人々が「よくぞ言った!」と喝采を挙げそうな正論も混じっていたりする。

「流通株式」の定義が分かりにくいとか、持ち合い先に「純投資」と書かせればクリアできてしまうのはどうなのか、といった指摘はもっともだと思うし、個人的には、既に連結ベースで企業集団が評価されている時代に、「親子上場」はもはや時代錯誤だろう、という思いも強いのだが、一方で、見栄えの良い会社だけを残して「日本市場代表」のように飾り立てるのもなんか違うな・・・という思いもあって、どちらか一方に与するような気分にはなりにくい。

そして何より、東証はどうしたいのか?」ということが、未だによく見えてこないところに、この問題が混迷を極めつつある最大の要因があるような気がする。

「プライム市場の上場維持基準は、多くの機関投資家の投資対象となりうる規模の時価総額流動性)やガバナンスを備える観点から設けている最低限のものであり、プライム市場の上場会社数や割合を限定することを目的とするものではありません。」(4頁)

「もっとも、ご提案のように、流通株式比率を50%超とすることは、特定の支配株主が存在する会社の上場を一切認めないとの考え方をも意味することとなりますが、諸外国の主要な取引所のうちに、そのような上場政策を採用している取引 所は存在しておらず、株式市場を通じた資金調達の機会を我が国の上場会社についてのみ過度に制約することになると考えられます。そのような制限を課すことにつき、現時点で、市場関係者による合意がある状況にはございませんので、ご指摘に基づく対応は見送らせていただきます。」(12頁)

といった回答を見ると、既存の上場企業関係者に配慮しているように見えるが、その一方で、「流通株式」の定義については、マッチョ派の意見を汲む形で、「最近5年間の売買実績があること」という要件を追加、さらに報道等のフィルタを通して、市場区分見直し=”ふるい落とし”であるかのようなアドバルーンを飛ばし続けているのではないか、と疑われるような状況も存在する*1

そして、そんなフラストレーションもある中で、

「今般の市場区分の見直しは、各新市場区分のコンセプトを明確にすることで、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支え、投資者から高い支持を得られる魅力的な市場構造を実現することを目的としています。」
各市場区分は、それぞれ独立しており、上下・優劣の関係にないものと整理しております。」(以上34頁)

といった建前論をぶっぱなされると、さすがに引いてしまう・・・。

純粋な投資家目線で言えば、「優良企業の株式」ばかりでは、投資対象として面白みがないのであって、「いつかは化ける(かもしれないし化けないかもしれない)クズ株」銘柄も上場している、きれいに言い換えれば「選択肢がたくさんある」市場の方が圧倒的に魅力的なわけだから、「プライムの基準を満たせないので市場から退場します!」なんて会社が続出する事態は避けられるに越したことはないと思っているし、ゆえに、東証の上記のような建前にかかわらず、

「プライム市場において、ガバナンスや業績には問題がなく、流動性に関する上場維持基準のみに抵触する場合には、改めて上場申請して審査を受けるのではなく、そのままスタンダード市場に移行する制度を設けて頂きたい。」(2頁)

というご意見を圧倒的に支持するしたい*2

さらに言えば、

「プライム、スタンダード、グロースの名称は分かりにくい。一部、二部、三部でよいのではないか。」(34頁)

という意見を採用した上で、毎年各カテゴリーの上位と下位が機械的に入れ替わる「Jリーグ方式」で運用すればよいではないか、と思ったりもするのだが、様々なところで本音と建前が交錯するこの世界で最終的にどういう形で制度が落ち着くのか・・・


ということで、パブコメを書くは難し、読むだけなら楽し」というロビー業界の格言(?)を自分への言い訳としつつ、締め切られてしまったあれこれの結果がまた公表される日を楽しみに待つこととしたい。

*1:この辺の記事のトーンに関しては、報じる側の勝手な解釈によるものである可能性もあるので、取引所サイドばかりを非難するのは合理的な対応とはいえないのかもしれないが。

*2:これに対しては、東証自身も検討を進めていく姿勢を明らかにしている(3頁回答参照)。

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