リーニエンシー・ルール初適用

第1号が出るのは時間の問題、と囁かれていたが、
ようやくでた。

「旧首都高速道路公団(現首都高速道路)などが発注したトンネル用換気設備工事を巡る談合で、公正取引委員会は10日、談合を自主申告した三菱重工業石川島播磨重工業川崎重工業の三社に対し課徴金を免除・減額する方針を決め、各社に通知した。自主申告した企業の課徴金を減免する制度の初適用」(日経新聞2006年8月11日付け朝刊・第30面)

これによると、一番乗りは三菱重工業
三菱重工の申告を発端とした立入検査後に、
石川島播磨、川重が申告して30%減免。


一方、乗り遅れたのは、日立製作所、荏原で、
課徴金総額は約10億円の見通し、と明暗を分けた。


当局としては、「どうだ。すごいだろ。」と
言いたいところなのだろうが、はて、
この制度、本当に素晴しい、と手放しで喜ぶべきものなのだろうか?


今回問題となった談合で当事者となった企業のシェアについて、
筆者は、手元に何ら情報を持っていないのであるが、
堂々の一番乗りをした三菱重工にとって、
「トンネル用換気設備」はどれほどの意味を持つ事業だったのだろうか?


どんな巨大メーカーでも、強い分野と弱い分野を持っているわけで、
弱い分野では、大きなシェアを抱える他のメーカーや専業企業の
お付き合い程度の受注しかしていないことも多かったりする。


したがって、そのような巨大メーカーとしては、
自社の弱い分野で君臨している他のメーカーを蹴落とすために、
積極的な自主申告策に打って出ることによって、
自社のシェアを拡大し、トータルで見ればより巨大な企業へと
成長を遂げる、という戦略もとりえることになろう。


果たしてそれが、健全な企業競争のルールに沿った行為といえるのか、
個人的には疑わしいと感じている。


もちろん、「談合」は絶対悪!と考えている論者からすれば、
それでも最終的に談合がゼロになれば良いではないか、
という反論が来るかもしれない。


だが、健全な市場の発展のためには、一定の受注調整も必要だ、
というのは業界の人間、特に発注者サイドの人間なら
誰しも思っていることである。


ヒューザーのマンションの例を見るまでもなく、
“安ければよい”という発想だけで入札を実行するなら、
最終的にはユーザーたる一般市民がリスクを負わざるを得なくなる。
かといって、その他の要素を勘案しようとすれば、
恣意的な発注、という非難を浴びかねない。


さらに問題なのは、
仮に相応の技術力有する企業だけを客観的に選別して、
それらの企業のみによる“公正な入札”ができるようになったとしても、
そうなると特定の企業に受注が集中し、
寡占化が進む恐れがあるということ。


どのような状況下でも均等な品質を提供できるメーカー、というのは、
実はそんなに多くないのであって、
ゆえに、談合がまかり通っていた時代に比べると、
市場における競争者は大幅に減少することになる。


競争者の減少(=寡占化)が高コスト体質を招く、というのは、
これまでの歴史が証明していることで、
談合を止めてもコストはそんなに下がらない、
ということになれば、結局いたちごっこになるに過ぎない。


元々、少々のダンピングにも耐えられる財務体質を有し、
相応以上の技術力を擁するメーカーにとっては、
自分の受注機会を減らす談合に
さほどメリットは感じていなかったはずで*1
今後はそういった企業を中心に自主申告する企業が
増加するのは間違いない。


それを“法令順守意識の浸透”事例として手放しで賞賛するのは簡単だ。


だが、そのことによって、
真の意味でのメリットを社会が享受できるのか、
結論を出すのはまだ早いような気がしてならない。


いずれにせよ、これから始まるであろう
メーカー、ゼネコン同士の“仁義なき戦い”、
これ、相当な見ものである*2

*1:しかも自分が当該市場における後発企業であればなおさら。

*2:まずは日立がどこで報復するか、が注目であろう(笑)。

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