止まらない知財高裁第3部の「喝!」

このブログで何度も取り上げている飯村コート(たまに三村コート)こと、知財高裁第3部。


最近では、無効審決取消訴訟中の訂正審判請求を華麗にスルーするなど、引き続き野心的な運用の構築を進めているように見受けられる。


そんな中、またしてもこのコートにふさわしい、「喝」が入った判決が出されているので2件まとめて紹介することにしたい。

知財高判平成19年11月28日(H19(行ケ)第10172号)*1

原告・有限会社ル・フリーク
被告・株式会社クラウン・クリエイティブ


本件は、原告が有する商標第4832063号「Shoop」(シュープ)に対する無効審判請求(無効2006-89045号)が認められたのを受け、その取消を求めて訴えが提起された事例である。


審決では、引用商標である「CHOOP」が商標法4条1項10号に違反して登録された、と認定されていたのであるが、飯村コートは、2つの理由を挙げて審決を取り消した。


そのうち1つ目は、商標の類否判断に際し、取引の実情を丹念に検討した上で、引用商標が、

ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッションブランド」を想起させるもの

であるのに対し、原告商標が、

「セクシーなB系ファッションブランド」を想起させるもの

であって、両者の需要者層では、被服の趣向(好み、テイスト)や動機(着用目的、着用場所等)が相違するため、出所について誤認混同を生じるおそれはない、という理由であり、判断内容に若干の真新しさも感じられるものの*2、論点そのものが珍しい、というわけではない。


だが、2つ目の理由はどうか。

「審決は、被告の無効審判請求が、本件商標の指定商品中「これらの類似商品」についての登録を無効とすることを含むものであり、審判の対象・範囲、無効審決の効力の及ぶ指定商品の範囲が曖昧であるにもかかわらず、審判手続の過程で適切な措置を採らず、「これらの類似商品」を含めて無効審決をした点において、手続等に違法がある。この点は、念のために述べるものである。」(30頁)

本件では、無効審判において、

「セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳帽及びこれらの類似商品

について登録を無効とする旨の請求がなされており、認容されているのであるが、既に立てたエントリーでも紹介しているように、知財高裁第3部はこのような請求を認めることに、かつてから極めて強い懸念を表明していた*3


筆者自身、上記エントリーの中で、

「今後、同じような「漫然な」審判が行われた場合、どのような「付言」が付されるのか、想像するだけで恐ろしい。」

というコメントを残していたのだが、本判決ではついに、このような「審判手続上の違法」が取消に値する事由であることが宣明されることになってしまった*4


確かに商標権の対世的効力を鑑みれば、権利範囲が明確であるにこしたことはないのだが、無効審判を申し立てる側としては、取り消しておきたい商品・役務を審判請求の際に漏らさず特定する手間がかかるようになった、という点で痛し痒しな面があるのは否めない。


今のところ、筆者は、第3部以外の合議体が同様の判示をしたケースを知らないのであるが、今後、他のコートがこのような判断に追随していくのかどうか、が来年以降の注目、ということになろう。

知財高判平成19年12月26日(H19(行ケ)第10209号、第10210号)*5


特許庁に対して痛烈な「喝」が発せされているのは、商標の世界だけではない。


意匠の拒絶不服審決の取消訴訟においても、同じような「苦言」が呈されている。


本判決においては、出願意匠が「公然知られた形状」であり「容易に創作することができた」とした審決の判断を否定し、審決取消請求を認容しているのだが、いつもながらに強烈な「付言」が付されている。


雰囲気を知っていただくために、以下、そのまま引用することにしたい。

3 付言(審判の審理構造及び審理対象に関して)
意匠登録出願に係る拒絶査定に対する審判の審理の対象は,意匠法17条所定の意匠登録を拒絶すべき事由が存在するか否かである。審判の対象は,審査の過程で審査官が発した「拒絶理由の通知」の当否でもなく,また,拒絶査定に係る拒絶理由の当否でもなく,さらに,請求人の主張の当否でもない。この点は,審判体において,自ら意匠登録をすべき旨の審決ができること(意匠法50条2項)、拒絶査定の理由と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をすることができること(同条3項)等の法条が設けられていることから明らかである。
審判体において,拒絶査定不服審判の請求が成り立たないとの結論を導くためには,意匠法17条所定の条項(例えば同法3条1項,2項など)のいずれかに該当する理由(該当するとの判断に至った論理の過程)を明示することを要する。そして,同条項に該当すると判断するに至った論理の過程を明示するということは,審判体において,?前提となる法律の解釈に疑義がある場合には,当該法条の解釈を示すこと,?法条の要件に該当する事実が存在することを明らかにすること,?事実を法条に適用した結果として,意匠法17条所定の条項(例えば同法3条1項,2項など)に該当するとの論理の過程が成り立つ点を明示することを含む。審判体は、この論理過程を説明する責任を負担し、文書をもって明示することを要する(意匠法52条,特許法157条。)。
ところで、審決書(1)及び(2)を見ると、その「理由」には「原審の拒絶理由」欄で、拒絶査定に係る拒絶理由の要旨が記載され、「請求人の主張」欄で拒絶査定を不服とする請求人の主張が記載され、「当審の判断」欄の「請求人の主張の採否について」との項目で,請求人の主張の当否が記載され,同欄の「原審の拒絶理由の妥当性について」との項目で,拒絶理由の当否が記載されてはいるものの,審判体の判断の論理過程を直接的に示した記載部分はなく,結論として同欄の「本願意匠の創作の容易性について」との項目において「以上の検討によれば,請求人の主張は採用することができず,原審の拒絶理由は妥当であるから,本願意匠は,出願前に当業者が公然知られた形状に基づいて容易に創作をすることができなものであるといわなければならない」との記載がされているのみである。
このような審決書(1)及び(2)の理由記載は,その体裁だけで直ちに審決の違法を来すとの結論を導くものであるか否かはさておき,審判体が,本願部分意匠又は本願全体意匠が意匠法3条2項に該当すると判断した論理の過程を的確に示したものということはできない。すなわち,審決書(1)及び(2)の理由は,論理付けの根拠とは無関係かつ不要な事項を含み,審判体の判断の基礎となる論理付けが明りょうでなく,審判の構造に対する誤った認識に基づいた判断であるとの疑念を生じさせるという意味において,妥当を欠くものといえる(特に本件では,少なくとも拒絶理由通知における理由部分は,僅か5行ないし7行からなるごく簡単で定型的な記載にすぎないから〔甲13の1、2〕,審判体において,そのような理由が妥当であるとの判断に至ったからといって,当然に,審判体としての結論に至る論理付けとして十分であるとすることはできない)。上記の趣旨は,一般の審決書における理由記載においても,同様に留意を要すべき点であるといえる。

最高裁HPでは、丁寧なことに、本判決に続いて「審決」全文がそのまま引用されており*6、ここまで来るとなんだか気の毒になってくる。


特許庁審判部の審決の中に、時々クビを傾げたくなるようなものがあるのは確かで(特に査定系の審決)、筆者自身、「審判官ヤル気ねーな」と悪態を付きたくなるような場面に遭遇したことがないわけではない。


だが、特許庁の審判官に、「元々法的素養がある上に、さらに日々法律家としての研鑽を積んでいる」裁判官と同レベルの緻密さを求めるのも少々お門違いなところはあるんじゃないかな、と思ってしまうのもまた事実。


少なくとも添付されている審決のレベルの内容であれば、審判当事者は特許庁が何を言いたいか分かるじゃないか・・・と思ってしまう筆者は優しすぎるだろうか・・・?



この先、このコートがどこまでこの路線で突き進んでいくのか、そしてそれによって、他の合議体の運用や*7特許庁における運用が変わっていくことになるのか、興味の種は尽きることがない。

*1:第3部・飯村敏明裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128162804.pdf

*2:同じ女性用衣類に関する商標であるにもかかわらず、ここまで細かく「需要者層」を細分化して判断した、という点で。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20071206/1197174421#tb参照。

*4:正確に言えば、肝心の当事者が審判手続上の瑕疵を審決取消事由として争っているわけではないので、あくまでこれも「付言」に留まるものに過ぎないと思うのだが、これまでの判決とは異なり、本件では他の理由で審決自体が取り消されているので、特許庁審判部はダイレクトに「適切な措置をとる」という重たい“宿題”を背負うことになった。

*5:第3部・飯村敏明裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071227100929.pdf

*6:審判長、審判官の欄が空欄になっているあたりに、余計に強烈なものを感じるのは筆者だけだろうか・・・。

*7:知財高裁の中でも、中野哲弘裁判官が裁判長を務めている第2部などは、特許庁の審決の路線を踏襲する傾向が強いように思うのであるが、何かをきっかけに変わっていくのだろうか、注目されるところである。

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