長い騒動の末の答え合わせ。

遡れば3年前の年末に金融審議会市場ワーキング・グループ市場構造専門グループの報告書案が出てから、そして直近では昨夏の「一次判定」通知から、ずっとコーポレート界隈の人々をザワザワさせてきた「東証市場区分見直し」に公式の答えが出た。

東京証券取引所は11日、4月4日に実施する株式市場再編後の全上場企業の所属先を公表した実質最上位の「プライム」には1841社が上場する東証1部のうち8割強が移行し、プライム以外に移る企業は2割弱にとどまった。再編には上場基準を厳しくして新陳代謝を促す狙いがある。ただ、基準を満たさなくてもプライムに上場できる例外規定を約300社が活用しており、活性化に向け課題を残した。」(日本経済新聞2022年1月12日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ)

引き続き”マッチョ再編”志向の日経紙が記事を書けば、1800社以上も「プライム」に残った、ということに対してこういうネガティブな論調になるのも当然なのだが、昨年末の時点で「1800~1900社」と言われていたことを考えると*1、思ったより小さい方に数字が出たな、という印象があるし、基準適合に向けた計画を開示してプライム残留のために経過措置の適用を受けようとする現・東証1部上場会社(296社)の数をスタンダード市場への移行を決めた東証1部上場会社の数(344社)が上回ってしまった、ということにも心底驚かされた*2

東証・新市場区分の選択結果について(2022年1月11日公表)
https://www.jpx.co.jp/equities/market-restructure/results/nlsgeu0000062bx0-att/nlsgeu0000064272.pdf*3

結果的に、これまで「1部」が大半を占めていた東京証券取引所は、プライム1,841社に対し、スタンダード1,477社、グロース459社、と「プライム以外勢」が過半数を占める形となり、個人的にはかなり変わったな・・・という印象の方が強くなった。

プライム市場を選ばずにスタンダード市場を選ぶ、という選択が「英断」なのか「将来のリスクを残す消極的選択」なのか、という議論を今したところで、すぐに結論が出るわけでもないし、自分の意見はこれまで散々書いてきたので繰り返すことはしない。

ただ、この日の日経の紙面を眺めて、やっぱりそうだよな・・・と思ったのは、川崎健編集委員の署名記事の中に出てくる以下のくだりだろうか。

東証幹部が興味深い話をしていた。「上場企業を増やすことが東証の使命であり、上場基準は緩和するのが当たり前だとずっと考えてきた」日本経済新聞2022年1月12日付朝刊・第3面)

そうでなくても家族主義が優先される世の中で、結構な規模になっても”内輪優先”的な経営を脱しきれない会社が多い東アジアの島国においては、株式を公開して「上場」させる、というのが、企業経営に最低限の規律を課す上で欠かせないプロセスだったはずだし、だからこそ、あの手この手で、ちょっとでも色気を見せた会社を取引所に引きずり込む、というのがこれまでの市場関係者の発想であり、これまではそれで良かったのだと思う。

課されている開示義務の範囲が決して十分なものではなかったり、ガバナンスが万全とはお世辞にもいえなかったりするかもしれないが、それでも、闇に包まれた非上場の会社に比べればはるかにマシだったのだから・・・。

いつしか、「取引市場」そのものが国境を越えた”競争”に巻き込まれ、飽和状態となった社会で上場した会社に対して課される規律も年々厳しくなる中、”振るい落とし”に転換したのが今のフェーズ、ということだと自分は思っているし、今のトレンドで改革を推し進めていけば、いずれ「上場をやめる」会社が相当数出てくるだろうし、一定の規模になっても「上場しない」と選択をする会社もより増えてくるだろう*4

そうなった時、市場にはピカピカの会社が残るのかもしれないが、元々市場が果たしていた「世の中で一定の存在感を発揮している会社に一定の規律を及ぼし、情報開示を促す」という意義を誰が、どこが引き受けるのか。ここから先の議論にはそういう視点があっても良いのではないかと思っている。

いずれにしても一寸先は闇。年末年始を挟んで株価も激しく動いている状況で、蓋を開けてみたら移行後にプライムの経過措置対象となる会社は300なんて数では済まなくなる可能性もあるのだが、この2022年1月11日、という記念すべき日に新しい所属市場を発表された会社とその中で汗を流す人々が不本意な形で市場を去るような事例がちょっとでも少なくなるように、願掛けでもしながら見守ることにしたい。

*1:これが今の「答え」だった。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:時価総額があまりに低いために、開示すら出さずに「スタンダード行き」を余儀なくされた会社も相当数あったようで、その結果、逆転現象が起きることになってしまった。

*3:このPDF2ページ目の表が分かりやすい。

*4:プライムかスタンダードか、という議論の中で、「プライムだとコストがかかるので・・・」的な意見も時々目にしたが、流通時価総額や流通株式比率、といった数字の話を除けば、プライム市場の上場会社に適用される基準とスタンダード市場のそれとで、決定的にコストに差を付けるような質的・量的な規律の差異は存在しない。今はプライムにしか適用されないとされている規律だって、その方向性が間違っていなければ、いずれ全市場に適用されることになるのは明白なので、結局のところスタンダードに行ったところでそれは少々の時間稼ぎに過ぎない。「スタンダード行くべき派」が主張している”コスト”なるものは、結局のところ「証券市場に上場していることのコスト」に他ならないわけで、それをかけたくないからスタンダードに・・・という会社の先に待っているのは、非上場化の道しかないと自分は思っている。

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