「特許権侵害の罰則強化」

今日は仕事が変則ということもあって、
朝からのんびりと朝刊を開いた瞬間、
1面の記事を見てぶったまげた・・・*1

経済産業省は独創的な発明である特許権商品ブランドなど商標権を侵害した場合の刑事罰を懲役10年以下または罰金1000万円以下に引き上げる方針を固めた」

この前、特許庁が出したペーパーで
「見送り」の方針、と書かれたばっかりじゃないの・・・。
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060110/1136912459参照。)*2


しかも、議論の俎上に上がっていたのは、
特許法だけで、商標法、意匠法では懲役刑の引き上げは、
話題にすらなってなかったように思うが。

経産省は、現行では懲役3年以下か罰金300万以下としている意匠権侵害の罰則を特許と同水準にする方針だった。しかし与党から知財権侵害をもっと厳しく取り締まるべきだとの声があがり、特許や商標も含めて全面的に罰則を強化することにした。」

特許庁、形無しですな(苦笑)。
ここまでくると、少し同情したくなってくる・・・。


特許法などの改正案を今国会に提出し、2007年の施行を目指す」
ということなので、じきに改正案が俎上に上ってくるのだろう。


「悪質な業者」に対して民事責任の追及という手段が無力なのは否定しないし、
“刑罰”という強力なペナルティを課すことの必要性も否定しない。


だが、物事には、すべからく“バランス”というものがある。
刑罰を強化することの“インパクト”は、
プラス(違法行為の抑止効果)にも
マイナス(正当行為への萎縮効果)にも働きうることを忘れてはならない。


10年に引き上げる根拠としては、
「窃盗罪」との均衡性、という理屈が挙がってくるのだろうが、
「物の占有を奪う」という行為が誰の目から見ても
処罰に値する行為であるのに対し、
「他人の権利範囲を侵す」という行為に、
そこまでの可罰性があるのか、
さらに言えば、「侵した」という事実を
行為者自身が客観的に認識することが容易にできるものなのか*3
といったあたりについて、
もっと議論を深める余地はあるのではないか、と思う。


今後の当局の運用次第ではあるが、
「悪質な業者」に課すための“刑罰”が、
「悪質な権利者」に悪用される可能性、について
自分は一抹の不安を覚えている。


さらに、窃盗罪と同格の犯罪とするのであれば、
捜査する側の体制も、「窃盗罪」と同等の体制を整えなければならないだろう。
天下の警視庁でも、所轄の刑事のレベルになると、
「商標法と不正競争防止法の区別が付いていない」
といった実情があることは、看過してはいけないと思う。

「日本の改正法が成立すれば、世界で最も厳しい罰則となる。」


今回の改正に対する今後の各界の反応に注目したい。

*1:日経新聞平成18年2月28日付朝刊1面。

*2:さすがに「懲役10年」はありえないだろう、と思って、この時はたいした話題にもしなかったのだが。

*3:これは、過失は処罰しないから問題ない、という単純な話ではないだろう。

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