パリ五輪開幕後、連日のメダルラッシュで湧いている(らしい)この日本だが*1、続々と生み出される「金」メダルの中でも特にインパクトが大きかったのが、スケートボード男子ストリートの堀米雄斗選手のそれ、だった。
この種目は初めて実施された東京五輪でも、男女そろって日本勢が金メダル、という偉業を成し遂げていたし、前日には女子ストリートで吉沢恋選手、赤間凛音選手が金・銀*2で沸かせたばかりだったから、当然期待しながら見ていた視聴者も多かったとは思うのだが、男子に関しては、3年前とはちょっとスケールが違う競技になっていたというかなんというか・・・
一つのトリックをビタっと決めるのが難しい、という競技特性は変わらない。
だが、ランとトリック、7回の試技機会の中で質の高いトリックをコンスタントに決めていけば上位に食い込める、という印象が強かった前回とは異なり、ルールが変わった今回は、
・2回のランのうち最低1回はしっかりまとめないと、後半でどんなに凄いトリックを見せても逆転は不可能
・一方、トリックは5回の試技のうち上位2つの得点だけが採用されるので、(3回はチャレンジが許される代わりに)単に”置きに行く”試技を繰り返しても上位は望めない。
ということで、競技としての難易度は格段に上がった。
しかも、この手の競技の進化のレベルは早い。決勝に出てくるレベルの選手たちになると、3年前だったら大喝采を浴びていたようなトリックをいとも簡単にこなすし、そういうレベルの中でより超越した結果を残さないと・・・というプレッシャーが全選手にかかっているだろうことは容易に想像できる状況だった。
そんな中で繰り返されていく試技。
前回に続いて出場していた米国勢がランで高得点を叩き出し、それを日本の堀米、白井空良選手が追いかける、という苦しい展開。
堀米、白井両選手も1回目のトリックをきっちり決めて90点台中盤の高いスコアを出しているのだが、同じくらいのスコアは米国勢もきっちり出して、なかなか順番は入れ替わらない。
トリックの2回目以降は、堀米選手、白井選手が高難度のトリックに挑んでは失敗を続ける、というもどかしい展開。
一方米国勢は着実にスコアを伸ばし、4回目の試技で前回銅メダルのジャガー・イートン選手がこの日の全選手中のベストスコアを出した時点で、もはや勝負あった・・・という状況になりかけていた。
そんな空気を一瞬で変えた堀米選手の5回目の試技。
あの瞬間を、ベタな言葉で表現しようとするのは野暮、というものだろう。
確率的には10回に1回、いや、もっと低いかもしれない成功率の世界の中で、一番大事な、五輪という舞台の最後の最後の試技で大技が決まる、という、フィクションの世界でもシナリオ化するのは憚られるような、そんな奇跡がパリのコンコルド広場で起きた、ということ、そしてその瞬間を自分がリアルタイムで目撃することができた、ということだけでもう十分だった。
叩き出された97.08点、というスコア。
ランでのスコア差を考えれば、後続の米国勢はそこまでのスコアを出さなくてもまだ逆転できる可能性は残っていた*3のだが、それはあくまで理論上の話。
あの会場の空気の中で、さらにスコアを上乗せできるだけの余裕を残していた選手などいるはずもない。
唯一、堀米選手の直後に滑走した白井選手だけは、”あと一歩”の惜しい演技を見せたが、そこは神様の悪戯で成功には至らず、ほぼ手中に入れかけていた銅色のメダルも零れ落ちていった*4。
かくして成し遂げられた堀米選手の2大会連続金メダルの偉業。
東京の時は、五輪の舞台で実施することへの懐疑的な声も見受けられたこの競技だが、研ぎ澄まされた技術×確率論、が観客にもたらすスリルは、他のどんな競技と比べてももはや遜色ないレベルに昇華したような気がする。
そして、今後、冬季五輪のフリースタイル系の競技と同様に、この競技が夏の五輪の人気競技として定着することになるとしたら、それはやはり、この日の堀米選手のパフォーマンスが与えた何か、が、そこに大きく作用したということは間違いないと思うし、だからこそ、東京に続いて彼のベストトリックの瞬間を2度とも目撃できた、という偶然に今は深く感謝している。