法学教室9月号(第300号記念号)

週末を利用して、溜まる前に読んでみる。
以下印象に残った記事。

特集「21世紀の法律学

東大の大渕教授と、片山弁護士、名大の上田教授(医学系)の鼎談の中で、
工学部出身の片山弁護士が、
理系のバックグラウンドがなくても知財弁護士ができるか、という命題に対して、
次のようなコメントを残されている。

そこでいつもお答えしているのが、それは大丈夫ということです。考えてみますと、専門とは言っても例えば学部段階で言えば、たかだか2年、3年の教育に過ぎないわけです。人の一生はそれよりずっと長いわけで、社会人になってから一生懸命勉強されることで、十分ついていけます*1

実務をやっている者なら当然分かっていることではあるが、
世の中には、技術系の素養のない者が裁判官や弁護士として、
知財事件に携わっているのはけしからん、という妄言を吐かれる方も
まだまだ多い(某玉井教授のように・・・)。
こういうコメントをもっともっと色々なところで出していただかないと、
我々は報われない。

憲法基本判例を読み直す

先日のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20050824/1124899434)で
少し触れた三菱樹脂事件が今回の題材。
野坂教授の分析によれば、この最高裁判決は、
一般的に言われているような間接適用説を採用したものと理解するより、
「無適用説」の立場を表明したもの、と捉える方が適切であるとのこと*2


「私人相互間の利益衡量が適切に行われる限り、
対国家規範である憲法の人権規定を私人間に適用する必要はない」、
という考え方が出てきていることは、以前自分もどこかでかじった記憶がある。
実際、民事訴訟で人権規定が持ち出されるのは稀だし、
人権規定に頼らざるを得ない時点で、もはや原告側の勝ち目は薄いともいえる。


だが、世の中の実態として、
人権規定を持ち出さないことには解決できない問題が存在しているのも
また事実なのであり(多くは民事立法、行政立法の不備に由来する)、
いわゆる「無適用説」的な言説が、ミスリーディングになってしまうことは、
避けなければならないと思う*3


なお、東北大の小粥教授の演習でも、同様のテーマが取り上げられているので、
読み比べて見ると面白い*4

判例から見た刑法

佐伯教授の連載が今号はお休みなので、刑法は山口厚先生のみ。
相変わらず、切れ味鋭い自説を展開されているが、
印象に残ったのは脚注の以下のコメント。

しかしながら、限界事例の解釈のみを気にすることによって、典型事例(眼前にいるAを狙ったところ、隣にいたBに命中したという場合)における判断をまさに「誤る」ことは本末転倒なのであり、ここに形式的思考の限界がある*5

本号のテーマは故意・錯誤論ではなく、「窃盗罪における占有の意義」なのだが、
上のコメントは、「占有」の意義を広範に認めることで判例との整合性を保とうとする
他説に対して向けられているものである。


大学時代の講義よりも、予備校のテキストに慣れ親しんでいる自分は、
方法の錯誤の処理といえば、当然「法定的符合説」だろう、
と疑いもしていなかったのだが、
つい最近、東大学派内の通説が具体的符合説と知って、
ある意味衝撃を受けたばかり。


判例があくまで批判の対象に過ぎない、というのが、
純粋な研究者の持つべき姿勢だと思うし、また特権だと思うが*6
受験生にはあまり優しくない・・・*7


ちなみに受験生受けの良い首都大・前田教授の本号の「演習」も、
ほぼ同じテーマを扱っているのだが、
そこでは同じ判例について、山口教授とは正反対の評価が示されている、
というのがまた面白い*8

債権回収法講義

森田修先生の連載は今回が最終回。
昨年の4月から読み続けているが、はっきり言って自分のような凡人には、
荷の重い連載であった(笑)。
一応、法教は学生向けに作られている雑誌のはずなのだが・・・


連載の最後に、きっちりと体系立てて過去の連載分を解説するあたり、
森田教授のこの分野の現在の第一人者としてのプライドが垣間見える*9

刑事弁護の技術と倫理

佐藤弁護士のこの連載は、毎回非常に興味深く読ませていただいている。
正直、企業法務をやっている今となっては、刑事事件に携わる機会は皆無に近いのだが、
学生時代の自分が、こういう先生とめぐり合っていたら、
おそらく今とは違う道を歩いていたことだろう*10

*1:大渕哲也=片山英二=上田実「鼎談・バイオと知財法の接点」法教300号12頁(2005年)

*2:野坂泰司「私人間における人権保障と人権規定の私人間適用」法学教室300号139頁(2005年)

*3:もっとも、「間接適用説」の規範に乗せたとしても、多くは人権侵害行為の違法性を否定する方向に向かうのであるが・・・

*4:小粥太郎「演習」法教300号184-185頁。ここでの素材は、山本敬三教授の公序良俗論と高橋和之教授の無効力説の比較。

*5:山口厚「窃盗罪における占有の意義」法教300号153頁脚注17

*6:企業法務担当者が同じことを言おうものなら、即座に担当者失格である。

*7:具体的符合説に限らず、山口先生の見解を使うのは試験対策としてはある意味自殺行為。論証&結果の妥当性に向けてのフォローが明らかに長くなってしまうから。

*8:前田雅英「演習」法教300号190頁(2005年)、山口・前掲152頁との対比。

*9:ちなみに、助手からストレートで教官ポストに付く「エリート研究者」が主流を占める東大において、師は博士課程から勝ちあがってきた「叩き上げの」研究者である。

*10:もちろん、今から違う道へ進む可能性もゼロではない。

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