okeydokey氏のサイトで、
東京地裁平成18年3月31日判決に関する言及がなされている。
(http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20060408/1144427421)
教科書掲載著作物の著作権者が
「国語テスト」を発行する出版社に対して訴訟を提起したもので、
本件訴訟は、第二次訴訟にあたる*1。
okeydokey氏が指摘されるように、判決文は172ページにわたり、
そのうち、判決主文が21ページまで、
原告の請求がその後38ページまで続く、という長大判決で、
しかも当事者が争っている争点も多岐にわたる。
ゆえに、きちんと整理してまとめるには、
もう少し時間が必要なのだが、
とり急ぎ従来の同種の事件とは異なるように思える部分を挙げると*2
①「意に反する改変」にあたらないとして同一性保持権侵害を一部否定した点
裁判所が打ち立てた規範は、
「著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき、すなわち、通常の著作者であれば、特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは、意に反する改変とはいえず、同一性保持権の侵害にあたらないものと解される」
述べられていることは、決して真新しいことではないが、
この規範をしっかり述べた裁判例は決して多くないはずだし、
これまで、あっさりと同一性保持権が認定される傾向にあった
言語著作物(それも文芸作品)に関する事件で、
上記の規範を元に「挿絵や写真の付加」「傍線や波線の付加」といった点について、
「改変にあたらない」として同一性保持権侵害を否定した点については、
お?と思わせるものがある。
②著作権侵害事件における「損害及び加害者を知りたる時」の解釈
本件では、複製権侵害及び氏名表示権侵害について、
「損害及び加害者を知りたる時」の解釈に基づき、
損害賠償請求権に関する消滅時効の成立を認めている。
一方、同一性保持権侵害に基づく損害賠償請求権については、
異なる解釈を示し、消滅時効の成立を認めていない。
原告側が予備的請求として不当利得返還請求を行っているので、
不法行為債務が時効消滅したからといって
被告側が金銭支払を完全に免れるわけではないのだが、
裁判所は、不当利得返還請求について、
著作権法114条3項(損害額推定規定)の適用を認めず、
利得額の算定の基礎とすべき使用料率を引き下げることで、
賠償額を押さえている。
以上、本判決で述べられている裁判所の「理屈」に
画期的な理論はないが(36条1項該当性判断なども含め)、
事実認定、あてはめの段階で、
原告に対して裁判所がややシビアに振舞ったために、
結論としては、請求額に比べると、
比較的廉価な認容額に止まったように思われる。
以上、詳細については追って書くつもりではあるが、
予定はあくまで「予定」に過ぎないので、どうなることやら・・・。