ひよ子 vs 二鶴堂

テレビで一週間のニュースを見ていたら、
「ひよ子」の立体商標をめぐる特許庁の審決が話題になっていた。

福岡市の老舗製菓会社「ひよ子」が販売するひよこ形の菓子「ひよ子」に立体商標登録を認めたのは不当として、同じ福岡市の製菓会社「二鶴堂」が特許庁に登録の取り消しを求めていたが、同庁は9日までに出した審決で、二鶴堂の請求を退け、ひよ子の立体商標登録を改めて認めた(毎日新聞)。

登録されたのが03年で、審判請求が04年だから、
二鶴堂が提起したのは、おそらく「無効審判」だろう*1


テレビの取材に応じていた二鶴堂の社長は、
「こんなありふれた形態の菓子の商標登録を認めるなんてけしからん」
とおっしゃっていたが、
単なる「鳥型の菓子」というレベルを越えて、自他識別性が認められれば、
“一応”商標登録は認めるのが現在の運用。


「ひよ子」はおそらく全国誰でも知ってるはずの銘菓だし*2
ほとんどの「ひよ子」の看板には、あの独特の菓子が一緒に映っているから、
“あの形のお菓子”=「ひよ子!」という認識は、
需要者の間にも十分に浸透しているといわざるを得ない*3


ただ、商標が登録されるかどうか、という話と、
それに基づく権利行使が認められるかどうか、という話はあくまで別物。

今回の無効審判は、
「ひよ子」側が仕掛けた侵害訴訟を発端としたものだったようだが*4
今回の無効審判不成立審決が確定したとしても、
おそらく、商標権侵害まで認められることはないように思う。


明らかな故意による侵害の事例(ロゴのデッドコピー)でない限り、
商標の類似性、特に立体商標の類似性は認められにくい。
元々「鳥型の菓子」自体はどこにでもあるものなのだから、
ちょっとした形状の差異があれば、非侵害の判断に行き着くということは、
容易に想像できるのである。


宣伝手法だの商品形状だので、
二鶴堂側に意図的な擦り寄りが見られれば、
不競法違反が成立する余地はあるのかもしれないが*5


ま、過剰反応するような話ではないってことですな。


ちなみに、うちの会社でも、制度導入直後に、
気合入れていくつか出願登録された立体商標があるが、
今や棚に登録証が飾られるだけの存在になっている・・・*6

*1:よって、「登録の取り消しを求めて、という表現は適切ではない(「無効を主張して」と書くのが適切だろう。)。商標で取り消しと言えば、「不使用取消審判」ないし「登録異議申立」の手続を指す。報道記事の中では良く見られることではあるが。

*2:ただし、福岡のお菓子だということは恥ずかしながら今回始めて知った。

*3:他の鳥型の菓子で同じような宣伝戦略を取っているものはあまり見たことがないから、そういう意味では「ひよ子」の宣伝戦略は一枚上手といえるだろう。

*4:侵害訴訟はあくまで有効な権利の行使として行われるものなので、登録されている権利の有効性そのものを否定してしまえば、被告側が法的責任を負うこともなくなる。したがって、特許、商標の侵害訴訟を提起された場合には、まず無効審判をかけて権利潰しに行くというのが鉄則。

*5:ただし、侵害訴訟が係属しているのは「福岡地裁」なので、東京・大阪とは異なる独自の飛び飛び判決が出る可能性は否定できないのだが・・・。

*6:立体商標に限らず、万が一を考えて出願しては見たが、登録されても使い道がない、という商標は、企業の中にはごまんとある。商標部門が「金食い虫」といわれる所以。

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