「固定」し続けたことの意味。

最近では珍しくハラハラした展開が続いているサッカーのカタールW杯最終予選。

1勝2敗、と負け越したサウジ戦では、聞こえてくる声はみな罵声、というような状況だったが*1、その4日後にホームでオーストラリアを撃破して一息。さらに先週からの11月アウェー2連戦で、「1-0」の最少スコアながら、ベトナムオマーンも連破して3連勝、グループ内の順位も2位に浮上して年を越す、ということで、10月時点で想像していた可能性の中では一番ベストな展開、になっているはずなのだが・・・。

一夜明け、「勝つには勝ったけど・・・」という感じで、また”森保ジャパン”への恨み節があちこちから噴き出しているように見える。

今月の2試合に関しては、自分は試合の映像を全く見られておらず、「勝ち点6積み増し」という結果だけ見て満足していたから、「何でここまで言われているんだろう・・・」と最初いぶかしく思っていたのだが、この2試合の選手起用を見て、なるほど…と思ったところは確かにあった。

GKはベンチに川島、谷という新旧のリザーブ選手を入れながら権田修一選手を引き続きフル起用。
DFは、この2試合、ベテランの長友選手を下げて中山雄太選手を入れる、というパターンをこの4試合続けている*2
MFはオーストラリア戦以降、田中碧選手や伊東純也選手を先発起用して結果を出す等、比較的変えてきているポジションではあるのだが、それでも試合によって先発・リザーブが切り替わるのは柴崎岳選手くらいで、あとは先発とベンチの「役割」が固定されているように見える。

そしてFW。大迫選手先発、古橋選手を途中起用という展開がここ4試合続いていて、最後のオマーン戦では古橋選手を南野選手との交代にすることで早めに投入する、というオプションを繰り出してきたものの、MF登録の浅野拓磨選手と合わせて”序列”は依然として固定化しており、さらにこの11月の2連戦に関しては、五輪組の上田綺世、前田大然という今が旬の選手たちを連れて行ったにもかかわらず、DF登録の旗手怜央選手ともどもベンチメンバーとしても登録しなかった、ということが物議をかもすことになった。

勝ったとはいえ、結果をみれば「一歩間違えば・・・」の最少スコア差。DAZNに加入して夜な夜な張り付いて見ていたファンに爽快感を味合わせるような攻撃力を90分間発揮できていない上に、オマーン戦で活路を開いたのがしばらく出番のなかった五輪組の三苫薫選手だった、となれば、”采配”に疑問を呈する声は当然出てくる。加えて、ベンチにも入れなかった五輪組の3選手がいずれも「国内組」でJリーグから熱心に見ているファンにとっては思い入れの強い選手たちだった、ということも、コンディションの上がらない海外組(&海外出戻り組)が重用されているように見える今の代表の選手起用への不満に直結したところはあるのかもしれない*3

まあ分からんでもないね・・・というところではあるのだけれど・・・。


今回のW杯最終予選の最大の特徴は「準備期間の短さ」にある。

新型コロナの影響で、2020年の後半に差し掛かるまで試合をすることもままならず、辛うじて試合を組めるようになってからも、目前に迫った1年遅れの東京五輪への準備と、さして経験値上昇にはつながらないW杯二次予選の日程が錯綜した結果、「フル世代代表」が組めるようになったのは最終予選が始まる直前のこと・・・となれば、選手の選考から試合での起用まで、そう多彩なオプションを駆使できるわけでもない。

そして、そんな状況で始まったところで、いきなり格下相手に痛い星を落として上位2強を追いかける形でのスタート、となれば、できることは自ずから限られてくる。

国境を越えた移動すら、まだ様々な制限がかかる現状で、各国のリーグ戦のタイトな日程の合間を縫って行われるのが代表の試合で、それは最終予選だからと言って例外ではない。余裕を持った強化日程で新しい戦力を馴染ませていく時間もなければ、試合の中で不確実な要素を”試せる”ような余裕もない、となれば、できることは、「少しでも勝ち点3を取れる確率が高いパターンを固定する」ことしかないのではなかろうか・・・。

最後は息切れしたとはいえ、東京五輪でも途中までは「固定」した方が良い方向に機能していたのは確かだし、最終予選でも今の起用パターンが定着してからの3試合で見事に勝ち点9を上積みしていることを考えると、結果的にはこのやり方が効を奏している、というほかないわけで、にもかかわらず、「もっと他の選択肢があるはず!」と言って監督を責め立てるのは、あまりにお門違いではないのかな、と思う。

それに、メンバー固定、ということで言えば、かつてのジーコザッケローニ監督の時代なども結構極端だったし、逆にハリルホジッチ監督のように招集のたびに選手を入れ替えすぎてチームを壊しかけた例もある。それに比べれば、ベースを固定しつつ、ちょっとした変化で堅実に勝ちを拾っていく今の森保監督のスタイルは理想に近いようにも思えるわけで、それでも叩かれてしまうのだとしたら、そこには「海外での選手、監督としての実績がないドメスティックな存在」である、という監督のバックグラウンドも影響しているのかもしれず、さすがにそれは不当じゃないか、というのが自分の率直な感想である。

サッカーの世界に限らず、後がない、失敗できない状況で、責任を全うするための最善の方策は、「確実なものを信じ切る」ことだけだと自分は思っている。

「招集してるんだからベンチに入れろ」とか「ベンチにいる選手をもっと使え」とか、外野はあれこれ言うけど、”親善試合”ではないガチンコの勝負で、周囲を気にしてその声に軽々に乗っかるのはかえって無責任のそしりを免れないわけで、動じず決めた手を貫くことの重要性は、自分自身がマネージメントをする立場になってからも、大事なことの一つとして、常に自分に言い聞かせてきたことだったりもする*4

だから、今は、最初のオマーン戦からああだこうだ言われながらも、4勝2敗、勝ち点12。きっちりと結果を出した代表監督に、最上級の賛辞を贈りたい。

そして、年が替わってからの4試合は、気づけばがらりと変わったメンバーの下で、より一段進化したA代表チームの姿が見られる、と自分は信じてやまないのである。

*1:W杯予選はこうでなくちゃ。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:ここ2試合に関しては、60分台前半に中山雄太選手を投入、ということで少しタイミングは早くなっているが。

*3:そもそも、今回のベンチ外3選手のうちFWの2選手、特に前田選手は、Jリーグでは驚異的なパフォーマンスを示しているにもかかわらず、五輪でも決してファンを満足させるような使われ方をしていた選手ではなかったがゆえに、なおさら・・・というところはあるのかもしれない。

*4:日常の仕事が常に「代表戦」のような緊張感のある舞台だったわけではないから、譲歩と妥協で貫ききれない場面も多かったのだけど、それでも、どれだけ”えこひいき”といわれようが、大事な仕事はエースに任せる、というところは譲らずにやってきた気がする。

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