あぁ、やってしまった・・・
と思わせてくれる「三国屋建設」のプレスリリース。
(http://www.mikuniya-web.co.jp/sonbai.htm)
「今回の接触事故による弊社の賠償責任について」という
タイトルで始まるこの発表文、
「今回の送電線接触事故に関しまして、法的に損害賠償責任をお認めするには、クレーンが送電線と接触したことと、発生した損害との間に「相当因果関係」が必要となります。(民法709条、同法416条)。どういうことかと申しますと、クレーンが送電線と接触することにより、通常、予見される送電線の所有者の損害に限り、法的に賠償責任があることになります。」
という損害賠償論の基礎を「解説」した後に、
今回の事故では、
①送電線の損傷により停電が発生するかどうか、
②発生するとしても、どの地区がどのような停電になるのか、
③電力会社のバックアップがどうなのか、
等々が予測できなかった、
として、
「今回の事故によって電力会社から一時的に電気の供給を受けられなかったことにより発生しました一切の間接的な損害(停電によりパソコンが使用できなかった、及び故障した、エアコンが故障した、熱帯魚が死んでしまった等々)につきまして、当社には損害賠償義務はないものと判断致しました。」
という見解を述べている。
賠償責任を負う前提として予見可能性が必要、
という法律上の理屈については、
とりあえずこれで正しい、ということを前提にするとしても*1、
今回の事故に当てはめた時に、
上記のような“都合の良い”結論が導かれるかどうか、
疑問なしとはしない*2。
そして何より疑問なのは、
何でこんな見解をわざわざこの会社が発表したのか、
ということである。
本ブログでは以前、
シンドラー社の広報対応に疑念を呈したことがあるが*3、
(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060610/1149871842)
事故が起きて1週間も経たないうちに、
「責任逃れ」とも取られるような見解を公表した
「三国屋建設」の姿勢も、同じくらい稚拙なもののように、
思えてならない*4。
事故直後から、クレームや問い合わせが殺到して、
対応に困った会社側の窮余の一策だったのかもしれないし、
弁護士相談に行ったら、
先生から「そんなの賠償しなくてもいいんですよ」的なコメントをもらったので、
うれしくなって、つい弾みでコメントを掲載してしまったのかもしれない。
だが、「火に油を注ぐ」とは、
まさにこういうことを指していうのではなかろうか・・・。
今の時代において、
一部メディアが煽るような感情論に組することなく、
法の論理に則って問題を解決していこう、という姿勢は、
事故の当事者にとっても、
それを生暖かい目で見つめる側の我々にとっても重要なものだと思う。
しかし、死者こそ出ていないとはいえ、
今回の事故の被害が甚大なものであったことは間違いない。
我が子のように可愛がっていた熱帯魚を失った人もいるかもしれないし、
電車が止まったせいで人生を賭けた商談をフイにした人もいるかもしれない。
そういった“被害者感情”への配慮抜きに、
一方的な“法的見解”を発表する姿勢は、
やはり感心できるものではないと思う。
こういうことは、いざ訴訟なり、示談交渉になったときに、
“切り札”として切り出せば良いだけの話だ。
早々と手の内をさらした上に、
自分の企業イメージまで傷つけてしまう、というのでは、
なんとも恥ずかしい話だといわざるを得ない・・・。
(追記)
さすがに殺到した批判に懲りたのか、
同社は、8月21日付(上記リリースの4日後)に、
「お詫びとご報告」と題した見解を自社のHPにアップしている。
(http://www.mikuniya-web.co.jp/owabi.htm)
「なお、8月18日付で「今回の接触事故に対する弊社の賠償責任について」を公表させて頂きました。これに対する皆様からのお怒りやお叱り等が、数多く寄せられております。この発表に際しましては、決して弊社が責任逃れや責任回避を考えたわけでは無く、誠に遺憾ながら弊社の体力を考え、専門家に相談した結果、皆様にいち早く表明した方が良いと判断したことによります。」
「誠に遺憾ながら・・・」のくだりは切実ではあるが、
その回避手段が拙劣なものであることには変わりはないと思う。
ここでは、公表を助言した「専門家」の責任も
問われるべきなのかもしれない・・・。
*1:この理屈自体、最新の学説の動向に照らせば、素直に是認できるものかどうか疑わしいように思われるが・・・。
*2:特殊船舶を扱う事業者として高度の注意義務を負っている、という前提や、過去に同種の事故を起こしたことがある、といった当該業者の特殊性をかんがみると、送電線を切断した場合に(間接損害を含めて)どのような損害がもたらされるかを一定の範囲で予見することは可能であった、という結論を導くことも可能であるように思われる。
*3:それと同時にわが国のメディアの報道姿勢に対しても、疑問を投げかけてはいるのであるが・・・。
*4:実際、あちこちのブログやスレッドで怒りの炎が燃え上がっているようだ・・・。